悪党は、命を狙われます。
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翌日、石矢魔ファミリーは奈須の仲間の捜索、そして狙っている相手はどこの組織か突き止めるために情報収集へと出かけた。
邦枝達は表の、東条達は裏の情報を集めに街へと出向く。
姫川を含め神崎組も魔境の情報屋を当たろうと乗り出すが、アジトを出たところで夏目は「あれ?」と首を傾げた。
「神崎君は?」
「見張りと奈須の話し相手で疲れて、自分のベッドで寝てる」
「あー…」
昨夜の奈須の護衛は知っていた。奈須の性格は知っているので夏目は苦笑する。
「おまえは平気なのか?」
神崎と交代しながら見張りをしていたはずだ。
城山が尋ねると、姫川は「あー、オレなら1日2日寝なくても平気だから」と手をひらひらとさせた。
姫川にとっては職業病のようなものだ。
朝陽が眩しいくらいにしか思わない。
アジトの出入口前の階段を下りたあと、姫川は夏目と城山の横を通り過ぎ、どこかへ行こうとする。
「あ、姫ちゃん…」
これから行くところは別方向だ。
夏目が呼び止めようとした時、姫川は振り返らずに右手を挙げた。
「悪いけど、オレ、ちょっと寄り道してくる」
「おい…!」
仕事でも勝手な行動をとろうとする姫川を城山も呼び止めようとしたが、姫川は聞く耳も持たずスタスタと速度を落とさず歩いていく。
「本当に何を考えてるんだ、あいつは…」
腕を組む城山は顔をしかめるが、夏目は「まーまー」とやわらかくなだめ、遠くなるその背中を見送った。
「オレにもわからないけど…、無駄なことは考えてないと思うんだよねぇ…」
姫川は徒歩で隣の地区に立ち寄り、ほとんどの店のシャッターがしまった寂れた商店街を歩く。
「……………っ」
何度か通ったことがある道だ。
頭痛を覚え、頭に右手を当てながら歩を進める。
昨夜、見張りをしながら自分の本来の仕事を思い出すと同時に、よく立ち寄っていた店を思い出した。
商店街の奥に進んでいくと、唯一シャッターが開いた小さな骨董品屋を見つけ、出入口であるガラスの引き戸を引くと、埃っぽい匂いが鼻を通り抜ける。
軽くせき込んだあと、カウンターに座って老眼鏡を目にかけながら古書を読んでいる中年の店の主人を見つけた。
「いらっしゃい。…おや」
店の主人の視線が古書からこちらに移る。
姫川の姿を見るなり、目を大きく見開いて小さく驚いている様子だ。
「…オレを覚えているか?」
「久しぶりですね、姫川さん。半年ぶりではありませんか?」
「そんな前になるのか…」
どうりで懐かしさがあるわけだ。
「正直、死んだものと思っていました…。この魔境では珍しくないはずでしょう? よかった…。保管の期限がすぐそこまで迫っていたので…」
「ああ…、やっぱりここに預けたままにしていたのか…」
最後に預けた記憶は、ここに来たことで微かに思い出すことができた。
「番号はお覚えで?」
「H-0417だ。…オレ専用の番号だったな」
「ええ」
皺を寄せて微笑んだ店の主人は、カウンターの引き出しから、小さな鍵と、片手で持ち運べるほどの小さな聖母の銅像を取り出し、カウンターの上に置いた。
「…? この鍵は?」
「? さぁ…。姫川さんが預けたものですが?」
「オレが?」
そこだけは思い出せなかった。
なんの鍵なのか。
首を傾げる店の主人を一瞥し、銅像とともにそれを持ち帰ることにした。
帰る前に、金を渡すことを忘れない。
「また贔屓にさせてもらうぜ、保管屋」
保管屋―――一時的に所持品を預かる店だ。
たとえそれが、金でも、物でも、死んだ人間でも、生きた人間でも、預け主か取引相手が取りに来るまで一般の金庫以上に厳重に保管することを生業としている。
ただし、保管する品を決められた期限までに取りに来なければ、どんな大事な物だろうと、どんな理由だろうと、即刻、依頼主の情報とともに裏のルートに売り飛ばされてしまう。
期限を守らなかった者はロクな目に遭わないと噂されるとか。
もちろん、保管屋は責任を一切負わない。
「またのご来店を」
金を受け取った店の主人は、数えようともせず姫川を見送った。
店を出た姫川は、来た時と同じようなテンポで元来た道を戻る。
目指すはアジトだ。
アジトでは男鹿、古市、奈須、神崎が待機している。
姫川は奈須からもう少し情報を引き出してから夏目たちと合流ことを考えていた。
たくさんある心当たりがあるのなら、当たりは必ずあるのだ。
そこから絞り出していけばいい。
イシヤマファミリーが管理する地区に戻るまで1時間もかからなかった。
アジトに近づき、神崎はまだ眠ったままかと思いながら出入口のドアに手をかけた時だ。
「!」
後ろ首にチクリと痛みが走った。
「動くな。声を出すな。こちらを見るな」
「……………」
いつからかはわからないが、尾行されていたのだろう。
姫川はゆっくりと両手を上げ、降参の意を示す。
首に突き付けられているのはナイフのようだ。
拳銃ならば、その銃声で男鹿達が気付いて逃げる可能性があるのであえて使わないのだろう。
アジトの前で車が停車する音も聞こえた。
音からして2台だ。
続いてドアが開いて数人が車から降りる音も聞こえる。
「……奈須はここにいるんだな?」
わざわざ探す手間が省けた、と姫川は忍び笑いを浮かべる。
「声出しちゃダメなんだろ?」
「質問には答えろ」
首に押し当てられたナイフの刃先が肌を傷つける。
「……奈須! お呼びだ!」
建物内に届くほどの大きな声でもない。
だからこそ、一瞬でも、辺りにいると錯覚させることができる。
「な…っ」
背後の男がそちらに意識をとられたのを感じた姫川は、素早く左手で男のナイフを持った右手をつかみ、
ゴッ!
右手で腰に挟んでいた小さな銅像を取り出し、振り返る際に男の頭を撲りつけた。
「ぐ…」
銅像にはヒビが刻まれ、姫川はそのまま握りつぶして銅像の中のモノをつかみ、仰け反った男の左肩に打ち付けた。
壊れた銅像から取り出したものは、愛用の、伸縮式のスタンバトンだ。
「丸っ焦げになっちまえ」
スイッチを入れ、120万ボルトの電流が男に襲い掛かる。
「ぎゃあああ!!」
悲鳴を上げる男の胸の中心を殴りつけ、階段から突き落としてから入口のドアを開けてすぐに閉めた。
鍵はもちろん、すぐ傍にあった掃除用具の入ったロッカーを倒して塞ぐ。
予想通り、力任せにドアを開けようと奮闘したあと、拳銃で出入口を撃ってきた。
「オレのせいになっちまうのか…?」
引きつった笑みを浮かべたところで、外から不穏な声が聞こえてきたので、慌てて階段を上がって最初に男鹿の部屋へ踏み込む。
「おまえら!! …ババ抜きしてんじゃねえよっ!!」
知らせる前につっこんだ。
頭にベル坊をのせた男鹿、古市、奈須、強制的に起こされて参加させられた寝惚け顔の神崎は四角形に座り、テーブルを中心にババ抜きをしていた。
仲間からの連絡待ちだからといって、呑気にもほどがある。
「なんか銃声みたいなの聞こえましたけど…」
「みたいじゃなくて、撃ってきてんだよ!! すぐにここから離れろ! 相手は今度はスゲーの撃ちこんでくるぞ!!」
「スゲーのって…」
未だに寝惚け顔の神崎が言いかけた時だ。
外で、ボシュッ、と花火のようなものが発射された音が聞こえた。
そのまま、ひゅるる~、と上空ではなく、こちらに近づいてくる音がする。
その場にいる5人は窓の外を見、戦慄した。
ロケットランチャーの弾がこちらに迫ってきていたからだ。
「な…っ!」
「うおっ!?」
男鹿は古市を、姫川は神崎を肩に担ぎ、奈須は自分の荷物を持ち、廊下を出て目の前のガラスを突き破り、3階であることにも臆せず飛び降りた。
後尾の奈須が飛び降りた途端に、
ドカァンッッ!!!
イシヤマファミリーのアジトが爆発し、爆風に吹っ飛ばされた5人は隣の2階建ての建物の屋上に落ちる。
「ぐっ」
「あだっ!」
「う゛」
着地も失敗し、しばし屋上を転がった。
打ったところを擦りながら立ち上がり、男鹿、神崎、姫川、古市は木端微塵となって炎上するアジトを茫然と眺め、奈須に振り返る。
「「「「奈須…」」」」
とんだとばっちりだ。
どれほど恨まれているのか。
いっそ自分たちの手で…、とジト目で見つめていると、奈須は「落ち着くっちゃ!!」となだめようとした。
「事件解決したらちゃんと弁償するから、そんな顔しないでほしいナリ」
「チッ…。東条達に車貸してよかったぜ…。アシを失うのもかなり痛いからな…」
舌打ちして前向きに考えることにした男鹿は、ポケットからケータイを取り出し、メールを送り付けた。
“アジト爆破 その場で待機 必要な情報求む”
「送信」
「受信したみんなの顔が浮かぶな…」
メール文を覗き込んだ古市は引きつった笑みを浮かべながらこぼす。
遠くで車が走り去る音を聞いて、奈須を狙っている相手が逃げたと考える。
「ロケットランチャー撃ちこんでくるくらいだ。相当恨まれてるよな…。なすび、心当たりある中で誰か特定できねーのかよ。もう巻き添えはゴメンだからな」
その場に胡坐をかいて奈須に指さす神崎に、奈須は「人の恨みなんてそれぞれっちゃよ。…オレなんて、楽しみにしてたおやつ取られただけでも殺意湧く…」と虚ろな瞳で答える。
「「あー、わかるわ」」
「わかるなよ!! 器の小せぇ奴らだな!!」
同意した男鹿と神崎に古市がつっこむ。
「じゃあ、このバッジに心当たりは?」
「!」
姫川が指で弾いたそれを、奈須は右手でつかみとって見る。
姫川を襲った男が身に着けていたものを、姫川が階段から突き落とす前に引き千切ったものだ。
ドクロの上に小鳥がのったデザインで、銀でつくられていた。
「……あ―――…、あいつらか……」
心当たりは、一気にひとつに絞られる。
ようやく怒りを向ける対象がはっきりしたのか、奈須は口元に笑みを浮かべたが、そのこめかみには青筋を浮かばせていた。
ぎゅっと、渡されたバッジを握り潰す。
「男鹿っちゃーん、このあとも付き合ってくれたら、いい物件紹介するナリよ?」
逆に、断らせないと言った雰囲気を身に纏っている。
「ここまで来て、放り投げだせるかよ」
「そうこなくっちゃ☆」
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