悪党は、黒猫を追います。
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魔境にある、廃墟と化したボウリング場。
赤星と男鹿は2人だけで会い、ボウリングで勝負しながら話し合っていた。
システムは起動していないので、ピンを倒しても自分で立てなければならない。
ボールも戻ってこないので使用していないボールを新たに出さなければならなかった。
ガコン、と赤星の投げたボールでピンが半分倒れる。
油も塗られておらず滑りも悪いレーンに赤星は舌を打った。
次の番を待つ男鹿は、ボウラーベンチに座りながら赤星に手渡された手配書を見ていた。
手配写真は、髪を下ろした姫川が映っている。
姫川の名を知らない者が依頼したのだろう。
手配書に名前は存在せず、しかし、その人物を殺して首を持ってきた者には、10億の賞金が手渡される。
「奈須のとこだけじゃなくて、灰沢も同じ手配書を持ってきた。魔境中に出回ってるようだな。近々、おまえんとこにもまわってくるだろうよ」
赤星はそう言ってもう一度ボールを投げる。
残ったピンがすべて倒れ、スペアを出した。
「……………」
「おまえんとこの新人だろ、そいつ。手配される奴は無所属のチンピラか、組織を裏切って逃走中の野郎ばかり。10億なんざ今まで見た事ねぇ金額だ。何やらかしたんだ?」
ピンを立て直しながら尋ねる。
男鹿は目の前の埃の積もったテーブルに手配書を放って答えた。
「拾って3ヶ月。もう『新人』じゃねーよ。…あいつ、半年以上前の記憶をなくしてるらしい。だから、あいつが何をしでかしたのかオレ達が知ってるわけねーし、あいつも覚えてねー」
「へぇ。軽度の記憶喪失? 嘘かもしれねえのに?」
「決めつけるなよ。実際、薬を打たれた痕だってあったんだ」
神崎が拾ってきたことを思い出す。
今でも、あの腕の注射器の生々しい痕を覚えている。
男鹿は立ち上がり、自分に合ったボールを手に取ってレーンの前に立った。
「男鹿、おまえとは揉めたくねぇから、目の前の大金に目ぇつぶってやってんだ。他の同盟の奴らもそうだろうよ。…けど、おまえの仲間はどうだ? 裏切り者が出るかもしれねえだろ」
金に目を眩ませる人物が絶対にいないとは限らない。
確証がないのだ。
それでも男鹿は前を見据え、ボールを投げた。
迷いが一切ないことを示すように、ボールは一直線に進んでピンをすべて倒し、ストライクを出す。
「ウチのもんは、そんなはした金に突っ走るような奴はいねーよ」
答える男鹿の眼差しも、真っ直ぐだ。
ボウラーベンチに座る赤星は、フ、と笑う。
「そこまでアイツにこだわる理由はなんだ? 頭が切れるからか?」
「神崎が連れてきたからだ」
それ以外の理由が何もないのだろう。
男鹿は言い切った。
赤星は宙を見つめ、呆れるように頭を垂らす。
「……長生きしねーぞ」
「オレの目標を達成するまでは、長生きしてやる」
赤星を見下ろし、力強い笑みを見せた。
顔を上げた赤星は、小さく笑う。
「バーカ。『オレ達の』だ」
目標は同じだ。
そのための同盟なのだ。
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