小さなお客様。
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“二葉が!? オレなーんにも聞いてねえぞ!”
やはりか。
聞いてたら、オレに連絡が入ってるはずだからな。
「オレだって聞いてねえよ! 早く帰ってきてくれ!」
二葉がダイニングで神崎のヨーグルッチを吸っている間、廊下でこっそりと神崎と連絡をとっていた。
騒ぎにしたくないのか、あっちも声を潜めている。
“親父も出てるって時に…”
「だからこっちに来たんじゃねえか」
“二葉どうしてる?”
「おまえのヨーグルッチ与えて、テレビ見て大人しくしてる」
“暴れてねえんだな。よかった…”
よくねーよ!!
来て早々、「客人にタオルもだせねーのか」、「ジュースじゃなくてヨーグルッチよこせ」、「一にかくれてエッチな本でもよんでたんだろ」、「ちゃんと、そーじしてんのか?」など、好き放題言われてんだぞ、こっちは。
ガキらしく暴れてくれたほうが数倍マシだ。
あれはもはや、姪じゃなくて、姑だ。
神崎の実家に電話して迎えをよこすか迷ったが、神崎の姪を無下に扱うのもまずいと判断した。
神崎の親父さんが溺愛しているらしいからな。
ガキだろうが敵にまわすべきじゃない。
「コソコソなにしてんだっ! ヨーグルッチ飲み終わったぞー! 次よこせー!」
ヨーグルッチを連続で飲むな。
オレが神崎に蹴られるだろ。
「今晩何時に戻ってこれそうなんだ?」
“早くても9時過ぎだ。この大雨の中、急いでは帰れねーぞ”
本当は一時も早く来てほしいところだが、事故されても困る。
「……わかった。それなら仕方ねーから、二葉はオレに任せて、ゆっくり帰ってこい」
“ああ、すまねえ”
通話終了。
オレはダイニングへと戻った。
ソファーに座ってカラッポのパックを握っている。
オレがダイニングに戻ってくると、敵意丸出しの目で睨みつけられた。
どうもオレはこいつに嫌われているようだ。
理由は察しがつく。
大好きな叔父である神崎と同棲したうえに結婚までしてしまったのだから。
「一はまだ帰ってこないのかっ」
「ああ。夜遅くになるそうだ」
「チッ」
見た目に反して、性格キツすぎだろ。
どんな育て方したんだ、親。
それとも神崎の影響だろうか。
「ヨーグルッチはあまり飲みすぎないほうがいいぞ。…冷蔵庫にゼリーがあるけど食うか? イチゴのゼリーだ」
「プリンがいい」
このガキ…!!
無愛想なうえに生意気すぎる。
オレも気が長いほうじゃないから思わずコブシを握りしめてしまったが、相手は幼児だ。
それに神崎のカワイイ姪っ子。
オレが大人の対処をしなくてどうする。
引きつった笑みを浮かべたオレは、「プリンはないなー」と言った。
「じゃあ買ってこい! 5秒で! ポテチも食いたいっ! コンソメだぞっ」
ここでちょっと怒って見せてもいいか。
「おいコラガキ。この姫川竜也様をパシらせよーなんざ…」
そこで二葉は傍らに置いていた自分の黄色のポシェットをつかみ、中からなにかを取り出し、オレに見せつけた。
「なら、5分で買ってこい。1分で買ってこれたら5枚全部やる」
中学の制服を着た神崎(おそらく12歳)、ランドセルを背負った神崎(おそらく7歳)、庭でプール遊びする神崎(おそらく4歳)、転んで泣いてしまった神崎(おそらく3歳)、ミニカーで遊ぶ神崎(おそらく1歳)。
「すぐに買って参るから待ってろ!! 1分!? 上等じゃねえかっ!!」
オレはプライドをぶん投げて、サイフと傘を手にすぐにマンションを飛び出し、目と鼻の先にあるコンビニへと急いだ。
どうしても欲しいもののために。
特に、転んで泣いてるのが。
そして、2分になる手前。
急いで帰ってきたから髪も服もびしょ濡れだ。
やっぱり階段使うべきだったな。
手に入れたのは3枚。
全部欲しかった。
でも、一番欲しいのは手に入った。
それと、ランドセルのと、プールで遊んでるの。
…やっぱり、残りの2枚も欲しかった。
二葉はさっそくソファーでくつろぎながらプリンをちょっとずつ食べている。
「ここのプリンはあんまり甘くねーんだけどなー」とブツブツ言ってるが、聞かなかったことにしてやろう。
こんなに頑張って写真が手に入ってなければオレの怒りは爆発しているが。
オレは椅子に腰かけ、タオルで頭を拭いた。
リーゼントが水を含んでしまい、重たい。
一度解くしかねえか。
プリンを半分食べた二葉はそれを目の前のテーブルに置き、こちらを見た。
「一のこと、好きなのか?」
「ああ」
オレは即答した。
本人がいたら恥ずかしがって「答えるな」と騒ぐのが目に浮かんだ。
「…二葉の方が、一のこと、もっと好きだ。一だって二葉のこと同じくらい好きに決まってる」
「……なにが言いたいんだ?」
「…っ、一をカイホウしろっ!」
突然二葉はソファーの上に立ち上がり、怒鳴った。
その顔は興奮で赤くなっている。
「解放…。オレが神崎を縛ってるって言いたいのか?」
「そうだっ! あのビデオ見たぞっ。ケッコンって男と女がやるもんだろ!? 男同士でバカじゃねーの!? じじいや他の奴らがみとめても、二葉はみとめてねえからな!」
これが普通の反応なんだな。
オレも神崎に出会わなかったら、「男同士なんて」、と鼻で笑っていたかもしれない。
「一になに言ったんだ!? 一を返せっ!!」
「…あいつを脅すことはなにひとつ言ってねえよ。それに、返してやる気はねえ。神崎は…、はじめはオレのモンだ」
オレはわざとらしく、左手の指輪を見せつけた。
「呼び捨てにすんなっ!! 一はてめーのモノじゃ…」
「オレも、はじめのモンだ。はじめがオレを必要としなくなったら、オレから離れて、自分でてめーのところに戻るだろ」
その時は、神崎が互いの縛りの証となっている指輪を外す時。
こいつには言わないが、オレはそれが恐ろしい。
神崎のいらないものになってしまうのが。
「…っ! 5歳児相手に難しい話してんじゃねーよ!」
大人げないと笑われるかもしれないが、たとえ相手が幼児だろうが、これだけは譲れない。
「一は…、てめーなんかに…」
「?」
二葉の体がフラフラしている。
安定の悪いソファーではないはずだ。
息も上がっている。
はっとしたオレは席から立ち上がって二葉に近づき、その額に右手を当てた。
「! さわるなっ!」
「つっ!」
手の甲を爪で引っ掻かれてしまった。
まるで猫だ。
触れられたのは一瞬。
けど、高熱なのは確かだ。
「ひどい熱じゃねーか! バカかっ。雨に濡れたせいだろ!?」
それか、元々微熱を患っていたかだ。
顔が赤らんでいる時に気付けばよかった。
「着替えてベッドに行くぞ。横にならねーと…」
両手を伸ばして二葉を抱えようとしたが、それも払われてしまった。
「さわるなって…、ハァ、言ってんだろ! ぶっ…コロすぞっ! こんなの…全然…平気…」
「おっと」
ソファーから落ちてしまいそうだったので、抱き止めた。
「やめろ…っ」
肩に蹴りを入れられたが、弱っているのかそれほど痛くなかった。
「ちょっと失礼」
服をめくり、下に白のキャミソールを着ているのを見てホッとした。
上着だけ脱がし、神崎のTシャツを着させ、神崎の寝室へと連れて行く。
オレの部屋だと落ち着かないだろうから。
すっかり暴れる気力もなくなったようだ。
ベッドに寝かされたら大人しくなった。
ツインテールも解いてやる。
「こんなこと…しても…一は…」
「「渡さねえ」。そうだろ? 喋るな」
オレはケータイで看病のやり方を検索していた。
体は温めてるし、ベッドに寝かさせたし、汗もある程度拭ってやった。
「…水枕?」
そういえば、物置にしてるクローゼットの中に入ってたな。
神崎の部屋を出て、ダイニングに入る前の右の壁にそのクローゼットがある。
漁ってみるとすぐに出てきた。
この袋に氷と水を入れればよかったんだっけ。
「なっ。反対側の口から水が…っ。あ、反対側はクリップでとじるのか…」
キッチンで完成させた水枕をタオルに巻いて神崎の部屋に戻り、二葉の頭の下に敷いてやる。
この部屋に寝かせて正解だったな。
オレが部屋を出たあと、すぐに眠ってしまったようだ。
ベッドの脇に腰掛け、汗が浮いた額をタオルで拭ってやる。
ふと、ポケットの写真を取り出し、プールで遊んでる時のと比べてみると、さすが血縁関係というか、似ていた。
親子じゃないのに。
ゆっくり寝かせておこうと思って腰を上げたが、シャツの裾をつかまれてしまった。
「一…、はじ…めぇ…」
目尻に涙を浮かばせ、寝言を言っている。
「…悪いな、取り上げちまって…」
頭を撫で、小さく言った。
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