悪党は、責任を持ってお世話します。
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男は夢を見ていた。
“裏切者…!”
“裏切り者め!!”
“裏切者―――!!”
「裏切り者」と罵倒する黒い影達に追いかけられ、伸びてきた2本の黒い腕が、自分の喉をとらえ、容赦なく締め付ける。
“死んでしまえばいいのに…!!”
はっと目を覚ますと、視界には金髪の男―――神崎の顔があった。
目が合う2人。
「お、おお、気が付いたか」
男が反射的に神崎のベッドから上半身を起こし、懐に手を伸ばしたが、目的のものをつかむことはおろか、それをしまっていた上着さえなく、上はシャツ1枚の姿にされていた。
「てめーの物騒なモンは取り上げさせてもらった。そう警戒すんな…。なにもしねーよ」
「……………」
怪訝な顔をする男の表情は緩まない。
それ以上近づくな、というように神崎を睨みつけている。
「…!」
すると、急に眩暈がして、右手で目を覆い、その手に包帯が巻かれてあることに気付く。
右手だけでなく、胴体や顔にまで、ガーゼやら包帯が見当たった。
神崎は男を寝かせたベッドの脇に腰掛け、「薬打たれてんだろ? ムリに動くんじゃねえよ」と声をかけ、水の入ったグラスを目の前に突き付ける。
「おまえが連れてた赤ん坊なら、うちのボスが面倒見てくれてる。オレもそっちまで手が回らねえからよ。もちろん、赤ん坊にだってなにも……」
バシャッ
そこまで言いかけると、いきなりグラスを引っ手繰られて顔にかけられた。
「……………」
「……………」
先程風呂に入ったばかりの神崎。
かけられたのは水だったが、頭が冷めるわけでもなく、ただでさえ沸点の低い彼をキレさせるには十分だった。
「てんめー…、このヤロ―――ッッ!!」
「…っ!!」
ベッドから転げ落ちてもみ合いになる2人。
ドア越しから中の様子に耳を澄ませていたのか、すぐに夏目と城山が突入してきた。
「はいはいどーどーっ!」
「神崎さん! 相手はケガ人ですよっ!」
「オレもケガ人だバカヤロウ!!」
神崎と男は鼻息荒くし、睨み合い、突入してきた2人に羽交い絞めされながら引きはがされる。
神崎が「一発殴らせろてめー」「この反則顔が」と喚き続けているのに対し、男は、ふん、と鼻を鳴らして相手にするのも馬鹿馬鹿しいというように顔を背けた。
「ネコとイヌの喧嘩みたい★」
「夏目、せめて内心で呟け」
「その楽しげな表情も隠すべきだ」と城山にたしなめられた。
男はなにも喋らず敵意を剥きだすように神崎達を睨み、かと言って逃げる様子もなく、3日間、神崎のベッドを占領していた。
抜き身の刀、引き金をかけられた拳銃、彼の纏う空気はそのようなものだ。
本当に寝ているのかと思うくらい、神崎が部屋に足を踏み入れればいつでも反撃できるようにと身を起こした。
それと、アジトに連れてきてから、食事どころか水分も口にしていない。
余程、他人が与えるものに警戒している様子だ。
今日も、用意しておいた昼食を一口も食べなかった。
神崎は下げたトレーを持って2階の食堂に現れる。
「今日も食べなかったんですか…」
そこには、男鹿と古市、そして男鹿の膝にちょこんと座っている赤ん坊がいた。
最初は文句を言っていたものの、すっかり馴染んでいる。
傍から見たら親子のようだ。
「おう…」
神崎はその向かいの席に座り、男が手をつけなかった食事を食べ始める。
残すことを考え、昼食はわざと取らなかった。
すっかり冷めきったリゾットに顔をしかめるも、スプーンで口に運び、咀嚼する。
「あ、神崎先輩、3日前、この赤ちゃんとあの人を拾った日の表から裏の報道を調べてみたのですが…、この近辺で目立った事件が起こった情報はありませんでした…。誘拐事件も…」
「まあ、裏街内だと、この辺りはまだ平和なほうだからな…」
そう言って男鹿は大きな欠伸をし、テーブルに伏せて寝ようとした。
赤ん坊も男鹿の背中によじ登り、大きな欠伸をして眠りはじめる。
「手懐けるの早すぎじゃね?」
「元々懐いてはいましたからね。男鹿に。なんでだろう…」
古市は首を傾げ、心底不思議そうな顔をしながら赤ん坊の頭を撫でた。
「こっちはメシも食わねえ、「ワン」とも吠えねえ、オレのベッド占拠中の駄犬に苦戦中だ。…環境の変化による、ストレスか?」
「もう人間扱いしてませんね」
拾ってきただけに。
「昔のおまえみたいじゃねーか」
「あ?」
男鹿が伏せながら言ったので、神崎は少し荒っぽく聞き返す。
「近づけば、すぐに爪で引っ掻いてくる駄猫」
「……………夏目と似たようなこと言いやがって」
「似たようなモン感じたから拾ってきたんだろが。このガキのことは仕方なくこっちで面倒見てやるから、てめーは大きい方をちゃんと世話しろ。オレ達のアジトに、死体出すんじゃねえ」
「エラそうに言うな。わかってんだよ。人と話す時はちゃんと顔上げて話せボケ」
舌打ちとともにリゾットの最後の一口を食べた。
「…電子レンジでチンすればよかったんじゃ?」
「食い終わってから言うなっ!!」
古市の指摘に、スプーンをテーブルに叩きつけて怒鳴った。
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