小さなお客様。
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「―――川…、姫川…」
その声に釣られ、眠りから覚めた。
目を開けると、薄暗い部屋の中、こちらを窺う神崎の顔があった。
「神崎…」
二葉がいつまでも裾を握りしめるもんだから、いつの間にかオレも眠ってしまったようだ。
オレと神崎は二葉を挟んで川の字で横になっていた。
「二葉が世話になったな…。…元々風邪気味だったから、親父も連れて行かなかったんだ。…家抜け出して、そんな体引きずってまで…」
神崎は優しい眼差しを二葉に向け、その頭を優しく撫で、額に手を当て、「熱も下がってきたようだな」と言った。
「……よっぽどおまえに会いたかったんだろうな」
「二葉、なにか言ってたか?」
「オレの気に障るようなことはなにも言ってねえよ」
「一を返せ」。
これは言わないことにした。
「……そうか…」
「…それにしてもこの状況、オレ達に娘がいたらこんなカンジか?」
笑い混じりに言うと、神崎は顔を赤くして「バカ言ってんじゃねーよ」と慌てて返してきた。
「川の字なんて初めてだ。憧れてた時期もあったな。親と親が子どもを挟んでやるやつ」
まさか、やる側になるとは思わなった。
「川の字ねぇ…。オレはどちらかと言うと、州の字だったな」
「州の字!?」
「親がいない時は、若い奴らがオレの隣を取り合ってたのは覚えてる」
暑苦しい光景だ!!
「溺愛されてたんだな…」
しばらくして二葉が目覚め、神崎は用意していた卵粥を持ってきた。
「ほら、口開けろ」
受け取ったオレはレンゲですくい、息を吹きかけて冷ましてから二葉に食べさせる。
最初はそっぽを向いて抵抗していた二葉だったが、神崎が「ちゃんと食べねーと」とたしなめると、渋々口にした。
オレはちゃんと「えらいぞ」と言ってやる。
「子ども扱いすんなっ」と怒られた。
神崎は親に連絡してくると言ってダイニングの電話機へと向かった。
「うまいか? お粥」
「一が作ったんだからな」
「……おいガキ…、いや、二葉」
オレは一度手を止めて二葉と顔を合わせる。
「今日は泊めてやる。けどな、今度からちゃんと親に連絡してからこい。…何度でも来ていいからよ」
「!」
面白い。
口がぽかんだ。
オレがお粥を突っ込んでやると、すぐにはっとなって、お行儀よく咀嚼して飲み込んでから言い返してきた。
「て、てめーに言われてなくても何度でも来てやるよっ! …何度でも…っ、一に…、会いに…っ」
悔しいのか嬉しいのか、二葉の目から涙がこぼれ出た。
ここから先は神崎の出番だ。
見計らった神崎が部屋に入ってきて、オレは交代するように部屋を出る。
扉を閉めると、二葉が「はじめぇぇぇっ」と泣きだしたのが聞こえた。
叔父と姪だろうが、おまえらは似てるよ。
オレだって二葉に認めてもらいたいし、神崎だって二葉に祝福してほしいと思ってるに違いない。
時間はかかってもいい。
子どもが親離れするまで付き合ってやるよ。
翌朝、神崎の親父が二葉を迎えに来て、二葉はヤスに乗って行ってしまった。
「またなっ」。
去り際にそう言ってた。
たぶん、近いうちにまた遊びに来るだろう。
これも余談だが、オレの部屋の枕の下から数枚写真が出ててきた。
昨日手に入らなかったのと、州の字で寝てる神崎(おそらく4歳)の写真だ。
家の奴らに挟まれて、無邪気な寝顔で眠っている。
さすがヤクザの孫というか、写真の裏に“とくべつにやるっ。カリはかえした!!”と書かれていた。
オレはもう一度写真を見た。
昨日のオレ達も、傍から見ればこんなふうに、オレが憧れていたような幸福な親子に見えただろうか。
.To be continued