嫁の実家にお泊まりです。
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「なにしてんだ?」
「見ればわかるだろ。鍋作ってんだよ」
調理場で、神崎は、白のエプロンを身につけて部下達とともに食材を切っている姫川を見つけた。
話を聞くと、料理の手伝いを頼まれて今に至るらしい。
「カニ鍋だぞ。神崎っ」
サングラス越しの目をキラリと妖しく光らせる。
(確かに2人の時はあまり鍋なんてしねえもんなぁ…)
姫川は鼻唄を歌いながらカニの足を折っていた。
ぎっくり腰の話を聞かされていなければ、今頃通夜のような雰囲気になっていただろう。
なのに今では楽しげにカニを千切っているのだ。
部下達と姫川の共同作業という奇妙な光景を眺め、神崎は手伝おうとする。
「あ、そんな! 若っ」
「挟まれますよ!」
「挟まれるかっ」
神崎の手を煩わせまいとおろおろする部下達だったが、神崎は軽くあしらって姫川の隣でカニの足を千切り始める。
「姫川、もうちょっとキレーにとれよ。こうだ」
バキッ、とカニの関節を折り、ちゅるんと中身を残さず取り出す。
「な? キレーにとれたろ?」
「たしカニ…だぁっ!?」
つまらないダジャレに、神崎は無言でカニのハサミの部分を姫川のリーゼントに突き刺した。
*****
その夜は予定通りカニ鍋となった。
強面ぞろいの部下達とともに、あらかじめ切っておいた食材を鍋に入れてよく煮込めたあと、食していく。
忘年会というわけでもないのに、部下達は酒を飲み交わし、姫川にも遠慮なく絡み始めた。
「若との同棲生活はどうだー、姫の字ぃ…」
「同棲っつーより結婚かー」
「夜の方はどうなんや?」
「ほらほら、遠慮せずにじゃんじゃん飲めや」
「見事なリーゼントじゃのー」
大人数に絡まれすぎてもみくちゃにされている。
神崎は手を伸ばしたまま助けようか迷っていた。
酒臭い大人たちに絡まれてさぞ不機嫌だろうと思えばそうではない。
むしろ笑っていたのだ。
リーゼントを乱されようが、馴れなれしく肩を組まれようが。
夕飯を終えたあと、姫川は風呂に入り、部下達から手渡された寝巻用の薄いグレーの浴衣を着て縁側を渡っていた。
行き先は神崎の自室だ。
リーゼントを下ろし、ひとつに結って肩にのせているため、他の部下達とすれ違うたびに「誰!?」と警戒露わに驚かれるので、面倒なことだったがひとりひとりに説明していく。
「!」
向かいから神崎がこちらにやってくる。
まだ私服のままだ。
「風呂?」
「いや、その前にヨーグルッチ買いにコンビニ行こうかと思って」
「だったらオレも行く」
姫川は踵を返し、神崎と並んで玄関へと向かう。
出て行く際、見かけた部下から「若、姫川のボウズ、お気をつけて」と会釈された。
コンビニまで、歩いて10分。
コンビニで大量のヨーグルッチを買ったあと、神崎と姫川はまた家へ戻ろうと同じ道を歩く。
ついてきたわりに姫川はなにも買わなかった。
神崎は前を見て歩く姫川の横顔を一瞥し、口を開く。
「…あんだけもみくちゃにされときながら怒らなかったな…」
「ん? …ああ…」
「ガマンせずにガツンと言ってもよかったんだぜ?」
「ガマンしてたわけじゃねーよ。…オレ、ああやって大人数で食卓囲んだことなくてよ…。ちょっと新鮮だったっていうか…。あれが「家族みたい」って思ったら…」
そう言う姫川の口元は緩んでいる。
昔から、仕事に追いまわされている親とは、食事の際はめったに顔を合わせたことがなかったのだろう。
「……みたい、じゃねーよ。オレとケッコンしたんだから、てめーはとっくにオレの家族の………あ―――…」
一員、という言葉が小恥ずかしくて口から出てこない。
それでも神崎の言いたいことが伝わったのか、姫川は嬉しげに微笑んだ。
「神崎…」
「!」
恥ずかしげにそっぽを向いていると、いきなり手を握られた。
「帰りも一緒」
「………ああ」
「寝るのも一緒」
「……さすがに実家だけは控えろよ」
2人は手を繋いで、家路につく。
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