悪党だって、家出します。
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奈須が神崎に電話する数十分前、魔境にあるバーにたまたま立ち寄った姫川は、腰痛に苦しみながらカウンターに伏せていた。
髪は今のテンションのように下りている。
気つけにブランデーを飲む。
茫然と店の天井を見つめ、鬱陶しい前髪を掻き上げて一口飲んだ時だ。
「姫っちゃーん!!」
「ぶっ!」
突然現れた勢いよく背中を叩かれ、飲みこもうとした酒を噴き出してしまう。
バーのマスターは文句も言わずにさっとフキンで拭いてくれた。
「げほっ、奈須…!?」
他のソウレイファミリーのメンバーもいた。
できるだけ知り合いに会いたくなかったので、しまった、という顔になる。
「朝から飲んでるっちゃ? 感心しないナリねー」
姫川のグラスをつかんで取り上げようとするが、姫川は奪い返して最後の一口を一気に飲み干し、カラのグラスをカウンターに置いた。
「ほっとけ。なんでこんなところに…」
「オレ達のアジトのひとつだから」
「え」
「地下が」
奈須は親指で真下を指さす。
一体、いくつアジトを所持しているのか。
「ひとりでどうしたの」
日野に問われ、姫川は渋い顔をする。
今朝、目が覚め、気絶しているように眠る素っ裸の神崎と、その神崎の中に突っ込んだままの自身の現状を見るなり、昨夜のことが夢でなかったと知って頭を抱えた。
次に考えたのは神崎が目が覚めたあとのことだ。
「おはよう、姫川」と爽やかな笑顔は絶対にありえず、どんな想像をしても血まみれの末路しか辿れないと思い、神崎を起こさないように風呂に入って着替えたあと、髪を乾かす間もなく書き置きを残してアジトから出て行ったのだった。
それに神崎にボコボコにされた挙句追い出されるくらいなら、自分から出て行った方が気が楽だ。
名残惜しくなかったといえば、嘘になる。
「はぁ…」
天井を見上げて嘆息した。
昨夜のことを話すわけにはいかず、姫川は「神崎とケンカしてアジト出てきた」と簡潔に説明する。
「家出かよ」と亀山。
「子どもか」と鬼束。
「好きに言えよチクショウ」
(ガキが身内を強姦したあげく家出するかよ)
「せっかく来たんだから、オレ達のバンド練習見にくるナリ?」
「え、いや、いいって…言ってんだろーがよぉ~っ」
有無を言わさず、塩入に首根っこをつかまれ、引きずられながら地下へと向かう。
先にメンバーに行かせた奈須は、地下に行く前に姫川にバレないように神崎に電話したのだった。
「―――一応連絡したけど、迎えに来る?」
“場所は?”
「来るんだ。オレはやめた方がいいと…」
“それは拾ったオレが決めることだ。逃げそうになったら取り押さえとけ。麻酔銃を使っても構わねえ!”
まるで逃げ出した野生動物のような扱いだ。
奈須は手元のケータイを弄びながらため息をつく。
「やっぱり電話かけるんじゃなかったナリ~…」
男鹿達の今後の事を思うのならば。
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