悪党は、黒猫を追います。
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魔境の中にある無人の住宅街で、神崎、姫川、夏目、花澤は無線を使って連絡を取り合っていた。
ボスの行方は最初は曖昧だったものの、目撃情報を頼りにたどり着けば、運よくそれらしい姿を見つけることに成功したのだ。
分かれて捜索し始めてしばらく経つと、4人の無線機が雑音を立てた。
「こちら神崎。ボスを発見した。位置はGPSでわかるよな? オレの前方、目測5メートルほど」
「こちら夏目ー、花澤さんと合流して向かいまーす」
「了解っス」
「……………」
「姫川」
「はいはい。…向かい側から挟み撃ちする」
姫川はやる気がなさそうに言った。
姫川の位置と声を確認した神崎は、「よし」と無線機を胸元にかけてGPSに目を移す。
分かれたメンバーはこちらに近づいていた。
タイミングを見計らい、ボスを捕獲しようといつでも動き出せるように心構える。
曲がり角からボスの様子をとらえる。
幸い、こちらに気付かず道の真ん中に座り込んで呑気に欠伸をしていた。
再び無線機が雑音を立てた。
「こちら夏目。ターゲット確認」
「こちら花澤。夏目先輩のすぐ横にいまーす。色は黒、首には赤のスカーフ、性別は男で間違いないっスね」
「こちら姫川。男かは見た目じゃわかりにくいだろ。適当言うな、花澤」
「怒らなくても…」
「オレだってこんなことで苛立ちたくねーよ」
「んなことより、姫川、おまえの立ち位置は…」
「ちょうどおまえと同じ距離だ。こっちも発見した。まあ、ほぼ間違いなさそうだな」
依頼書に載せられてある写真とほぼ一致している。
「いいか。ヨー・グルッ・チ! で飛び出すぞ」
「1・2の3! でいいだろ! 絶対タイミングずれるから!!」
仕方がないので姫川が指摘した合図で動くことになった。
「1」と神崎。
「2の」と夏目。
「3!」と姫川。
いざ飛び出そうとした時だ。
「4!!」と花澤。
「「「!!??」」」
まさかの追加に他の3人はガクリと体を傾けてしまう。
「!!」
それに気づいたボスは慌てて塀の向こう側へと逃走してしまった。
「逃げたよ!」
「てめー数字追加してんじゃねえよパー子ぉ!!」
「ウチら烈怒帝留じゃ4までなんスよ」
「知るか!!」
合流して追いかける神崎達。
塀を乗り越えてあとを追うが、ボスはすばしっこく、なかなか追いつかない。
「見失うんじゃねえぞ!! くそっ、足には自信があるが…」
「いやそもそも相手、人間じゃねえだろ」
「うにゃーっ」
『ボス』とは、飼い主から逃走中の黒猫のことだ。
追いかけてくる神崎達から必死に逃げている。
「大丈夫っスよー。怖くないっスよー」
花澤は呼びかけながらオモチャの猫じゃらしを振るが、ボスは見向きもしない。
神崎達はどこまでも追いかける。
屋根の上だろうと、廃屋の中だろうと、ドブの中だろうと。
「にゃーっ」
今度は狭い路地の中へと入ってしまう。
「待てコラァ!!」
当然そこへ入ろうとする神崎達だったが、
「!!」
「いででで!!?」
神崎、姫川、花澤が一気に入ろうとして詰まってしまう。
「てめーら一人ずつ入れバカヤロウ!!」と姫川。
「ここはレディーファースト…きゃあ!!」
最初に進もうとした花澤が転んでしまい、スカートの中が丸見えになってしまう。
「「……………」」
「何ガン見してんスか!! 起こしてくださいよーっ!! 動きにくさパネェー!!」
起き上がることが出来ないので背中の服を引っ張って起こす。
どうしてこんな走る仕事にスカートを履いてきたんだと男子3人は呆れた。
ボスの姿は見えなくなったが、この道を通るしかない。
神崎、姫川、花澤、夏目の順番で路地の向こうへと進む。
「ったく、たかが猫になんてザマだ」
「たかが猫でも、オレ達にとっては大事な依頼だからね。常連さんの信用に関わることだから」
「そーっスよー。あとお金ももらわないと」
「おまえら毎回こういう依頼されるのかよ。便利屋じゃねーか」
「小さなことからコツコツとだ。これが本業って言っても過言じゃねえな。ゼブルドラッグじゃ、買い手も選ぶし、あまり世間に出回らせたくねぇ」
「殺しはしねぇからって安請け合いもいいとこだ」
「まぁまぁ、平和な仕事の方がどちらかと言えばやりがいはあるよ」
「…魔境に平和なんて存在しねぇよ。血生臭いもんばっかだ」
「案外、そうでもねぇよ」
「てめぇらが直視してねーだけだ」
姫川の言葉に苛立ちが含まれた。
思わずビクッとする花澤。
「……………」
神崎はそれ以上言わず、黙々と先へ進む。
長い路地を出ると、古びた館の前に到着した。
人の気配はなく、鉄の柵が半開きになっている。
新しいアジトより小さいが、金持ちの家には違いない。
微かにすすの匂いが漂っている。
家のところどころから焼け跡が見つかる。
「燃えきれなかったけど、そのまま捨てられたようだね」
夏目は館を見上げて呟き、鉄の柵に触れた。ほとんど錆で覆われている。
「お化け屋敷みたいっスね」
「……………」
姫川は無言で見上げている。
「…姫川?」
夏目と花澤が門を潜るが、いつまで経っても動かない姫川に神崎は怪訝に思って声をかけた。
はっとした姫川は、薄暗い表情で神崎のあとに続く。
(焦げた臭い…。吐き気がする)
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