けじめ、つけます。
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翌日、実家でスーツに着替えた神崎は指定通り、比良竹組の事務所に足を踏み入れた。
比良竹の部下に案内され、3階の部屋へやってきた。
比良竹は机に足を載せ、偉そうに座っている。
またヘビ柄の上着を着ていた。
部屋に通された神崎を見るなり、不気味な笑みを浮かべた。
「いらっしゃーい、はじめ君。来てくれてよかったわ。来ぉへんかったら…、どないしょうか思た…」
意味ありげな眼差しを向けれた神崎だったが、その表情は冷たかった。
比良竹は部下と目を合わせて小さく手をあげると、部下は会釈したあと大人しく部屋を出て行った。
そのあと、椅子から立ち上がり、ゆっくりと神崎に歩み寄る。
舐めまわすような視線だ。
「…正直に話せよ。姫川を撃ったの…、てめーなんだろ?」
「……最初ははじめ君を撃つつもりやった。けど、旦那さんのせいでしくじってもーた…。証拠が残らんかったんが幸いやったけど…」
「オレを狙った理由は?」
「そっちの組長さんが倒れたて聞いとったから、考え変えて跡継ぐかもしれんはじめ君が死んでくれたら、乗っ取りは可能や。けど、まさか組長さんの倒れた原因がただのぎっくり腰って…」
そこで耐えきれず、比良竹は腹を抱えて笑い始めた。
姫川が撃たれたあと、病院の様子を見に行った部下が見舞いに行く恵林気会組長を見かけ、報告されたのだ。
組長が健在となれば話も変わる。
そこで比良竹は考えを改めた。
「証拠がない言うても、オレらが疑われたんは確実や…。けれど、それで抗争起こしてくれたら、おまえら恵林気会はただの暴力極道。こっちとあっちの世界でも地位が下がるんは目に見えとる。…オレらには味方多いから、坂転がせるんは簡単やで?」
「要はオレをどうしたいんだ?」
「恵林気会潰す役やってもらう」
「…!」
「断ればわかっとるよな? ホンマは早よキミの親父に泣きついてほしかったんやけどなぁ。嫌がらせの花束とか送り続けたのに…。しゃあないから、直接頼みたいねん」
そう言いながら、比良竹は神崎の肩に自分の腕をかける。
神崎の目は宙を見つめていた。
「…オレに引き金ひかせる気か?」
「はじめ君が声をかけてくれれば簡単や。部下達からも慕われとるし、みんな一斉に押し掛けてくる…。そして堕ちる…。安心してもええで。恵林気会潰れても、はじめ君と旦那さんの面倒はオレが見たる」
「……………」
「それとも、今ここでさらに脅しのネタ作っといてもええねんで?」
比良竹は神崎の肩に腕をかけたまま、そのアゴを手のひらで擦りだす。
「オレとヤッたら、みんな怒るやろ?」
ヘビのような目が近づいてくる。
肩にかけられた腕が外され、裾の中へと侵入してきた。
「大人しいなぁ…。旦那さんが寝たきりで御無沙汰やったんちゃう? オレと旦那さん、どっちがうまいか比べてみる?」
「……………」
「だんまりかいな。…ちょっと嫌がってくれな、同意みたいで抗争のネタにもならへんやん?」
アゴを擦っていた手が右頬に添えられた。
神崎はその手に、自分の手を重ねた。
「…抗争なら、もう始まってる」
「あ?」
ボキィッ!!
「う゛…っあ゛ああああっ!!?」
比良竹の小指をつかむなり、神崎は容赦なくそれをへし折った。
そのまま比良竹の腹に膝蹴りを打ち込み、床に転ばせる。
「ぐっ…!!」
比良竹は後ろ90度に曲がった小指を押さえ、そこから訴える激痛に耐えながら神崎を見上げ睨みつけた。
神崎はゴミを見るかのような目で比良竹を見下ろし、口を開く。
「指の切断よりはマシだろ」
「おどれ…!! なんのつもり…」
言葉を切ったのは、額に銃口を当てられたからだ。
神崎の手には、懐から出した拳銃が握りしめられていた。
「抗争だっつってんだろ…」
パァン!!
「親父も家族、姫川も家族…。どっちも天秤にかけられねえよ」
神崎が撃った銃弾は、比良竹のすぐ横の床に撃ちこまれていた。
硝煙を上げる銃口に、比良竹は大量の冷や汗をかく。
「お…、おどれ…、自分がなにしたかわかって…」
声を震わせながらも、脅しを続けようとする。
「てめーこそ、オレらになにしたかわかってんのかよ?」
「お…、おまえら!! …!?」
部下達を呼ぼうと声を張り上げたが、誰も部屋に入ってこない。
比良竹の悲鳴と銃声を聞きつけた時点で血相を変えて入ってきてもいいくらいなのに。
返ってきた静寂に、比良竹の顔が徐々に青白くなっていく。
「来ねーよ」
「な…」
「ここの奴ら全員、脅しかけるか、金で買収した。姫川が撃たれた証拠がなくても、他の埃なんて叩けばいくらでも出てきたぜ。それを見せびらかしたら、あっさり身を引いてくれた。ここより働きやすいところも紹介してやったし、逃亡の手続きもしてやったし…」
比良竹はあいた口が塞がらなかった。
今日まで全員今までと変わらず自分に接していたのだ。
「そんな…」
そこへ、ひとりの男が入ってきた。
「神崎様」
蓮井だ。
*****
昨日、神崎は蓮井に頭を下げてこう言った。
「オレひとりじゃどうにもならねえ…。だからって、親父達も巻き込みたくねえ…。…手を貸してくれねーか?」
神崎から頼みごとをされたのは、初めてのことだった。
驚いて目を見開いた蓮井だったが、それも一瞬のことで、すぐに微笑んだ。
「……元からそのつもりですよ…」
蓮井が取り出したのは、A4サイズの封筒だった。
それを受け取った神崎は中身を確認する。
それは、比良竹組の悪行ばかりが記載されていたファイルだ。
取引の写真まで添付されてある。
「これ…」
顔を上げると、蓮井は会釈した。
「比良竹組の関係者などからお譲りいただいたものです。好きにお使いください」
「……………」
これが蓮井なりの仇討なのだろう。
どうして今まで自分ひとりで抱え込んでばかりで、この男に相談しなかったのだろうか。
自分より見事な行動ぶりに感服を覚えた。
「神崎様、汚れ役…お供します」
「…ああ」
そして、2人は比良竹組の脅迫と買収にかかった。
*****
逆転された比良竹はただただ神崎の冷たい表情を見つめていた。
勝算も余裕もない。
神崎が気紛れに引き金をひいてしまっても、自分を守るものはなにもないのだから。
「ケンカ売った相手が悪かったな」
「…っガキが…!」
「気に食わねえが、てめえのおかげで決心がついた。…オレは、親父の跡を継ぐ」
「…!?」
「ハンパな気持ちでこの業界に関わっちゃだめだったんだ。親父を手伝うからには上を目指す。今度はこっちでてっぺんとって、誰にもナメさせねえ組にしてやる…! 2度と姫川に手は出させねえ! ナメてかかる奴は…、ぶっ潰す」
重みのある本気の言葉に、比良竹はゾッと戦慄した。
神崎は再びその銃口を比良竹の額に当てる。
「お…、オレを殺したら、それもおじゃんやで!?」
「こっちでもみ消す。うちのスポンサーならそれができる」
「……っ」
比良竹は蓮井を見たが、蓮井は涼しい顔でそれを眺めているだけだ。
「……す…、すんませんでした…」
逃れる手はそれしかないと考え、その場で両手をついて額を床に擦りつけた。
「……なんだそれ」
ゴッ!!
「っぐ!!」
一言言うなり、神崎はその顔面を蹴り上げた。
その後も出血する鼻を押さえて横たわる比良竹にまたがり、問答無用に殴り続ける。
「…神崎様」
蓮井はその場に近づき、殴ろうと振り上げたその手首をつかんだ。
「放せ…! こんな…、こんな安い土下座するヤロウにあいつは…!!」
「ひ…っ、すんま…、げほっ、すんません…!」
鬼の形相の神崎に、命の危機に比良竹はパニックになりながらも謝り続けた。
それが火に油を注いでいるとも知らず。
「黙れ…!!」
眉間に銃口を擦り付ける神崎。
「やめ…っ!!」
「神崎様!」
そこで蓮井は持っていたケータイを神崎の手に握らせた。
「…病院から、お電話が…」
「…!」
それを聞いた神崎は、持たされたケータイを自分の耳に当てた。
「…!!」
電話越しから聞こえた声に、神崎ははっと目を見開き、拳銃の引き金を引いた。
カチン…ッ
「―――っは…」
銃弾は、最初の一発だけしか装填されてなかった。
乾いた音が部屋に小さく響き、比良竹は短く息を吐き、恐怖から解放されると同時に意識を手放した。
立ちあがった神崎は拳銃を懐にしまい、自分のケータイで無様に気絶した比良竹の写真を撮ってから蓮井とともに事務所から出て行った。
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