悪党も、爆弾にはご用心。
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「チッ」
舌を打った赤星はケータイを閉じて男鹿に振り返り、首を横に振った。
「ダメだ。灰沢と茂盛の奴ら、電源切ってやがる。大事な場所では電源落としとけって言ったのはオレだけどよ…」
仕方なくメールだけ送り付けておく。
そのあと、トイレから奈須が戻ってきた。
爆弾は手の中にあるのに解放感に満ち溢れた顔だ。
「ふぃ~…。すっきりしたナリ~☆」
「おい、鬼束はどうした?」
神崎が問うと、奈須はヘラヘラと答える。
「トイレのあと、みんなと顔合わせにくいから帰るって。あ、奈須のことも任せた、ってさ」
わかる、とその場にいた全員が同情した。
自分のボスのズボンを下げ、そのことがこの場にいる全員知られているのがどれだけ居た堪れないか。
「…とにかく、処理に取り掛かるぞ」
改めてナイフを手に菓子箱に近づく赤星。
男鹿達は、ソファーやテーブルを盾にしてその様子を見守った。
中を傷つけないように、赤星は側面を端から少しずつ切っていく。
“アン”
「…は?」
気のせいか、アナウンスが喘いだ気がする。
気を取り直してゆっくりとナイフを突き立て、裂いていった。
“ダメェ~。優しくして~”
「「キモッ!!!」」
奈須もドン引きだ。
「なんだそのふざけたアナウンス!!」
聞いてしまった神崎も思わずつっこんだ。
「こっちが聞きてぇよ!!」
さっさと終わらせようと切り取り作業を続ける。
その間、アナウンスは“ああああ~”と喘ぎ続けた。
「慎重に頼むっちゃ!」
「よし、取れたぞ」
菓子箱の中には当然ながらお菓子ではなく、デジタル時計とそれに繋がる大量のコードがあった。
時間は数秒ずつ後退している。
残り時間は2時間だ。
まだ余裕はある。
「クソ。めんどくせーな」
“はぁ、はぁ…。……ヘタクソ”
ブツッ
先にアナウンスのコードを迷いもなく断ち切って黙らせた。
「ぎゃははははっ、下手くそって(笑)」
奈須は露骨に笑い、赤星はナイフの刃先でその指をつついた。
「てのひらだけ残して指全部切り落とすぞ」
「おっそろしいこと口走るナリね!」
最初に基本的な安全コードから切ろうとした時だ。
突如、タイマーが2時間から2分に切り替わった。
「「「「「!!!??」」」」」
仰天する男鹿達。
「………アナウンスのコードを切ると、タイマーが短縮される仕組みになってたようだな。よくできてるぜ」
口角を上げる赤星。
「「冷静に解説すんな!!」」と男鹿と古市。
「2分だぞ!!」と神崎。
「どうにかできんのかよ!!」と姫川。
「短い人生だったっちゃ…」と奈須。
「騒ぐな!! プロなめるなよ!?」
怒鳴った赤星はコードを確認しながら順番に一本一本切っていく。
時間が短くなるほど焦るものだが、赤星は冷静だ。
リビングには秒針の音だけが響く。
残り時間が30秒になった頃、あっという間にコードは5本だけとなった。
慎重に、位置を確認しながらゆっくりと切っていく。
奈須も大人しく赤星が爆弾処理をし終えるのを待っていたが、 言葉も発せないほどの緊張感の中、不意に鼻にむず痒さを感じた。
(……鼻が…っ、痒くなってきた)
掻きたいところだが、両手は未だに束縛されたままだ。
赤星と男鹿に頼もうとしたがそれどころではない。
解除まであと少し。
微動だにできなかった。
(く…っ、耐えろオレ…!!)
むずむずとする鼻の痒みに耐える。
そのうちどこかに行ってくれると信じて。
(あ、おさま…)
「ハックション!!!」
瞬間、予兆もなく大きなくしゃみが出てしまった。
ジョキ…
「あ」
その際赤星は、最後の2本のうちの、絶対に切ってはならないコードを切ってしまった。
ドォン!!!
大きな爆発音とともに菓子箱から飛び出したのは、大量の紙テープだった。
男鹿達は唖然とする。
「「…あれ?」」
尻餅をついた赤星と奈須も、ひらひらと降ってくる紙テープを見上げた。
その中に、一枚の四角い紙きれが古市の足下に落ちる。
「…?」
拾った古市はそこに書かれた文字を読んだ。
“ドッキリ大成功☆ 赤星、おまえが日頃刺激に飢えてるとぼやいてたからオレ達からサプライズプレゼントだ。直接おまえの驚いた顔を目撃できないのは残念だが、戻ったら感想を聞かせてくれ。怒るなよ? 灰沢&茂盛 他・ヒアブリファミリー一同”
菓子箱の正体は、赤星を引っかけるために用意された時限式巨大クラッカーだった。
紙テープまみれになった男鹿達はキョトンとした顔をし、赤星と見つめ合った。
「あー、なーんだ、ただのサプライズだったんだ」と古市。
「よくもまぁ手の込んだことを…」と陣野。
「たまたま奈須が引っかかっただけか」と姫川。
「そーみたいだっちゃ☆」と奈須。
「いや~、あいつらめ。帰ったら説教だな」と赤星。
「おまえの部下も楽しい奴らばっかだなぁ」と男鹿。
「「「「「あっはっはっはっはっは」」」」」
笑い合う男鹿達。
男鹿と神崎は笑いながら赤星と奈須の肩を叩き、胸倉を強くつかんだ。
「「「「「帰れ」」」」」
男鹿、神崎、姫川、陣野、相沢に同時に蹴飛ばされアジトから追い出される奈須と赤星。
放り出された2人はアジトの前で転んでいた。
「…てめぇのせいだぞ、なすび;」
「元はといえば、そっちの部下のせいナリよ」
「なすび!」
2人は体の土埃を払いながら立ち上がると、声をかけられた方に振り向いた。
日野がこちらに手を振りながら走ってくる。
「あ、パックマン」
「爆弾は…」
「解決したっちゃ」
「睨むなよっ」
奈須は赤星を軽く睨みつけながら簡潔に答えた。
詳細はあまりにもしょうもないので言いたくなかった。
「心配してきてくれたっちゃ?」
駆けつけてきてくれた日野に、奈須は嬉しそうにその頭を撫でた。
「まあ、無事ならよかったけど…」
そう言いながら、日野は帽子をとってその内側に隠していた1枚の紙を取り出して奈須と赤星に見せつける。
紙は、一般には公開されない、魔境だけの手配書だ。
手配書を発行している組織が潰されるのを恐れ、有名な組織の人物を指名手配するのはムリだが、それ以外ならば、高額な値段で申し込むだけで指名した人物の手配書は発行され、一部の賞金稼ぎ達に配られる。
生かして捕らえるか、殺して首を切り取るか。
希望は依頼人次第だ。
「これも見せに来た。新規リストあったのを見つけた。昨日更新されたばかりだよ」
「「!!」」
日野が渡した手配書には、髪を下ろした姫川の顔写真が載せられてある。
写真の姫川は流し目で真剣な表情をしていた。
普段リーゼントなのでいつ撮影されたものだろうか。
驚くのはその額だ。
殺した者には賞金10億円が渡される。
「こいつ…」
赤星は車庫で見かけた髪下ろしバージョンの姫川を思い出した。
手配書を凝視している2人に日野は説明する。
「…明らかに他の手配書と違うのは、首の名前、犯した罪、手配した依頼人も不明ってことかな」
「「……………」」
男鹿達は知らないだろう。
いずれただ事で済まされない事態になるのは目に見えている。
赤星は男鹿達のアジトを見上げ、呟く。
「あいつら…、めんどくせぇ爆弾抱えちまったな」
*****
その頃アジトでは、リビングに散らばった紙テープをホウキとチリトリで片付けている、神崎、姫川、陣野、相沢、古市の姿があった。
「片付けさせてから追い出すんだったな…」
「チッ…」
.To be continued