悪党共を、紹介しましょう。
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姫川が自分の名を口にしたその2日後、男鹿は自室に神崎を呼び出した。
デスクに座るその傍らには当たり前のように古市もいる。男鹿が聞きたいことはわかっていた。
切りだす前に、神崎は姫川について語った。
「姫川が追われている身かどうかはわからずじまいだ。…薬のせいで、記憶も少しばかり飛んじまってるらしい。ただ、なにかから逃げてたことしか…」
そう報告すると、古市は「オレも、姫川について調べましたが…」と印刷した紙を取り出した。
「姫川竜也…。各地を転々としている用心棒ってことしか判明してません…。その前の経歴が消されているのが引っかかりますが…」
ただわかっていることはそれだけだ。
「――で、このガキは?」
男鹿は頭の上でスヤスヤと眠っている赤ん坊を指さすと、神崎は「ああ、そいつは…」と思い出したように言う。
「あいつの息子じゃないらしい。…途中で拾った、と」
「拾った!?」
古市は驚いて声を上げた。
まさか向こうも同じように面倒を拾ったのではないかと。
「名前が確か…」
神崎は持ってきていた、赤ん坊が包まれていた布を取り出して広げて見せた。
そこには、雨のせいで文字が滲んでしまい、“ベル”としか書かれてなかった。
「ベル…からあとはわからねーが、たぶんそいつの名前だ」
「んじゃあ、ベル坊だな」
そう言って男鹿はベル坊の頭を撫でる。
ベル坊は静かな寝息を立てまま起きない。
「それで…、いきなりその坊主ごと追い出すのもアレだし…、しばらくここで働かせてやるってのはどうだ? つうか、オレからも頼むわ」
極力ボスに頼み事をしない神崎が、言いにくそうに頼んだ。
「オレは別にいいぜ?」
「男鹿、そんなあっさりでいいのかよ」
「人手が足りねえってこの間愚痴ってたのはてめーだろ、古市」
「そりゃそうだけど…」
古市は気乗りではなかった。
素性も詳しく知れない相手なのだから警戒するのは当然だ。
神崎だって2度も殺されかけたのに、どうして傍に置けるのか、理解できない。
「相手はそれで納得してんのか?」
「一応な。他に働きどころがねーそうだし」
頷く神崎に、男鹿はデスクに置いたケータイを手に取り、番号を押し始めた。
「メンバーはこっちで集めておくから、姫川呼んでこい」
「おう」
神崎は短く返事を返し、男鹿達に背を向けて部屋を出ていく。
男鹿は耳に当てたケータイのコール音を聞きながら、ドアが閉まるのを見送り、横目で古市を見た。
「心配すんな、古市。オレだって警戒心くらいはある。…おまえは今夜の取引相手と連絡してくれ」
「……わかった」
不服そうな表情を残し、古市は隣室へ続くドアへと歩み、ドアノブに手をかけたところで、あれ、と思い出す。
(そういえば、今日の取引相手って…)
男鹿の部屋にメンバーが集まったところで、姫川は神崎に続いて部屋に足を踏み入れた。
その姿は、頭はスーパーロングリーゼント、目には色眼鏡をかけている。
最初神崎に連れてこられた時のサラサラヘアーのイケメンはどこへ行ってしまったのか。
男鹿と古市はぎょっとしていた。
「「どちら様???」」
「あ? こっちに来た時、オレの顔見てるだろ?」
なにを言ってんだ、というように姫川は男鹿と古市の失礼な反応に顔をしかめた。
「完全に別人じゃないっスか!!」
つっこみ担当の古市がやっぱりつっこんだ。
「ほれ見ろ。同じ反応だろうが」
その変貌ぶりに、神崎は誰よりも最初にその姿を目にし、同じ反応をしていた。
別人のあまりどっちがビフォアでどっちがアフターなのかさえわからない。
「……この髪型じゃねーと人前に出たくねーんだと」
ポマードを買いに行かされた神崎はうんざりするように言った。
「なにもそこまで警戒しなくても…」
「単にこの髪型が好きなだけだ。むしろポリシー」
きっぱりと古市に言い返す姫川。
「こいつの感性も理解不能だな」
男鹿はそう言って肩を落とした。
「改めまして、だ。オレの名前は姫川竜也。しばらくここで働いてやるから、夜露死苦だこのヤロウ」
見下すような目とともに自己紹介。
「なんで上から目線!? そのダセェリーゼント墓標にして埋めたろかっ!」
姫川の態度に苛立った男鹿は青筋を立てて言い返す。
神崎も、ここまで性格がねじ曲がっているとは思わなかった。
「おまえ絶対友達いねーだろ」
「ロンリネス最高」
むしろ誇らしげに即答する姫川。
「男鹿、オレらも紹介しようぜ。話進まねえよ」
殴り合いになる前に、古市が肘で男鹿の腕を小突いて促すと、男鹿は舌打ちし、自己紹介を始める。
「イシヤマファミリーのボス・男鹿だ。部下の自覚がねーなら路頭彷徨わせんぞリーゼント」
「喧嘩腰はやめろってボス。…オレは出納係兼ボスの秘書の古市です。好きなものは女子っ!!」
「聞いてねーよ」
こちらも誇らしげに自己紹介した古市に、姫川は冷たく返す。
「んで…、ここで幹部の紹介」
男鹿に続き、古市が「どーぞ」と言うと、それを合図に先に神崎が言い始めた。
「イシヤマファミリー幹部・神崎一だ。で、オレの下についてるのが、夏目、城山」
背後で待機していた夏目と城山が前に出てくる。
「よろしくね、姫ちゃん」
「共に神崎さんを支えよう」
「チャラいのが夏目。暑苦しいのが城山な」
「だからいちいち喧嘩腰に言うなって。一言二言多いぞっ」
頷く姫川に神崎は「こら」と注意する。
「…で、そこの女共は?」
壁際に横一列に並ぶ女達6人に姫川は振り向き尋ねた。
「私は、幹部の邦枝葵。このコたちは私の部下で、大事な仲間の、大森寧々、谷村千秋、花澤由加、飛鳥涼子、梅宮薫」
邦枝は右から順番に紹介していく。
「へぇ、美女の集まりだな」
姫川が順番にゆっくりと見回すと、邦枝は大森達の前に出て、腰から抜いた木刀の先端を姫川の鼻先に向けた。
「変な気は起こさないことね。せっかく治った傷口開かれたくなかったら」
冷たい眼差しを向けながら警告するように言う邦枝に、気の強い女は嫌いではないのか、薄笑みを姫川は「はいはい」と小さく両手を上げた。
「さすが幹部。怖いねぇ。…で、まさか幹部ってたった2人だけか?」
部屋にいる者はこれで全員だ。
「あー…、実はもうひとり幹部がいるんだが、そいつ今、中国に出張中で…」
神崎がそう言った時、タイミング良くドアが勢いよく開けられた。
「帰ったぞてめーらぁっ!」
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