暮らし始めた2人は?
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同棲してからはオレと姫川はお互い仕事で、今月は遊びに行くヒマなどなかった。
4月ももう終わりが近い。
5月にはゴールデンウィークが待っている。
それならお互い休めるしどこへなりとも旅行へ行けるだろう。
けど、いつか約束していた花見は行けなかった。
この時期だと、もう咲いているところはたかが知れている。
先に帰ってきたオレは真っ暗な部屋に「ただいま」と呟いた。
姫川から、今日で外で食べてくるとメールで送られてきていた。
だからその日は適当にカップ麺で済ませて風呂に入って自室で寝ることにした。
あいつ、忙しすぎてあの約束、きっと忘れてんだろうな。
ほとんど不貞寝だ。
眠気に意識が持って行かれそうになった時だ。
不意に姫川の声が聞こえた気がして、意識が引き上げられる。
「神崎、神崎」
「ん…」
薄く目を開くと、スーツを着た姫川がオレのベッドに腰掛け、オレの顔を覗きこんでいた。
「ただいま」
「あ…、おかえり…。なに…、ヤるのか?」
寝惚けているせいかそんなことを口走ってしまい、姫川は苦笑した。
「それはあとにして、花見、やらねーか?」
こいつは疲れのあまりなにを言っているのだろうか。
「桜…散ったって…」
明日も仕事なのに。
大体、近所の公園の桜はとっくに散っているぞ。
姫川は終始笑みを絶やさずに、オレの手を優しく引く。
「いいから、来いよ」
「?」
オレはわけがわからないまま姫川に大人しく引っ張られていく。
足が向かう先は玄関ではなく、ダイニングのベランダだ。
姫川は窓を開け、ベランダ用のサンダルを履いてベランダへと出る。
オレも色違いのサンダルを履いて一緒に出た。
すると、ヒラヒラとなにかが舞っているのが視界に入った。
姫川はあらかじめ用意していたのだろう、ベランダの隅に置いた小型のスポットライトを点けた。
「あ…」
オレは思わず声を漏らしてしまう。
何千何万の桜の花弁が宙を舞っている。
近くに桜の木はないはずなのに。
そう思って見上げて見ると、姫川のヘリが飛んでいるのが確認できた。
桜の花弁はそこから撒かれているようだ。
「これ…」
「間に合ってよかった…。花見の約束してたのに、今年はどこにも行けなかっただろ? だから…、ちょっと小遣い…、いや、自分の給料使っちゃった」
約束、覚えてたのか。
オレは緩む口を隠し、「ちょっと待ってろ」と姫川を待たせてダイニングに戻り、キッチンの冷蔵庫の奥からうちの若い奴らからもらった日本酒を取り出し、それとおちょこを2つ持って姫川のもとに戻った。
「ほら」
おちょこをひとつ手渡し、酌をしてやる。
綺麗な透明色だ。
「花見といったら、花見酒…だろ?」
オレはニッと笑い、自分の分も注いだ。
「お疲れ」
「…お疲れ」
姫川がそう言って、オレも返す。
桜の花弁は雪のように降り続く。
ヘリの操縦士もお疲れ様。
しばらくして、他のマンションの住人や近所の住民もベランダや外に出てきて桜を鑑賞している。
花弁の一枚が姫川のおちょこに舞い落ちて浮かぶ。
どうする気なのかと思ったら、そのままグイと一気飲みだ。
「おお、どんな味だ?」
いいカンジに酔いがまわってきたオレは尋ねた。
「こんな味」
姫川はニヤリと笑って顔を近づけ、オレに桜の味を教えてくれた。
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