悪党も、爆弾にはご用心。
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その日、イシヤマファミリーのアジトの一角にある車庫で、姫川と神崎はシャツの袖をまくってホースとスポンジを使用し、所有している車の洗車をしていた。
どちらも好きでやっているわけではない。
一時的とはいえ、家出をして騒ぎを起こしたバツだ。
神崎までさせられているのは保護者だからだ。
「要は面倒だから押し付けただけだろうが。家出騒動から数日経過して今更バツとか…」
男鹿の手で丸められてゴミ箱に捨てられた書き置きを思い出しながら口を尖らせる姫川は、泡の付着したスポンジでフロントガラスを拭く。
「トイレ掃除よかマシだろが。口より手ぇ動かせ」
「冷てっ! まだ拭いてんだからホースこっちに向けんな!」
フロントガラスにかかった水が跳ね返り、少量だけ顔にかかってしまい、肩で拭った。
神崎も姫川と同じく不服そうな顔をしている。
なぜオレまで、と顔に浮かんで見えた。
「車の下はそのフランスパンに洗剤たっぷりつけて拭きやがれ」
思わず想像してしまう。
「オレのリーゼントはマツイ棒じゃねーんだよ! そろそろホースとスポンジ交換しようぜ。オレだってホース使いてぇよ」
「バーカ、早いモン勝ちだ!」
「ジャンケンだったろが!」
「黙れ。しめらせるぞそのパン」
「いつまでもパンネタに変えんじゃねえよ!」
水を出しっぱなしにしたままのホースの奪い合いをしていると、急に水が止まった。
「「?」」
蛇口もひねってないのにとホースの穴を覗き込んだ瞬間、
「「!!?」」
神崎と姫川の顔面に一気にホースの水が噴き出した。
「アンタ達、ホースで遊ぶなら外でやりな」
声の方向に振り向くと、ホースを繋いだ水道の傍に大森と谷村が立っていた。
蛇口をひねったのは大森だ。
厳しい目つきで2人を睨んでいる。
「あたしらのバイク、今整備中だから。水かけてサビさせたら許さないよ」
指をさされた方に視線を向けると、6人分の赤いバイクが並んであり、すべて邦枝達のバイクだ。
側面には黒文字で『レッドテイル』と書かれてある。
「それ、全部おまえらのか?」
「そう。出かけるためのあたしらのアシ。指一本でも触れてみな」
姫川の問いに大森は棘のある口調で答える。
大森が男ならば睨み返しているところだが、女相手にムキになることかと結果複雑な顔になった。
「言っとくけど、あたしはまだアンタを信用したわけじゃない。別に、あのまま出て行ってくれたってかまわなかったんだから。今度は2度と帰って来ない家出をしてよね」
それだけ冷たく言い捨てると、大森は車庫から出て行った。
「よそ者は風当たりが強いな」
「新人はそういうもんだ」
肩を竦めて苦笑する姫川に言いながら、神崎は再びホースの水を出そうと水道に近寄った。
「!」
その時、大森の傍にいた谷村が姫川に歩み寄る。
ラミアの次に小柄な谷村を見下ろし、その瞳に大森のような敵意が纏ってないことを見た。
「あの…、気にしないでください。寧々さん、本当は優しい人なので…」
「……大丈夫だ。えーと、谷村…だっけ? 谷村こそ、気にしなくていいんだぜ?」
微笑みを浮かべた姫川は谷村の肩を優しく叩く。
谷村は普段無口なので、まともに会話したのはこれが初めてだ。
そのあと谷村は会釈し、大森のあとを追いかけた。
「…気を許してくれたからって食うんじゃねえぞ」
「食うか!! ケダモノ扱いすんな!!」
「うるせぇ雑食」
食らえ、と水を浴びせる神崎。
催淫薬の効果とはいえ、男である自分にも手を出すほどなので油断はできない。
「おま…っ、髪が…っ」
ついに髪が下りてしまい、姫川はギロリと神崎を睨みつけた。
同じく神崎も「やんのか? あ?」と睨み返す。
「うーっス。男鹿いる?」
気の抜けた声をかけたのは、客人だ。
睨み合っていた神崎と姫川はそちらに振り向き、神崎は「あ」と思わず声を漏らす。
「赤星」
「よう」
現れたのは、奈須達と同じくイシヤマファミリーと同盟を組んでいるヒアブリファミリーのボス―――赤星だ。
リビングのテーブルを挟み、ソファーに腰掛ける男鹿と赤星は睨み合っていた。
赤星を案内した神崎と、つい先程リーゼントを直した姫川、男鹿と一緒にいた古市は別のソファーに並んで腰かけ、その光景をコーヒーを飲みながら見守ってた。
赤星は電卓を打ち、その数字を男鹿につきつける。
男鹿は親の仇を見るような顔になった。
テーブルの上には、赤星が持ち込んだトランクが置かれていた。
蓋を開けられたその中には、手榴弾や地雷などの爆発物が入ってある。
「おまえまた値上げしてねーか?」
「増税だ。これ以上は譲らねえぞ。うちの作る爆発物は出来がいいからな。おまえらの注文通りに殺傷力の調整だってしてんだ」
「爆薬軽減されててもっと安くてお買い得かと思えば…」
「特注にかける時間も金だ。おまえも、仲間助けるためと仕返しするために随分使ったな」
「せめてもう少しこれくらい減らねえか?」
男鹿は掌を開いてみせるが、赤星は首を縦に振らず、人差し指を立ててさらに第二関節を折る。
「これで限界だ」
「なんだよその指! 0.5パーってことかっ!」
「相変わらずせこい奴だな」と男鹿は舌を打った。
見守る古市、神崎、姫川は呆れた眼差しを向け、コーヒーを一口飲む。
「あいつは?」
「奈須と同じくオレらと同盟組んでるヒアブリファミリーのボス・赤星だ。主に自分らで作った爆発物や改造銃を売買してる。金にうるさいのが欠点だな」
初対面なので尋ねる姫川に神崎が答えた。
「また同盟か…。一体いくつ組んでんだ」
「ソウレイ、ダテン、ヒアブリ、マジョガリ、サバトの5つです。最初はどれもうちと争っていたファミリーですが、同じ目的のために同盟を組みました」
「目的?」
「ええ」
古市は微笑んで頷く。
姫川が詳細を聞こうとしたとき、インターフォンが鳴り響いた。
その場にいた全員が顔を上げる。
「誰だ?」
しばらくして、陣野と相沢が新たな客人を引き連れてリビングに現れた。
「男鹿、奈須が来たぞ」
「んちゃ」
「は!?」
先に驚いた声を出して立ち上がったのは赤星だ。
ずーん、と沈んだ表情を浮かべている奈須の両手には、クッキーやチョコなどの絵が描かれた正方形の大きめの菓子箱があった。
「おまえ、店番どうした!?」
「みさおっちゃん達に任せてきたっちゃ」
「「「「???」」」」
話が見えず、男鹿達は首を傾げる。
「それ何? 土産?」
相沢は奈須の両手にある菓子箱を指さした。
受け取ろうと手を伸ばしたところで奈須は首を横に振って笑顔で答える。
「ううん。爆・弾★」
奈須の傍にいた陣野と相沢は反射的に奈須から離れた。
男鹿達も思わずソファーから立ち上がる。
「ヘルプミー」
奈須は目尻に涙を浮かべて助けを求めた。
突然の状況に男鹿達は頭痛を覚える。
どうしてこの男は文字通り問題を持ち込んでくるのか。
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