悪党共を、紹介しましょう。
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今回は密売の仕事だった。
密売といっても、麻薬ではない。
イシヤマファミリーが抱えてる医療班が開発した薬だ。
“ゼブルドラッグ”―――回復力を高め、飛躍的に身体能力を上げることができる薬だ。
麻薬のような依存性はないが、大量に摂取すると命の危険に晒されてしまう。
薬の存在は一部の組織にしか知らされておらず、管理する男鹿と古市も慎重に相手を選んで売っていた。
指定先は海岸沿いのB倉庫。
ベンツから降りたのは、男鹿、邦枝、東条、神崎、そして姫川だ。
倉庫前には、別の黒車が3台も停まっていた。
それを目の端で確認した神崎は「たかが取引に…」と露骨に呆れている。
倉庫に入ると、柄の悪い黒服たちが、ざっと見て10人ほど、倉庫の奥で待っていた。
その中に、唯一白服の男がいる。
そいつがボスだ。
「ちょうど時間だな」
ボスが腕時計を確認して言うと、男鹿は「とっとと済まそうか」と片手に抱えた茶色の紙袋を見せつけた。
約束のゼブルドラッグだ。
「ああ…。…おい男鹿、おまえ子持ちだったのか?」
ボスの視線が男鹿の頭に乗っかって眠っているベル坊に移された。
「つっこむと思ったぜ」
そう呟いた男鹿は「気にすんな」と言って右手を差し出した。
「先に金」
ボスは口元に不敵な笑みを浮かべると、肩越しに部下を見てアゴで指した。
すると、ジュラルミンケースを持った部下が男鹿に近づき、それを差し出した。
受け取った男鹿はそのジュラルミンケースを足下に置いてしゃがみ、開けて中を確認した。
「…!」
入ってたのは金ではなく、麻薬の入った小袋が詰められていた。
それを見下ろすボスはくつくつと笑う。
「オレ達の商売柄は知ってるだろ? それを町の奴らに売れば、約束の金の倍は手に入る。喉から手が出るほど欲しがるようにできた、キツめのやつだ。ボロ儲けできるぞ、男鹿」
「………うちの取引のルールを知ってるか?」
男鹿は麻薬を見下ろしながら静かに言った。
「あ?」
「1つ、横流し禁止。2つ、一般人には使用禁止と他言無用。3つ、お支払いは現金だ」
「金のなる木を与えてやったろうが。さっさと渡せ」
ボスが懐に手を入れ、拳銃を構えようとした瞬間だ。
ドン!!
「ぐ…っ!?」
先に神崎が引き抜いてその手の甲を打ち、拳銃を弾き飛ばした。
すかさず、ケースの蓋を閉めた男鹿がそれを持って立ち上がり、思いっきり振りかぶってボスの頭上にケースを振り下ろした。
ゴッ!!
ボスの顔面は、見事に床にめり込んだ。
「「「「「ボスぅううううう!!!」」」」」
それを合図に、全員が動き出す。
邦枝は木刀を振るって敵をなぎ倒し、神崎はゴム弾の拳銃を使用して相手の脚を狙って動けなくさせ、東条は素手で拳銃を持った相手の頭をつかんで放り投げる。
「! 姫川は!?」
戦いの最中、邦枝は近くに姫川の姿がないことに気付いた。
同時に、悲鳴とともに数人の黒服たちが天井から落ちてきた。はっと上を見上げると、吹き抜けとなっている2階の通路に姫川がいた。
躊躇なく、ゴム弾で撃たれて動けなくなった黒服たちを通路から落としている。
黒服たちの手にはスナイパーライフルが握られていた。
「こいつで最後か、なと!」
最後のひとりを落とすと、姫川は欄干にもたれて男鹿達を見下ろした。
「隠れてるやつらに狙われてたぞ、おまえら」
「いつの間に…」
呟く神崎は、姫川がいつ通路に上がったのかさえ気づかなかった。
おそらく、倉庫に入ってすぐだろう。
「車の数からして、他にもいるとか考えるだろ。バカじゃねーのおまえら」
憎まれ口は相変わらずだ。
神崎と邦枝の額に青筋が浮かぶ。
「調子に乗ってると撃ち落とすぞコラァッ!!」
そんな中、フ、と笑う男鹿の口元。
取引先の組織を全員土下座させた写真を撮ったあと、男鹿達はベンツに乗って帰路を走っていた。
車内のBGMは後部座席の左にいる東条のいびきにかき消される。
後部座席の右に座る姫川は、途中で、「なぁ」と助手席に座っている男鹿に声をかけた。
「てめーオレを試しただろ?」
その問いに男鹿は淡々と答える。
「今回の取引先の取引のクソなやり方は知ってた。だからウチもずっと断り続けてきたんだが、おまえがどういうアクションをとるか…」
「わかったうえで取引に応じた…と。なるほど。胸糞悪いことしやがる…」
姫川は舌打ちをして窓の方にそっぽを向き、ふと思った疑問を口にする。
「やり方はどうであれ、あのドラッグは確かに値がつくぞ。…現金にこだわる理由はなんだ?」
「古市が嫌がるからだ」
「…………ん?」
問いの答えはそれで終わりだ。
続きを待っていた姫川は怪訝な顔をし、神崎は意味ありげに笑っていた。
「―――まあ、とりあえず姫川、おまえ合格。おめでとう。しばらくは神崎の下で働いてもらうからな」
「こいつの下で…」
不服そうな眼差しを向けると、神崎はしかめっ面で「なんだその顔は」と声を荒げた。
*****
それで、めでたくイシヤマファミリーの一員として迎えられた姫川に、部屋が与えられた。
「って、オレの部屋じゃねえかっ!!」
神崎の部屋に変わりはなかった。
神崎のベッドに寝転んで本を読む姫川は、別に気にしないといった様子だった。
「空き部屋がねえからだとよ。気にすんな。オレはベッドが狭くて気にするほど、心まで狭くねえから」
「っざけんなコラァ!! 出てけ―――っ!!」
ちなみに男鹿は、「文句があるならこれで寝ろ」と、寝袋を渡していたそうな。
.To be continued