悪党は、命を狙われます。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その夜、表の街のとある地下のライブハウスでは、インディーズバンドのライブが開催されていた。
そのロックな歌や演奏に、観客達も盛り上がる。
現在ライブ中のバンドは、ドラム、ギター、ベース、キーボード、ボーカルの組み合わせだ。
そのバンドメンバーの胸元には、奈須を狙った男達と同じバッジがつけられてある。
「……!!」
ボーカルの鳥頭の男が、客の中に混じった人物に目を大きく見開き、思わず歌を忘れた。
「奈須…!!」
その名を聞いた他のメンバーも驚いて演奏を止める。
ざわつく会場内で、奈須は真っ直ぐにステージに歩みより、気さくに声をかけた。
「んちゃ☆」
「おまえ…、どうしてここに…っ」
ボーカルは幽霊でも見ているかのようにたじろぎ、マイクスタンドを倒した。
「どうしたナリ? そんなに怯えて……」
不気味に口元を歪める奈須はステージに上がり、マイクスタンドを拾って観客に振り返った。
「どぅ―――もぉ! ソウレイのなすびでぇ―――す!! オレ達のこと知ってるコはいるかなぁ―――!?」
マイクで呼びかけると、観客は再び騒然となる。
「あ、私知ってる!」、「オレも」、「斬新なライブスタイルで有名な…」、「なすびさんだ!!」、「なすびさーん!!」、「どうしてここに!?」など。
奈須のことを知らない者はわずかだ。
その反応が面白くないのか、ボーカルはあからさまに顔をしかめた。
「奈須…!!」
ポケットからバタフライナイフを取り出す前に、奈須は懐から取り出したものをボーカルの額にぶつけた。
「!?」
「オトモダチの落し物ナリ~」
「…っ!!」
潰されたバッジを見下ろしたボーカルは戦慄し、はっと顔を上げた時にはすぐ間近に奈須の顔が迫っていた。
口元のマイクは離され、ボーカルだけに聞こえる、低い声で言う。
「てめーだったんだな、チョウソウファミリーのカスが」
「あ………」
「理由はアレか? 表では、チケットの売り上げ…。裏では、お得意先を立て続けに壊滅させたこと…。そういや他にも色々あったようだが…、オレらが知ったこっちゃねえし、それを逆恨みっつーんだよ。大人しく隅っこで鳴いてりゃよかったのに、さらに墓穴掘ったな。オレもあいつらも怒らせたてめーらはもうしまいだ」
全身を身震いさせながらも、ボーカルは口元に無理やり笑みを浮かべ、「ここで暴れる気かよ?」と脅す。
「……………」
「できねーよなぁ? ここは表で、暴れたりなんかすればてめーらは2度と……」
「それを見てるお客さんは、どこにいるナリ?」
そう言って舌を出す奈須に、ボーカルがはっと観客席を見ると、いつの間にか客の姿はなくなっていた。
奈須は言葉を失うボーカルから後ろに下がって少し離れ、「ご退席ねがいました~」といつもの調子で歌うように言う。
客を一時的に1階へと退席させたのは、スタッフ姿の男鹿達だった。
姫川もリーゼントを下ろし、できるだけ女性客を引き付ける。
反対に、男性客を引き付けたのは邦枝達だ。
それならばとボーカルはバタフライを向け、他のバンドのメンバーも銃やナイフを向ける。
(いいジョブだぜ、男鹿っちゃん)
内心で男鹿を褒めた奈須は、もう一度マイクを口元に近づける。
「ソウレイファミリー、バンドメンバー紹介~~!」
「「「「「!?」」」」」
「トランペット担当・パックマン!!」
「!!」
パラッパー、と軽快なトランペットの音が聞こえ、頭にはキャップを顔にはキツネの面を被った男、パックマンこと日野がギター役を踏み倒して現れる。
「ベース担当・アクオス!!」
次に、低いベース音が聞こえ、オールバックで口元に切り傷の痕がある男、アクオスこと亀山がベース役をピックまみれにして現れた。
「太鼓担当・クマさん!!」
今度は、ドンドン、と太鼓の音が聞こえ、サングラスをかけて太った男、クマさんこと塩入がドラム役をバッチで撲り倒して現れる。
「ピアノ担当・みさおっちゃん!!」
最後に、こちらは無音で、ドレッドヘアの巨漢の男、鬼束がキーボード役を殴り倒して現れてから、ボロン…とキーボードを軽く鳴らした。
軽くとはいえど酷い音だ。
「そして~、バンマスのなすびナリ~♪」
「ひ…っ!!」
身の危険を感じたボーカルは恐怖のあまりステージから転げ落ち、出入口のドアに駆け寄って逃走を試みようとしたが、押しても引いてもドアは開かない。
「おい!! 誰か!! 誰かぁ―――っ!!」
乱暴にドアを叩くが、ドアの向こうでは男鹿達がライブ用の機材などで塞いでいた。
そのうえ防音なので、叫び声はあまり聞こえない。
スタッフ姿の男鹿がアンプをドアの前に追加しようとすると、同じくスタッフ姿の古市は「男鹿、もう十分だ」とストップをかける。
5人の影が慌てずゆっくりとボーカルに近づいた。
亡霊のように、ゆらゆらと。
「オレ達ソウレイファミリーが、月に代わってお仕置きする…っちゃ☆」
例のポーズもバッチリだ。
「助けてぇえぇええええっっ!!!」
腹の底から吐き出されたその歌声のようにライブハウスに響き渡る絶叫も、やはり、外には届かなかったとか。
「敵とはいえ、必要なことで…、はい、合掌」
古市が言い出すと、イシヤマファミリー全員が、自分達が塞いだドアに向かって合掌した。
ついでに黙祷も済ませておく。
奈須の命を狙っていたチョウソウファミリーを徹底的に潰したあと、ライブの穴埋めは奈須のバンドで盛り上げたとか。
そして次の日、奈須はイシヤマファミリーに新しいアジトを提供した。
リムジンで連れてこられたイシヤマファミリーは、横一列に並び、新しいアジトを見上げ、驚きのあまり口をポカンとさせていた。
奈須の勢力圏と男鹿の勢力圏の中間地点に建つ、小奇麗な屋敷だ。
「キッチン、リビング、食堂、娯楽室、書斎、来客室、ティールーム、バルコニーなどなど。元は資産の家だったから、少し豪華な暮らしができるっちゃよ。電気もつければ、セキュリティーも動くし、前のアジトよりはマシナリ~」
「いいのか!? いいのかコレ!!?」
古市は興奮しながら屋敷を指さして奈須に尋ねる。
これで「ウソだ」とか言われたらキレる度胸がある。
「ほんの気持ちー♪」
ほら見ておいで、と手を差し伸べると、古市に続き、他の面々も屋敷に突入する。
「葵姐さん!! ガーデニングまであるっスよ!! 雑草ボッサボサパネェ!!」と花澤。
「素敵なところね」と邦枝。
「動物とか飼っていいかな」と東条。
「神崎さん早く早く!!」と城山。
「珍しくはしゃいでるな、城山」と神崎。
「確かに、前みたいな猫やぐらよりかはだいぶ住みやすそうだな」と姫川。
奈須は全員の反応に大変満足していた。
唯一その場に残った、ベル坊を抱いた男鹿は「おまえらの新アジトにすりゃよかったじゃねーか」と隣に立つ奈須を横目で見て言うと、奈須は肩を竦ませる。
「地下にライブハウスがついてないっちゃ」
「こだわるとこはそこかよ」
「今回は本当に助かったナリ~。みさおっちゃん達とも会えたし…。よくそれぞれの居場所がわかったっちゃね?」
ちゃんと集合したのは、昨夜のライブハウスの前だ。日野と塩入は東条達が、亀山は邦枝達が、鬼束は夏目達が見つけて連れてきたのだった。
「おまえが適当に言ったところがドンピシャだっただけだ」
「マジ?」
日野と塩入は行きつけのスタジオで練習しているところを、亀山は別のバンドに混じってライブ中のところを、鬼束はバーのピアノを演奏して客からブーイングを受けていたところを見つかった。
「緊張なさすぎだろてめーらは! しかも連絡取れなかったのって、場所が悪かっただけじゃねーか! なんで変なところでマナー守るんだよ! オレのアジト…」
あまりの馬鹿馬鹿しさに怒りを思い出して舌を巻く男鹿の口を、奈須は人差し指を押し当てて塞ぐ。
「まーまーまー、こんないい住居手に入れただけ得だと思わないと…」
「裏がありそうだな…」
奈須の手を払った男鹿がジト目で呟くように言って再度屋敷を見上げ、奈須は肩を落とす。
「疑り深いっちゃね…」
「必要な荷物も運んでくれたんだろうな?」
「抜かりはないナリ☆」
前のアジトではほとんどの家具やデータなどが木端微塵になってしまったが、家具のほとんどはソウレイファミリーが手配してくれたし、必要なデータは、前もって古市が所持していた。
「ほらほら、あとは全部やっておくから、男鹿っちゃんも見てきなよー」
「む…」
言われるままに鉄の門扉を潜り、屋敷に入ろうとした時だ。
「あ、男鹿っちゃーん、1つだけ忠告」
「あ?」
立ち止まり、肩越しに奈須に振り返る。口元は薄笑みを浮かべているが、その眼差しはどこか真剣だ。
「新しいお仲間が増えたのはいいことだけど…、あいつは追い出した方がファミリーのためナリよ? この業界始めて今まで汚れた人間見てきたけど、あいつは中でもタチの悪い頑固汚れだ。目と雰囲気でわからなかったナリ?」
姫川のことだというのはわかった。
だが、男鹿はその忠告を一笑する。
「はっ。オレらの汚れ具合も相当なもんだろ」
「男鹿っちゃん…」
「この前来たばかりなんだ。警戒するにはまだ早すぎる。オレはまだ、あいつを知らねえ…。そのヨゴレも」
「知ってから遅いってこともあるっちゃよ。それに…、忘れてないナリか? 今度のパーティー…」
「もちろんあいつも連れてく」
それを聞いて、奈須は呆れたようなため息をついた。
「どうなっても知らないっちゃよ。男鹿っちゃんはたまに、優しすぎる…」
その頃、神崎は自分の部屋に愕然としていた。
ドアの掛け札には、“Kanzaki & Himekawa ROOM”と掛けられてある。
「なんでまた同じ部屋!!?」
「落ち着けよ神崎。今度は2段ベッドだ。しかも広いしオシャレ。あ、上はオレがもらう」
「そういう問題じゃねえんだよ!! 寮かっ!! 上はオレのだ!!」
せっかくの新居だというのに、素直に喜べなかった。
.To be continued