悪党共を、救出します。
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ドアまで近づいた古市は耳をつけて話し声がするかどうか確認してから壁を支えに立ち上がり、ドアに背をつけて後ろに縛れた手でドアノブをガチャガチャとまわそうとするが、予想通り鍵がかけられてある。
淡い期待だった。
古市は大きなため息をついてドアに背をもたせかけて座る。
「オレ達…、このままどうなるんですかね…」
「連中の目的はあのガキだ。オレらがまだ殺されてないってことは、無事に逃げ切ったんだろ」
「……というと?」
「オレ達の身柄とガキの身柄を交換条件にする気だろ。そこで男鹿が断っちまえば、オレらは用済み。すぐに連中に殺されてどっかに捨てられる」
「……………」
殺されるのは嫌だが、連中にラミアを渡したくない。
その知識を悪用しようとしているのは目に見える。
「奴らが欲しいのは…、『ゼブルドラッグ』だ。ラミアにしか作れない……って何してんですか?」
古市が目にしたのは、床に散らばったマネキンの残骸の匂いを嗅ぐ姫川の姿だ。
怪訝な顔をして鼻を近づけたかと思えば、舌先で残骸の一部を口に含んだ。
「ちょ…っ」
「ぶっ。ぺっぺっ」
古市が止める前に姫川は唾ごと吐きだした。
眉間に皺をよせ、「やっぱりな」と呟いて顔を上げる。
「ヤクだ」
「へ!?」
古市は思わず素っ頓狂な声を上げた。
それから再度マネキンの残骸を見回す。
「こ…、これ…、全部ですか!?」
「ああ。マネキン型に作られた…な。堂々と運べば麻薬探知犬にしか気付かれない。そんで、必要な時に砕いて配る。ここに転がってるマネキンの山は、おそらく、製造中にバラバラになったりヒビが入ったり質が落ちたりした失敗作だろ。こっち(失敗作)の方は定期的に粉々に砕いて運用不要の別のルートにまわされる…ってところか」
冷静に分析する姫川。
ここまで説明されれば古市にも理解ができた。
連中はおそらく麻薬密売組織。
「……あのガキがもし薬をここで制作すれば、買い手がどんな奴だろうが平然と売り払っちまうだろうな。出処がバレれば男鹿達の信用もがた落ちだ。まさに、一石二鳥ってか。クソだな…」
麻薬を売買する組織にラミアが加われば、姫川の推測通りになるだろう。
古市はぐっと唇を噛みしめた。
「ラミアは…、絶対に渡さない…! 男鹿が積み上げてったものだって簡単に崩させてたまるか…!」
ここまで一緒に来たボスと仲間に、迷惑はかけられなかった。
古市はどうにか開けられないものかと思考を巡らせる。
「……ここに監視カメラはねぇな…」
「…ええ。ざっと見てみましたが…」
「なら、ちょうどいい」
姫川は悪巧みの笑みを浮かべ、首を振って色眼鏡を落とした。
「用心の甘い奴らでよかった」
身を起こして背を向け、両手で色眼鏡を取ろうとする。
姫川が何をしようとしているのかわからず、古市は首を傾げた。
「姫川先ぱ…へぶっ!?」
突然背後のドアが開き、ドアに勢いよく背中を押されて顔面を床に打ち付ける。
「!!」
反射的に姫川は色眼鏡を右手に握り、隠すように開け放たれたドアと向かい合う。
入ってきたのは数人の男達。
その中には、虎の毛皮のコートを着た40代後半の男がいた。
悪党らしく「ククク…」と含み笑いをしている。
(わかりやす…っ)と姫川。
(どう見てもボスっぽい…。わかりやすすぎてむしろ小物臭い)と古市。
「うわっ」
首根っこをつかまれた古市は、姫川の傍に放り投げられて腰を打った。
「安心しろ。殺しはしねぇよ」
ボスはニヒルな笑みを浮かべたまま2人を見下ろして言った。
「うちのボスと取引したのか?」
「これからだ。焦ることはねーよ…。どーせ、この場所を見つけられっこねーんだからな」
自信に満ちているのが伝わってくる。
ボスは古市を見、指をさした。
「おまえが男鹿にとってどれほどの価値があるかは噂で聞いてる…。あのガキとおまえ、どちらが大事か試させてもらおうじゃねーか。そいつも一緒にな」
次に姫川を指さす。
古市は無理やり不敵な笑みを浮かべた。
「お…、男鹿は…オレを選ばない…。ラミアは…、オレ達にとっては要だ…。易々と渡すはずが…」
ドッ!
「ぐっ!」
ボスに胸の中心を爪先で蹴られ、床に倒れた古市は痛みに呻きながらせき込む。
「決めるのは、てめーじゃねーんだ。一思いに殺してくれると思うな?」
ボスは古市の髪をつかんで無理やり起こし、部下から注射器を受け取った。
容器の中には栄光ピンクの液体が入ってある。
「な…、何する気だ…!?」
注射器を凝視する古市に、ボスは不気味な笑みで返し、受け取った注射器を古市の首筋に打ち、中身を注入した。
「う……っ」
「古市…!!」
妙な薬品を打たれてしまった古市。
姫川がボスを睨みつけると、ボスは姫川のアゴをつかみ、色眼鏡のとれたその顔をじっくりと見つめる。
「……変な頭をしてるが、整った顔立ちだな…。おまえも味わってみるか?」
「…っ!!」
プス…、と新たな注射器で古市と同じように打たれる。
「な…にを……」
異変はすぐに起こらない。
予防接種を受けたような感覚だ。
「直にわかる…。薬の効果が出てきたころ、おまえ達には今まで味わったことのない屈辱を受けてもらう…。そしてその様を撮影し、取引材料に持ち込ませてもらうぞ。おい、男鹿に連絡しろ」
「はい」
部下が取り出したのは、古市のケータイだ。
「あ、オレのケータイ…」
武器と一緒に奪われたものだ。
部下は古市のケータイのアドレスから男鹿の携帯番号を見つけ出し、そこにかけた。
コールが3回鳴ったあと、「もしもし」と声が聞こえる。
「状況はもうわかっているな? 仲間の命を預かっている。そちらの医療部部長と交換し…」
“あー、ごめんごめん。オレ、ケータイの持ち主じゃないんだ。男鹿っちゃん運転中だから代わりにオレが出てる”
「…は?」
「アハハ」と笑うのは夏目だ。
部下は場にそぐわないケータイの声にどうしていいものかとボスを一瞥する。
“あ、でも大丈夫だよ、男鹿っちゃん言われなくてもそっち向かってるから”
「…え、向かってるって…?」
「なんだ…? なんの話を…」
戸惑った様子の部下にボスがケータイを奪おうと手を伸ばした時だ。
バァンッッ!!!
「「「「「!!?」」」」」
遠くで、何かが破壊される音が轟いた。
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