悪党は、想い悩みます。
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“きゃああああっ!! ………“マモノ”…っ!!”
アナウンス中、アナウンスを流していた女性職員の背後から聞こえた悲鳴。
古市と姫川は顔を見合わせ、合図もなく同時に走り出した。
「あいつ、“マモノ”だったのかよ!?」
初めて聞かされた事実に、姫川は舌を打つ。
デパートにいる人間は“マモノ”の存在に騒然としていた。
中には急いでデパートを飛び出す者もいる。
“マモノ”とは、体のどこかに赤い刺青を持つ者のことを呼ぶ。
その印は、魔境で産まれた者にしか与えられない。
魔境のルールに従い、へその緒を切られると同時に、体の一部に彫られてしまう。
表に住む人間は、その証を持つ者を、畏怖を込めて彼らを“マモノ”と名付けたのだ。
一目それが表の人間の目に入ってしまえば、平穏が乱されることを恐れ、逃げ惑う者や、果敢にも石を投げる者が出る。
たとえ、“マモノ”がまだ幼い子どもであってもだ。
知らない者は、まだ世を知らない子どもくらいだ。
「隠してるつもりはなかったんです…。けどまさか、見られるとは思わなかった…!」
ラミアも自覚していたので、印はいつも袖で隠していた。
見えなければ、誰の目から見ても、ただの子どもだというのに。
遠くから窺ったところ、迷子センターには何人ものの警備員が駆け付け、入れる状態ではない。
「…逃げたか?」
「おそらく…」
2人は踵を返し、ラミアの捜索を始める。
名前は放送で広まってしまったので、迂闊に大声では呼べない。
「まさか…、男鹿もマモノなのか?」
マモノの存在で思い出した姫川は古市に尋ねた。
「…はい。手の甲にあるので、普段は手袋をつけてますが、暑いとどこでも外してしまうので…」
「男鹿らしいですが」と古市は苦笑する。
「おまえは違うのか?」
「オレは、元々、出身は表なので。あ、あと、東条さんもマモノです。右の二の腕にあります。他にいるのかもしれませんが、明かさないだけかもしれません」
男鹿のところにいるメンバーは表も裏も混ざっているが、男鹿はついてくる人間は受け入れてきた。
「…神崎は?」
「神崎先輩は表出身ですよ。職業は極道でしたけど。というか、極度のマモノ嫌いで、何度も男鹿の命狙ってましたが、ある事件でいまやイシヤマファミリーの幹部ですけどね。オレが言うのもアレですが、男鹿には、表の人間も惹きつけるものがあるのかもしれません…」
「……………」
(ん? なんでオレ、イラッとしたんだ?)
古市の話を聞いてふと苛立った自身に姫川は疑問を抱いた。
「古市―――っ!!!」
「「!!」」
エスカレーターを降りようとしていた2人の足が止まる。
「上か!!」
見上げた古市は、駐車場へと向かうエスカレーターを駆けあがり、姫川もその背中を追う。
屋上駐車場に出ると、その出入口付近で、ラミアは男の脇に抱えられて車に連れ込まれようとしていた。
「ラミア!!」
呼びかけに5人の男達が振り返り、急いで車に乗り込もうとする。
「待ちやがれこのヤロウ!!!」
「古市!!」
血相を変えた古市は、懐からゴム弾が装填された拳銃を取り出し、拳銃ん扱いに不慣れなのか突進しながら無我夢中でラミアを抱えている男の腕に何発も撃った。
「っ!!」
「きゃっ」
男の腕から解放されたラミアは地面に落ち、急いで古市に駆けよろうとしたが、別の男が「待て!!」と伸ばした手でラミアの右腕をつかんだ。
「う…っ!」
「放せコラァ!!!」
古市は怒声を発し、ラミアの腕をつかむ男に飛びかかった。
その拍子に男の手がラミアを放し、古市をどかそうと髪をつかむなどして抵抗するが、古市は男をホールドして動きを封じようとする。
姫川も助太刀しようと懐に手を伸ばしたが、異変に気付いたのか、男達の仲間だと思われる黒塗りの車がこちらにやってきた。
「逃げろラミア!! 姫川先輩!! ラミアをお願いします!!」
「古市…!!」
普段の彼からは想像もできなかった大胆な行動に姫川は驚きを隠せなかったが、古市に駆け寄ろうとするラミアの手をつかんで引っ張る。
「古市が…っ」
「敵の狙いはてめーだ!! 逃げてくれねえと困るんだよ!!」
持ち合わせは、大勢の敵に不向きのスタンバトン1本だけだ。
自分たちの車までは遠い。
奥の方に停めさせるんじゃなかったと後悔しながら、姫川はラミアを引っ張りながらエレベーターホールへと逃げ、下へと降りる階のボタンを押した。
エスカレーターでは遅いと思ったからだ。
運良く、屋上で止まったままのエレベーターがあり、すぐに扉が開かれたが、男達はすぐそこまで来ている。
姫川はラミアをエレベーターの中に押し入れ、中から1階へのボタンと扉を閉めるボタンを押してからエレベーターの外に出た。
「ちょ、ちょっと…っ」
一人取り残されたラミアは不安げに姫川を見上げたが、目の前にケータイが飛んできて反射的にキャッチする。
姫川は懐からスタンバトンを取り出し、すぐそこまで来ていた男達を足止めしながらラミアに伝えた。
「どこかに隠れながら、それで神崎と連絡取って保護してもらえ!」
「姫川!!」
手を伸ばす前に、扉は閉まり、エレベーターはゆっくりと下に降りていく。
屋上で起こった騒ぎも、徐々に遠のいていった。
.To be continued