嫁の実家にお泊まりです。
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翌朝、神崎と姫川は朝食を済ませたあと、父親に挨拶をしてから帰ることにした。
玄関で部下達に見送られ、2人はフェラーリに乗り込んでもうひとつの家へと向かう。
髪は家に帰ってからセットするつもりだったので、姫川は髪を下ろしたままだ。
「親父さん、他になにか言ってたか?」
運転中の姫川は前を見ながら尋ねた。
助手席の神崎はサイドの窓の流れる風景を眺めながら「いや…」と言ってから言葉を継ぐ。
「「ウチのことは気にするな。好きにしろ」って言われた…」
「……そっか。神崎としては、もう…、家を継ぐ気は一切ないんだな? 確かにオレと一緒じゃ子供はできねえけど…、それでもおまえが跡継いだら、まだしばらく組は安泰なんだろ?」
「……まあな。…そうだけど…」
カタギではないだけに、神崎は不安だったのだ。
今は稼業の手伝いだけをしているものの、このまま家の跡を継いでしまえば、表から裏まですべて関わらなければならないのだ。
組の抗争なんて今時でも珍しい話ではない。
どことどこの組が抗争して死人が出たなんてニュースを聞くだけで体が震えてしまう。
あの世界に足を踏み入れ、少しでもヘマをしてしまえば、身内である姫川まで危険が及ぶ可能性がある。
神崎はそれを一番恐れていた。
「まだ、よくわかんねえ」
曖昧な言葉を返し、ムリヤリその話を終わらせた。
マンションの駐車場に到着し、最初に神崎が降りて車の裏にまわって荷物をおろそうとする。
続いて姫川がおりた時だ。
「!」
姫川は駐車場の奥に停車してある黒のワゴン車に目を留めた。
(あの車…)
このマンションの駐車場は、住人しか置けず、位置も決まっている。
普段あそこには女性が好きそうな水色のミニバンが停車しているはずだ。
車を買い換えたかと思ったが、それにしては随分と男らしいものに買い換えたものだ。
スモークフィルムで中は見えない。
怪訝に見つめていると、助手席の窓から手が出てきた。
「!!」
その手には、一丁の拳銃が握られていた。
銃口は荷物を下ろしている神崎に向けられている。
「神崎ぃっっ!!」
「!」
パンッ! パンッ! パンッ!
銃声は3つ。
反射的に姫川は神崎を抱きしめ、車の陰に転がった。
「な、なんだ!?」
突然のことに神崎は一瞬なにが起こったかわからない顔をする。
「神崎! 車に乗れ!」
相手はまだ撃ってきている。それは車にも当たった。
「クソッ、傷モノにしやがって…!」
舌を打つ姫川は先に、這うように助手席から運転席へ移り、神崎が助手席に乗り込んだのを目で確認したあと、シートベルトもせずにアクセルを踏んで発進させる。
エンジンをかけっぱなしにしていたは幸いだ。
相手が追ってくる様子はない。
それでもスピードを緩めるわけにはいかなかった。
またどこで狙ってくるかわからなかったからだ。
後ろを見ようとする神崎に「振り返るな」と叱咤する。
「神崎…、シートベルトしてくれ」
「おまえも…」
「オレはいい。それよりオレのポケットからケータイとってくれるか?」
言う通りにシートベルトをした神崎は、姫川のズボンのポケットからケータイを取り出した。
「蓮井にかけてくれ」
アドレス帳を開き、蓮井のケータイに電話をかける。
コール中に、神崎は姫川の耳にケータイを押し当てた。
「蓮井、今どこだ? …ちょうどいい。今から指定するところに車まわしてくれ。できれば人手が多い方がいい。ああ。あと、神崎の実家に電話いれてくれ。組絡みかもしれない。神崎が狙撃された。幸い、ケガはねえよ」
簡潔に事情を説明した姫川は、場所を指定したあと通話を切り、神崎を撃ってきたあの手を思い出した。
ヘビ柄の袖が見えたのだ。
ハンドルを握りしめる手に力が入る。
「神崎…、おまえを狙ったのは比良竹組かもしれない」
「!」
「見たことある、ダサいヘビ柄の袖が見えた…。たぶんあいつだ」
神崎の脳裏に、比良竹の顔がよぎる。
「どうしてあいつがオレを…」
「わからねえ…」
そう言いつつ、姫川は考えた。
相手は神崎の父親が倒れたことを知っていたが、まさかぎっくり腰で倒れたとは知らなかったのかもしれない。
それで勘違いしてしまい、跡を継ぐか曖昧な位置にいる神崎を消しにかかったのかもしれないと考えた方が妥当だ。
それを伝えたかったが、今は呼吸をするのもやっとだった。
「……神崎…、オレがおまえを守るから…」
「え…、縁起でもねえこと言ってんじゃねえよ…」
そんな神崎に姫川は小さく笑い、車を大通りに走らせ、歩道橋が見えてきたところで路肩に寄せて停車させた。
「…姫川?」
「悪い…、そろそろ事故りそう…」
「あ? なに言って…」
見ると、姫川はドアに寄りかかって脱力し、その顔には大量の汗が滲んでいた。
「おい…?」
神崎が声をかけても無反応だ。
体を揺すっても、ピクリとも動かない。
様子がおかしいと身を乗り出して表情を窺おうとしたが、前髪で隠れて見えなかった。
「姫か…っ」
その顔をつかんでこちらに振り向かせようとさらに身を乗り出した瞬間、生温かくて粘り気のあるものに触れた。
「――――――っ!!!」
自分の手に、血が付着していた。
「おい、姫川!!」
姫川の足下には血だまりができていた。
神崎を庇ったあの時、姫川は背後から銃弾を2発も受けていた。
にもかまわず、流血した状態のまま、神崎をここまで運んできたのだ。
「ひめか…っ、しっかりしろ…! なあ!」
流血は止まらない。
神崎は脱いだ上着を姫川の背中の傷に押し当て、聞こえているか定かでない耳に声をかけるか、そこから離れることもできずにクラクションを鳴らすことしかできなかった。
「姫川…!! 姫川ああああああっ!!!」
蓮井達が到着したのは、その5分後だ。
.To be continued