捜しものはなんですか?
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「もういいから。オレこそ怒りすぎた…。悪かったな」
だんまりの朝食のあと、出かける前にオレが改めて謝ると、姫川は優しく笑ってそう言った。
「行ってきます」
頬にキスされ、いつもだったら「恥ずかしいからやめろ」というオレも、その時は素直に受けた。
仕事に行く時の姫川の背中は、どこかさびしかった。
それが余計にオレの良心を、しつこい蜂のようにつつきまわしてくる。
あいつの思い出に口を出す権利も、ましてや捨てる権利もオレにはなかったはずだ。
もうゴミは持って行かれてしまっただろう。
普通の奴ならどうするだろうか。
オレは夏目に電話して聞いてみる。
“石矢魔ゴミ処理場に電話してみれば?”
いつもの軽いノリで返ってきた。
親切なことに、タウンページで連絡先まで調べてくれた。
オレはさっそく電話してみる。
昨日ならまだ残っているかもしれない、だそうだ。
ただし、原形を留めているかは定かではない。
それでも、オレはすぐにそこへ向かった。
仕事先には、風邪で休むと嘘をついた。
つくしかなかった。
じゃないと、見つかる確率が減ってしまう。
途中でタクシーを使い、オレは石矢魔ゴミ処理場へとやってきた。
捜索はしてくれたようだが、それらしいものは見つからない。
「自分で捜す」
「そんな。それは困りますよ。ケガでもされたら…」
止めるのは当たり前だ。
一般人を集積所に入れるわけにはいかない。
それでもオレは退かずに頼み込んだ。
「この通りっ。作業の邪魔だけはしねえから! 大事なものなんだ!」
「……ちょっと待っててください。上の人と話しますから」
そう言って作業員がオレを置いて数分後、許可が下りた。
少しだけなら、と。
「終わったら、声かけてください」
そしてオレは、ゴミの中へと足を踏み入れ、結局は少しだけどころか、夕方までかかってしまった。
タクシーで帰る頃にはすっかり日も沈んだ。
自宅であるマンションに到着し、窓を見上げると明かりが点いていた。
先に帰ってきたようだ。
マンションの玄関を潜り、エレベーターへと向かったが、躊躇った。
匂いがこもりそうだ。
そこで、階段を使って501号室へと向かった。
ゴミ処理場で足腰使ったから、5階分の段差はきつかった。
501号室の前に到着し、鍵を差し入れて扉を開ける。
すると、鍵を回す音が聞こえたのか、真っ先に姫川が駆けつけてきた。
「神崎! どこ行って…」
「来んな来んな。オレ今スゲー臭いだから」
タクシーのオッサンもビビるくらいだ。
「これ…」
オレがポケットから取り出して姫川に差し出したのは、捨ててしまったオルゴールだ。
原形は留めていたが、左角は削れ、蓋の部分にはヒビが入っていた。
姫川は目を見開いていた。
「わざわざ…捜しに行ってたのか?」
それを受け取り、視線を落として尋ねる。
「ああ…。大事なモンなんだろ? 残すのも捨てるのもおまえの勝手なのに…。…だから、捜して来た」
「……………」
前髪のせいで姫川の表情が見えない。
ヒビが入ってることに怒っていたらどうしよう。
「そ、その、メシまだだろ? ピザでも頼むか?」
オレは靴を脱ぎ、姫川の横を通過してダイニングへ向かおうとした。
「!」
その時、通過する際、右腕をつかまれてしまい、「え」と驚いている間に腕の中におさまった。
「姫川!? 待て…っ、臭いが移る…! ッ…」
急いで体から離れようとしたが、後頭部に手を添えられ、口付けされた。
口を離されて前を見ると、小さく笑う姫川の顔がそこにある。
「先に風呂、だろ?」
そのあと、2人で浴室に行き、服のまま入った。
どうせなら一緒に洗ってしまえ。
姫川がシャワーのコックをひねり、湯を出し、オレの頭にかける。
それからシャンプーをもつけられて髪を洗われた。
終わったあとは交代。
オレと違って姫川は長髪だから、1プッシュじゃ足りない。
ボディソープで泡まみれになったところで、姫川が尋ねてきた。
「キス…していいか?」
「……ああ」
いつもはうかがうことなくしてくるクセに。
オレが頷くと、姫川はオレを壁に押しやり、唇を重ねてきた。
「…ぅ…んん…っ」
ベッドでしてる時のような、熱烈なキス。
それよりもゆっくりしたものかもしれない。
じんわりと脳を痺れさせていく。
立っていられなくなっても、姫川はオレの腰をつかんでゆっくりと座らせた。
それでも長いキスは続く。
次第にオレも自分の舌を絡ませた。
つたないものでも、姫川は小さく笑って応えてくれる。
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