嫁の実家にお泊まりです。
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翌朝、朝食を済ませて私服に着替えた神崎と姫川。
神崎に実家に行くとなっても、姫川はリーゼントをセットする。
それを見ても神崎は「それがおまえらしい」と言って笑うだけだ。
2人はマンションを出て、姫川の愛車であるフェラーリに乗り、神崎の家へと走らせる。
朝食の時もそうだったが、父親が心配なのかいつもより神崎の口数が少ない。
今も、茫然とした表情でサイドの窓の向こうを眺めていた。
広くもなく狭くもない車道を走り、懐かしの石矢魔の通学路であった商店街が見える。
姫川はそんな神崎の横顔を一瞥し、早く家に到着してやろうとアクセルを踏んだ。
そんな時だ。
なにかを見つけたのか、突然神崎の体がピクリと反応した。
「姫川、ちょっと停めてくれるか?」
「!」
大通りでいきなり停車するわけにはいかない。
姫川は左のウィンカーを点灯させて路肩に停車させた。
すると神崎は「ちょっと待ってろ」と言って車を降り、商店街の方へと小走りになる。
神崎が見つけたのは、明らかにカタギに見えない3人組の男達に囲まれている、2人の石矢魔生徒だ。
ナメられないようにと凄んではいるが、相手が悪い。
近づくにつれて物騒な会話が聞こえる。
「さすがは石矢魔やな。人にぶつこぉといてコーヒーかけときながら、謝罪もなしかい。このスーツ、いくらした思っとんじゃ? お?」
3人組の中心に立って関西弁で声を低めて言うのは、黒の短髪でヘビ柄のスーツを着た男だ。
そんなスーツを着ているせいか、睨まれる石矢魔生徒はカエルのように動かない。
「ぶ、ぶつかってきたのはそっちだろが! アンタがよそ見してたの、オレ見てたんだからなっ」
浮足立ちになりながら、それでもケンカ腰に言い返すのが石矢魔らしい。
ヘビ柄のスーツの男は露骨に舌打ちをし、言い返した石矢魔生徒の胸倉をつかんで顔面を近づけ凄む。
「おどれはオレが、間抜けにもぼうっとしてたとでも言いたいんか?」
「そ、そこまで言ってな…」
ゴッ!
「ぐ…!」
言い返そうとしたが、ヘビ柄のスーツの男に容赦なく顔面を殴られ、その場に背中を打ちつけた。
商店街にいた通行人は思わず立ち止まり、ギョッとそちらを見つめる。
「恭平!」
一緒にいた男子生徒は駆け寄り、ヘビ柄のスーツの男を見上げて親の敵のように睨みつける。
「なんやその目。…おい、こいつら事務所連れてけ。反省の仕方叩きこんだる」
「へい、若」
一緒にいた2人組の男が石矢魔生徒を強引に連れていこうとした。
警察を呼ばれてもおかしくない状況だ。
「待てよ」
そこで声をかけたのが神崎だ。
全員がそちらに顔を向ける。
ヘビ柄の男は見覚えがあったのか、面白げに口元を笑わせた。
「ほーっ、これはこれは懐かしい…。神崎組のボンやないですか。たしか、はじめ君やったな…」
「比良竹組が…、オレらのシマでなにやってんだ」
「あはは…、なーに、健康的に朝の散歩しとったとこ、この無礼なガキどもにおニューのスーツ汚されてもーて…、これから教育させるとこや」
笑みを含めた言葉に、石矢魔生徒は戦慄する。
神崎は比良竹組組長の一人息子である、比良竹一斗のことを思い出していた。
何度か親に連れられて家にきたこともあった。
年はあちらが4つ上。
線の細い顔に似合わず、昔から弱者には容赦なく、極道は適職だ。
最近、父親から聞いた話では、近々、比良竹組を継ぐそうだ。
それでも、まだ正式に継承されたわけでもないのに、部下を引き連れて好き放題やっているらしい。
「そいつらはオレの後輩だ。見逃してやってくんねーか? そいつらの服も血で汚れちまったしな」
それを聞いた比良竹は鼻血を垂らした石矢魔生徒を見下ろし、噴き出した。
「おあいこってやつ? 学生服とじゃどう見たって割に合わへんやろ。ククッ、はじめ君、やっぱキミ、ヤクザには向いてへんわ」
「あ?」
すると、比良竹は神崎に接近し、そのアゴに指をかけて顔面を近づけた。
突然のことに、神崎は動けない。
「このヒゲ、童顔隠すために生やしとんの? なんやったら…いででででででで!!?」
いきなり手首をつかまれたかと思いきや、そのまま関節をひねられ、比良竹は悲鳴を上げた。
「「若っ!」」
「オレのお気に入りチャームポイントに気安く触らないでくれる?」
「姫川っ!」
神崎の様子が気になり、フェラーリを路肩に停めたまま追いかけてきたのだ。
腕を放された比良竹は姫川から離れてつかまれた手首を押さえ、姫川を睨みつける。
「おどれはなんや!?」
「若になにしてくれとんじゃ!」
「そっちこそ、うちの神崎になにしようとしてんだ」
姫川は怯まず神崎の肩を寄せて言い返す。
それを見た比良竹はひとつの噂を思い出した。
「はじめ君…、もしかしてそのヤロウが噂の…。…ひょっとして、はじめ君がアンコなんか?」
露骨に笑いを堪えている。
姫川は神崎に小声で尋ねた。
「アンコってなんだ?」
「……男色関係で女役のことだ…。ちなみに男役のてめーは…、カッパだな」
「カッパ…」
普通にタチやネコとは言わないようだ。
「だったらどうしたってんだ。オレは別に恥ずかしいことだとは思ってねえよ」
てっきり恥ずかしがって否定するかと思いきや自信を持って言い切る神崎に、姫川は、フ、と笑い懐からサイフを取り出しながら石矢魔生徒に声をかける。
「おまえら、ここはオレらがなんとかしてやるから、さっさと学校行きな」
「ひ…、姫川先輩、神崎先輩、ありがとうございます!」
学年が1年でも、彼らの噂は知っていた。
無傷の石矢魔生徒は相方に肩を貸しながら石矢魔高校へと向かう。
「おい…」
比良竹は声を荒げて呼びとめようとしたが、その前に姫川が適当につかんだ札束を比良竹の足下に放った。
「スーツ代だ。次はもうちっとマシなスーツ買え。…行くぞ、神崎」
「金なんてやることねえよ…」
「そろそろ警察呼ばれそうだからな」
姫川は不服そうな顔をする神崎の背を軽く押し、その場をおさめようと促す。
「恵林気会の組長が倒れたそうやな! けど、はじめ君、継がんのやろ!? 男に走ったばかりに、この親不孝モンが!!」
明らかに見下された腹いせに、比良竹は周りの通行人にも聞こえるように怒鳴った。
神崎は立ち止まりそうになったが、姫川はその手をつかんで早足で去る。
「気にすんな。ただの遠吠えだ」
「………………」
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