悪党共の日常です。
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傘を差すほどでもない小雨が降り続く中、取引を終えた神崎は、部下である城山と夏目を連れてアジトへと戻る途中だった。
「今日のお使いは楽だったねー。パクられたわけでもないし。オレ達がついていくほどでもなかったかな? ねー、城ちゃん」
「いつなにが起こるかわからないんだ。アジトに帰るまで油断できないぞ、夏目。神崎さんになにかあったら…」
「城ちゃんそればっか」
そう言って笑う夏目に、ジュラルミンケースを手にしている神崎は「おまえは気ぃ抜き過ぎだ」と背を向けたまま言った。
「お遊びじゃねーんだぞ、夏目」
「わかってるよ。…神崎君、もしかして怒ってる?」
「今この場で怒ってやろうか?」
空いた手を懐に忍ばせると、夏目は「冗談冗談」と少し慌てた様子で首を横に振った。
神崎が不機嫌なのは、今回の仕事が夏目の言う通り簡単すぎて刺激がなにもなかったことだ。
本当に子どもでもできそうなほど簡単なお使いだった。
指定された場所に赴き、金を渡してブツを受け取る。
ボスが出る幕でもない。
「はぁ…」
らしくないため息が漏れてしまう。
灰色の曇天を見上げると、雨脚が強くなっていることを感じ、気分も滅入ってきた。
裏街を見渡すと、人気どころか猫一匹見つからない。
これも雨の影響か。
「…?」
ふと、神崎は耳に入ってきた微かな音に気付き、立ち止まる。
「…神崎さん?」
「なにか聞こえねえか?」
そう言われ、城山と夏目は耳を澄ませる。
雨が地面を打つ音の中、微かに聞こえる、赤ん坊の泣き声。
それはいつまで経っても泣き止まない。
家の中ならまだしも、外から聞こえているのだ。
気付けば、神崎はそこへ向かっていた。
「あ、神崎君っ」
もうすぐでアジトだというのに、ここで面倒事に巻き込まれるわけにはいかなかった。
だが、神崎は自ら足を運ぶまで、刺激に飢えていたのかもしれない。
「…!」
薄暗い狭い路地を見ると、そこには、泣きわめく赤ん坊を抱えた男が壁に背をもたせ掛け、脱力したように座っていた。
「ビエエエエッ!!」
赤ん坊は布一枚に包まれ、おしゃぶりをつけたまま泣き続けている。
「そいつ、死んでるの…?」
「わからねぇ」
男はうつむいているため、死に顔かどうかもわからない。
売れば高いだろう銀の長髪に、整った顔つきには傷や痣が見当たり、値が張りそうなスーツには血が滲んでいた。
年頃は大体同じくらいか。
「神崎君…」
神崎が片膝をついて赤ん坊を抱き上げようとし、夏目がたしなめるように声をかける。
「見殺しにするわけにもいかねーだろ。見つけちまったもんはしょーがねぇ」
神崎が優しく抱き上げ、あやすように揺らすと、赤ん坊はピタリと泣き止み、「ダブゥ…」と涙目で神崎を見上げる。
「よし…。泣き止んだ…」
「!! 神崎さん!!」
「!?」
はっと前を見ると、突然、死んだと思っていた男が顔を上げ、懐から取り出した拳銃を神崎の額に向けていた。
鋭い眼光と目が合うと同時に、引き金が引かれる。
ドン!!
雨の中、轟く銃声。
空気が生温くなってきた、4月22日の出来事だった。
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