悪党は、想い悩みます。
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表に出てきた、古市、ラミア、姫川を乗せた車は、魔境から5キロ離れた近ショッピングモールへと入った。
屋上にある駐車場に車を停め、古市達は買い物を始める。
平和な賑わいを疑うように、姫川は辺りを何度も見回した。
「そんなに警戒しなくても、魔境じゃないんですから」
「クセだ。それに、表に魔境の奴らがいないわけじゃねえ。オレ達みたいにな」
「…そうですね」
雑貨屋で気になったマグカップを手にした古市は目を伏せ、寂しげな薄笑みを浮かべる。
ラミアは2人には見えないところで、愛らしいパンダの人形をギュッと抱きしめていた。
「それにしても、おまえがあのガキの付き添いか。男鹿じゃねーんだな」
「男鹿は、あまり表には来たがりませんから…。―――というか、仕事でもないかぎりは気軽に来れません」
「…?」
意味深な言葉に姫川は首を傾げる。
「それに…、ラミアはオレが世話したようなものですから…。神崎先輩と姫川先輩のような間柄です。数年前に、どういう理由か、ラミアが路地でひとりでいるのを拾いました」
「!」
「それから今まで面倒見てきたので…。あと思春期なのか、自分で病院持っちゃって、そこで暮らし始めましたし」
時の流れとは無常だ。
「それに、今となっては大事な仲間で、イシヤマファミリーの大事な要です」
「……“ゼブルドラッグ”か」
「ええ」
その薬を開発したのが、学者顔負けの頭脳を持っているラミアだった。
彼女を失えば、イシヤマファミリーにとって大きな損害をこうむることになる。
「だったら、あんまりフラフラさせていいのかよ」
「普段、切り詰めてますからね。息抜きくらい、いいじゃないですか」
微笑む古市だったが、そこで姫川は気づいた。
「で、あいつどこ行った?」
「え!?」
気が付けば、ラミアの姿がなかった。
雑貨屋を見回ったが、どこにもいない。
はしゃいで別の店に移動してしまったのだろう。
姫川は「これだからガキは…」と肩を落としていた。
「ひ、姫川先輩! ラミアがどこにも…っ」
「うろたえるな。こういう時こそ、アレがあるだろう」
姫川が動揺を見せる古市の額を軽く押し、人差し指を立てて「アレ」の存在を口にする前に、デパート内にあるスピーカーからアナウンスが流れる。
“迷子のお知らせです。〇〇市からお越しの、古市様ー。○○市からお越しの、古市様ー。ラミアちゃんがお待ちです”
「あっちが早かったな」
「保護されてる…!!」
はっと我に返り、古市を見失ったことに気付いたラミアが不安げにキョロキョロとしていたところ、警備員に保護され、3階の迷子センターへと連れていかれたのだった。
ちなみに、アナウンスされた市の名前はラミアがついたウソだ。
魔境からお越しとは言えない。
古市と姫川は仕方なく、エレベーターで3階へとのぼり、迷子センターへと足を向けた。
迷子センターにいるラミアは、居心地悪そうな顔をしながら、古市達が迎えに来るのを大人しく待っていた。
周りには、親とはぐれて泣いている子どもや、職員になぐさめられている子ども、そこにあるオモチャで遊んでいる子どももいた。
周りを見る限り、自分が一番年長のようだ。
そう思うと、恥ずかしさでうつむいてしまう。
「もうすぐ、お兄ちゃんが迎えに来るからね」
「お兄ちゃんじゃ……」
否定しようとしたが、思いとどまる。
間違ってはいない。
今まで面倒を見てくれていた古市は、ラミアにとって兄のような存在だからだ。
微笑む女性職員に頭を撫でられ、子ども扱いされてしまう。
「待っててね。もう一度呼びかけてみるから」
ラミアが頷くと、女性職員は放送マイクで呼びかけようとした。
「ねー、なんでお医者さんのカッコしてるのー?」
「いいなぁっ。カッコいいなーっ」
「ちょ、ちょっと!」
ラミアの白衣姿に興味を持った子どもが来た。
オモチャのように物欲しげに見つめていたかと思えば、白衣の裾や袖をつかんで引っ張り始める。
「や、やめてっ! 引っ張らないでよ!」
自分より幼い子どもを無理やり引きはがすこともできず、ラミアは身をよじらせるしかない。
そこで、不意に袖を逆方向に引っ張られ、左腕が晒されてしまう。
「あ…っ」
近くにいた別の女性職員が子ども達を止めようと近づいたところで、その職員の目は、ラミアの晒された左腕に釘付けになる。
「きゃあああああっ!!!」
その悲鳴に、何事かと一斉に視線が集中した。
女性職員は怯えた目でラミアを見つめ、身を震わせながら指さす。
「“マモノ”…っ!!」
ラミアの左腕には、赤い刺青があった。
それを見た女性職員の目は、同じ人間を見る目ではなかった。
子どもたちは意味を解せず首を傾げるだけだったが、近くにいた他の職員たちは顔を強張らせ、ラミアに冷たい視線を向けていた。
ショックで身動きができなかったラミアだったが、数秒後、はっとして自分の左腕の刺青を袖で隠し、迷子センターを飛び出した。
「古市…っ」
浮かび上がる涙を袖で拭いながら、ラミアはあてもなく走る。
「!」
エスカレーターで降りようとしたとき、
「見つけたぞ」
数人の強面の男たちがラミアの前に立ち塞がった。
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