悪党は、責任を持ってお世話します。
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裏街の奥にある3階建コンクリート造りのビルの3階。
そこが、イシヤマファミリーのボスである、男鹿の部屋となっていた。
後ろの窓から聞こえる雨音を聴きながら、帰還した神崎を出迎え、デスクに座ったままの男鹿は、神崎が他の組織から受け取ったジュラルミンケースに入ったブツを受け取る。
「これ、頼まれてたやつ…」
夏目に右耳にガーゼを当てられながら神崎が言う。
「おう…」
男鹿は中身を確認し、ケースを閉める。
その視線は、できるだけ神崎が持ち込んだ「余計なもの」を見ないようにと彷徨っていた。
しかしやはり両脇に抱えられていると嫌でも目の端に入ってしまう。
神崎の後ろで立っている夏目と城山を睨みつけるが、2人はわざとらしく知らんぷりだ。
どちらも、明後日の方向を見ている。
この部屋の中で一番それについてつっこみたい人間がいた。
イシヤマファミリーの参謀役でもある、古市だ。
秘書のように男鹿の傍らに立ち、肩を震わせている。
「わりと簡単な仕事で拍子抜けしちまった。こんなことなら、てめーひとりで行けばよかったじゃねーか」
ボスに対しての悪態。
普段なら適当に返しているところだが、神崎が抱えている絶対的な存在感に「そうだな…」と思わず返してしまう。
(こんなことならマジでオレ一人で行けばよかった…)
男鹿は目元に陰を作りながら後悔していた。
(つうかなんで部下2人連れてて面倒拾ってくんだ。なんのためのストッパーだ。テクノポリスか!!)
(男鹿、それを言うなら木偶のぼうだ!!)
男鹿の心情を察した古市は内心でつっこむ。
「ま、まあ、なんにしても…、疲れただろ…。ゆっくり休め?」
「おー。城山、ヨーグルッチ買ってこい」
「はい!」
城山離脱。
「あ、城ちゃんオレも行くー」
夏目離脱。
((何気に安全圏に逃げやがったあいつら!!))
「じゃあ、オレも自分の部屋でゆっくり…」
「待て!!!」
そこで男鹿は立ち上がって神崎を止めた。
待ったをかけたからには、つっこむべきところはつっこまなくてはいけない。
まだなにか用があんのかよ、と文句ありげな神崎に対してだ。
「……神崎、てめー…、風邪ひくから早くフロ入ってこい」
「そういうことじゃねーだろ!!!!」
ついに古市がつっこんだ。
「現実逃避をやめろ!!! つっこまざるを得ないんだから!!! オレかおまえ、どっちかつっこまなきゃ話進まねえんだよ!!!」
「おう、けど最終的におまえがつっこむんだけどな」
「任せた」と神崎を指さす。
「確信犯かっ!! じゃあ早速ですけど、神崎先輩それどこで拾ってきたんですか!!?」
古市が問う「それ」とは、右脇に抱えた赤ん坊と、左肩に担いだ同じ年頃の男のことだ。
赤ん坊は雑にもたれているにも構わず「アイダブ」となぜか親指を立て、男は気を失っていた。
「途中の路地で」
「イヌ拾ってきたみたいにさらっと返された!!?」
熱くつっこむ古市に対し、神崎は冷めていた。
「あ゛―――っ、怒鳴んな古市、傷に響く」
「傷って…」
同時に、どろ…、とガーゼを当てた右耳から垂れた流血が右肩を濡らした。
「ものすごく血みどろですがっ!!?;」
「こいつに撃たれた」
そう言って担いだ男の背中を軽く叩く。
「なんでそんな危険人物拾ってきたんですか!?」
神崎は事情を簡単に話した。
仕事帰りに、路地で満身創痍の男と泣き続ける赤ん坊を見つけ、赤ん坊を抱き上げたところを、いきなり男が拳銃を抜いてぶっ放した、と。
脳天を撃ち抜かれる前にとっさに顔を逸らして右耳をかすめただけで済み、男を殴ってもう一度気絶させ、連れてきたらしい。
「こいつの父親かどうかわからねーし…、それに…、わけあって追われてる身かもしれねー…。古市、こいつの袖まくってみろ」
「え…」
敵かもしれない男に近づくのは気が引けて思わず男鹿と目を合わせたが、男鹿がアゴで指すと、渋々頷いて男に近づいた。
項垂れたその顔を初めて目にすると、思った以上に端正な顔つきであることに驚き、そっと右腕の袖を肘までまくり、目を見開く。
「!! 酷い…」
その白い腕には、注射器を打たれた痕がいくつもあった。
手首には拘束具で縛られた痕と、力強くつかまれたのか指痕も生々しく残ってある。
「どっかで拷問されたんだろうな…。夏目曰く、オレを撃ったのも、半分は薬のせいで錯乱状態だったかもしれねえって話だ」
「……………」
古市は袖を戻すと、「どうする男鹿」と振った。
「…てめーが拾ってきた面倒をてめーで見るなら…、好きにしろ」
「そうさせてもらうぜ…。ん?」
右脇に抱えていた赤ん坊がいつの間にかおらず、布一枚だけが床に落ちていた。
部屋を見回すと、赤ん坊はどうやって移動したのか、真っ裸で男鹿のデスクの上にいた。
「ダブアイッ」
「……………」
赤ん坊と見つめ合う男鹿。
それを見た神崎は思わず吹き出す。
「気に入られてんじゃねーか。そいつの面倒は任せたぜ」
「は!? ふざけんな!! なんでオレがこんな乳臭ぇガキの…」
「ビエエエエェェエ!!!!」
鼓膜が破れそうなほどの泣き声だ。
「おーよしよしっ」
古市は急いで赤ん坊を抱き上げてあやす。
男鹿は耳鳴りに苦しみながらも、さっさと出て行こうとする神崎に怒鳴った。
「待てコラ!! 自分で面倒見ろっつってんだろが!!」
「あ゛? 大人と赤ん坊の面倒なんざ同時に見れるわけねーだろが。そっちの方が危害なさそうだし、任されてくれたっていいだろ。心の狭いボスだな」
「よーし、そこ動くな。ついでに左耳にでけぇピアス穴空けてやらぁ」
「あ゛ぁ? できるもんならやってみろよ。人生の先輩に、鼻の穴増やされる前にな」
懐の拳銃に手を伸ばす2人の間に、赤ん坊を抱えた古市が割って入る。
「オレが赤ん坊の面倒見るから!! それで手を打ちましょうよっ!!」
「じゃあそういうことで、任せたぞ古市」
「もう2度と面倒拾ってくんじゃねーぞ。古市がかわいそうだろが」
男を担いだままドアを閉めていく神崎と、デスクに座り直してアイマスクをつけて惰眠しようとする男鹿。
「清々しいほど引き際いいな!! 結局オレに面倒押し付けたかっただけだろ2人とも!!!」
「アイ」
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