悪党共は、沈没船の中です。
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奈須達もパーティーに参加していたようだが、パーティーの時は男鹿達とは顔を合わせてもいなかったようだ。
ダンスホールからロープで引き上げられた奈須達。
一番体重が重い塩入は綱引きのように全員によって引き上げられていた。
「おまえも参加してたんだな」
男鹿がそう言うと、奈須は「だっちゃ☆」と頷く。
「ったく、船が沈没したってのに、なにを呑気に…。つーかおまえらも逃げ遅れたのか?」
神崎が問うと、「なすびがダンスホール気に入っちゃって…」と日野が答える。
誰も使ってなかったこともあり、貸切状態でずっと入り浸っていたそうだ。
船が揺れても、怯えるどころか大変はしゃいでいたらしい。
「“呟き”にも『リアルタイタニ●クなう☆』って呟いてるし」
「余裕だ!!!」
亀山にケータイで奈須の“呟き”を見せてもらい、男鹿が即座につっこむ。
「こいつよく魔境で淘汰されなかったよな」
姫川は呆れるように肩を落とした。
「ここに置いていくわけにもいかねーし、このまま上目指そうぜ」
そう言ったのは東条だ。
奈須達も加わり、男鹿達は協力し合いながら船底である上へと目指す。
「他にもオレ達みたいに取り残された連中とかいねーのか?」
唐突に東条がそんなことを言い出すので、姫川は「はぁ?」と声に出す。
「今更そんなこと言って戻ろうなんて思うなよ。あれから数時間も経ってんだ。水がどこまで浸水してるかなんて誰にもわからねぇ状況だ。それに、あらかた部屋は見たし、人っ子ひとりいなかったろが。おまえらはお優しいからな。思っても迂闊な発言は控えろ」
叱咤する姫川を邦枝は不満げな視線を向けた。
間違った発言ではないが、人情が欠けている。
東条もしばらく黙っていたが、「…わかった」と遅れて頷く。
船底まで残すところあと1階だ。
ここまで来れば浸水の危険も薄まってきた。
階段が見えてくると、東条と塩入と鬼束に残りのメンバーが肩車してもらい、あとからロープで一人ずつ引き上げていく。
「!」
そこで男鹿は人影を見つけた。
「誰かいるのか!?」
こちらが声をかける前に、向こうから声をかけてきた。
「逃げ遅れた人…!?」
ケータイのライトでは頼りないが、あちらが懐中電灯を向けてきた。
船に乗っていたクルー達だ。
あちらは5人いて、階段から現れた男鹿達に驚いている様子だ。
「おまえら、ここで何やってんだ?」
神崎が近づいて声をかけると、クルーの一人は「逃げ遅れてしまって…、とりあえず上に…」と落ち着きなく答える。
「オレ達も取り残されちまってな…。この上から出られそうか?」
「外の状況はボク達にもわかりません…」
クルーはそう言いながら首を横に振る。
「けれど、きっと助けが来てくれると思っているので…」
「その前に浸水しないかだけが心配ですが…」
不安げな表情のクルー達に、邦枝は「大丈夫ですよ、きっと…」と慰めの声をかけた時、姫川はひとり口角をつり上げ、クルー達に近づいた。
「きっと来るさ。いや…、来なくてもいいんだろ? それも計画の内だからな。襲撃犯共」
「「「「「!!?」」」」」
クルー達どころか、男鹿達も目を見開いて驚いた。
「おい、どういうこと…」
鬼束が声をかけると同時に、神崎の近くにいたクルーが神崎に向かってなにかを振るったが、その前に姫川はその腕をつかんでひねり上げた。
「ぐ…ッ!!」
折られてしまいそうな痛みにクルーは顔を歪ませて呻く。
「姫川!?」
床に落ちたのはナイフだ。
それを一瞥した姫川は残りのクルー達を見据える。
「やっぱりな、銃は使ってこねーか…。誤って壁に穴空いちまったら困るのはおまえらだもんな」
「…っ!」
神崎達は状況が把握できない。
なぜクルーが襲撃犯とわかったのか。
問う前に姫川は淡々と説明していく。
「簡潔に言うぜ。てめーらの目的は、パーティーに参加していたお偉いがたの取引の品を強奪すること。命より、金になりそうなブツ。そうだろ?」
「な…ぜ…っ?」
腕をひねり上げている男が呻きながら尋ねると、姫川は嘲笑する。
「はっ…。どこに沈めるか、どうやって襲うか、どうやって転覆させるか…。そんなシミュレーションに頭使って肝心なカモフラージュができてねーよ。オレも最初はお偉いがたの命を狙った馬鹿な奴らだと思ったが、オレなら、救命ボートなんて絶対残さず、助けも呼べねえ電波の届かねえところで転覆させるぜ。客室も見て回ったが、部屋がひっくり返ったとはいえ、荷物が散らかりすぎだ。トランクが天井に落ちて開いたならまだわかるが、バッグのチャックが勝手に全開まで開くなんて器用なことが起きてたまるかよ。そして、おまえらがここにいた時点でそれがオレの中で確信になった。気ぃ抜き過ぎだ、ド間抜け共が」
「ぐ…っ」
「脱出した奴らも、自分達の命を狙いそうな輩を徹底的に調べてる頃だろうよ。意味ねーのにな。襲撃犯は未だ沈んだ船の中で、大事なブツを持っていかれようとしてるなんてな…。笑いも止まらねーだろ、てめーら。―――で、計算外だったのが、オレ達を取り残したことだ。いや、いても油断させて殺せばいいだけの話か…。ただ、人数が多かったから、近くにいた神崎か、女の邦枝を人質に取ろうと考えたとか…」
クルー達は蒼白な顔で押し黙ったままだ。
ほとんどが図星なのだろう。返す言葉もない様子だ。
「そいつらは、どうやって脱出するつもりだったナリ?」
奈須に問われ、姫川は前を見据えたまま「それも大方予想できる」と言って答える。
「自力で脱出する予定だったんだろ…。ここは物を隠すならうってつけだ。あらかじめ用意していた潜水用具を使って、魔境とは離れた岸に上がってな。てめーらの脱出時間までに追いついてよかったぜ」
「…っ」
男鹿は感心するように「へぇ…」と漏らした。
「チッ…!」
「バカよせっ!!」
拳銃を取り出したクルーに、その傍にいたクルーが声を張り上げる。
引き金が引かれそうになり、神崎、男鹿、東条、奈須がそれよりも早く突進し、殴り、蹴り飛ばした。
しかし、東条の勢いが強すぎたのか、殴り飛ばされたクルーは背後の壁に思い切り激突し、壁にヒビを刻んだ。
「「「「「あ」」」」」
水圧でヒビが徐々に広がり、一気に海水が流れ込んできた。
「うわっ!!」
「水がっ!!」
「なんてことすんだコラァ!!」
海水はすぐに船底を満たそうとする。
あっという間に腰まで水位が上がり、男鹿達は決断を迫られた。
「このままあの穴から出るぞ!!」
男鹿が海水が噴き出す穴を指さしたが、邦枝は大声で返す。
「けど! 息が続く深さなの!?」
「だからこれを回し合うんだよっ!」
男鹿が邦枝に投げ渡したのは、クルー達が脱出するために用意していたタンクとホースだ。
酸素の共有をし合い、海面に出ようというのだ。
「こいつら(襲撃犯)はオレ達と一緒だ」
そう言って気絶したクルーの首根っこをつかむ鬼束。
タンクは全部で5つ。
男鹿と邦枝と東条、姫川と神崎と奈須、亀山とクルー2人、鬼束とクルー2人、日野と塩入とクルー1人に分ける。
「これも持ってくぞ」
神崎が手に持ったのは、取引用のブツが入ったリュックだ。
リュックは3つあり、神崎、男鹿、奈須の3人が背中に背負う。
最初に男鹿組、2番目に亀山組、3番目に鬼束組、4番目に日野組、5番目に神崎組が出ようとしたところで問題が発生。
塩入の巨体が穴に詰まってしまった。
「なにしてるっちゃクマさん!!」
「少しは痩せさせろ!!」
首まで水位が上がっていたので、奈須と神崎が急いで後ろから塩入の尻をぎゅうぎゅうと押し込め、日野は向こう側からは懸命に塩入の手を引っ張っていた。
すぽんっ、と塩入が抜けると、一度栓されていた海水がまた浸水し、顔まで浸かり、神崎と奈須と姫川が穴から脱出する。
真上を見上げると、朝陽が昇っているのか、わずかに光が差し込んでいた。
海面を目指し、神崎達も貴重な酸素を共有しながら浮上していく。
「…ッ」
海水なので、ケガを負っている者は傷口が沁みている。
ガラスで傷だらけになっていた神崎も我慢しながら必死に海面に上がっていった。
「ぶはっ!!」
先に海面から上がった男鹿組は、そこで大きく息を吸い込んだ。
朝陽の眩しさに目を細めたが、すぐに「男鹿!!」と呼んだ声に目を見開いた。
他のファミリーから連絡を受けて駆け付けてきたのか、小さなクルーザーから古市と、その両腕に抱えられた古市がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「よかった…、無事だったんだな!」
「古市…」
続いて、奈須組も浮上してきた。
「あ、いい浮き輪…」
溺れかけたのか、日野が塩入の肩に担がれて浮上する。
「おまえ、仮面取れ」
トレードマークである狐のお面が邪魔でタンクのホースを咥えることができなかったのだ。
塩入は呆れたように言って、「大丈夫か?」と日野の背中を叩く。
「ぷはっ」
「ぶはっ!」
最後に神崎と奈須が海面から顔を出した。
「ぴゅ~っ☆」
奈須は口に含んでいた海水をすぐ横にいた神崎の顔に吹きかけ、拳骨を食らわされる。
「全員いるか!?」
男鹿が声をかけると、それぞれが無事を伝えた。
「襲撃犯も無事だ」とクルーの胸倉をつかんで見せつける鬼束。
「荷物もな」とリュックを掲げる神崎。
「よかった…」と胸をなでおろす邦枝。
「ごぼぼ…」と頭にコブを作ってうつ伏せに浮かんでいる奈須。
「あれ…、姫川さんは…?」
クルーザーから見下ろしていた古市は、1人欠けていることに気付いた。
「あ?」
神崎はすぐ傍についていた姫川に振り返ろうとしたが、どれだけ見渡しても姫川の姿がない。
「姫川…?」
神崎が呼びかけても、返事はない。
「あの、バカが!」
胃が突かれるような不安に襲われた神崎は、大きく息を吸い込み、もう一度海に潜りこんだ。
「神崎!!」
男鹿が声をかけたが、構う余裕はなかった。
「…!!」
目を凝らして姫川の姿を探していると、姫川がゆっくりと海底に沈んでいくのが見えた。
せっかくのリーゼントも、海で完全に解けていた。
追いかける神崎は、姫川の周りに、なにか黒いものが漂っているのが見えた。
(血…!?)
しかも、大量の血液だ。
いつの間にそんな大怪我を負ったのか。
記憶をたどった神崎は、ある疑問を浮かべた。
自分に突き刺さっていたガラスは細かいものばかりだった。
あのガラスのローテーブルに当たったというのなら、もっと大きなケガをしてもおかしくなかった。
なぜか。
頭の中で思い浮かばせる。
もし、当たる直前に、姫川が助けに入り、自分を庇っていたとしたら。
自分にではなく、姫川に当たって砕けた破片が、姫川の後ろにいた自分にかかっていたとしたら。
「…っ!!」
ケガは自分で手当てしていたし、ロープをつかって壁をのぼろうとして時も酷く疲れていた様子だったし、急いでいる様子もあった。
気付いてやれなかったことに切歯する。
どうして自分に教えなかったのかは聞かなくたってわかる。
単純に、足手まといになるのが嫌だったからだ。
神崎は手を伸ばし、姫川の手首をつかんで自分の肩に回した。
意識が飛びかけているのか、薄く開かれた目は合ったものの、ぐったりとしている。
口の中の空気も失っているのだろう。
見上げるが、海面まで少し遠い。
「…!!」
瞬間、姫川の目が大きく見開かれる。
神崎が自分と唇を重ね、口の中の空気を半分だけ送り込んだからだ。
神崎はそのまま姫川を連れて急いで浮上し、空気が尽きたところで海面から顔を出した。
「ぶはぁっ、はぁっ、はぁっ」
「はぁっ、はぁっ、へぶっ!!」
同じく空気を貪っていた姫川だったが、神崎に殴られ再び沈みかける。
「助けたクセに何すんだよ!!」
叫ぶ元気は残っていたようだ。
「とりあえず一発殴りたかっただけだ!! 早く船に上がれ! 重傷負ってんじゃねーか!!」
「…バレたか」
「てめーも変な意地っ張りだな!」
「はぁ!? てめーほどじゃねーよ!」
言い合いを始める2人に、古市は2人に向かって「早く上がってくださーい!」と声をかける。
先にクルーザーに上がっていた男鹿は、取引の品の持ち主に感謝されているところだった。
「よく取り返してくれた…。礼を言う」
「礼なら、あそこで騒いでる奴に言うべきだ。オレは大したことしてねーし」
親指で姫川と神崎を指すと、取引の品の持ち主は「改めて、名前を伺っても?」と笑みを向ける。
「イシヤマファミリー・ボスの男鹿だ。あっちで声かけてるのが、秘書の古市、そして幹部の、東条、邦枝、神崎…、姫川だ」
.To be continued