もうひとつの帰る家です。
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高校生活終了まで残りわずか。
オレはあるものを持って親父の部屋に赴いた。
オレの手に握りしめたそれを見た親父はびっくりして目を見開き、書き物をしていた筆を落とした。
オレは部屋に一歩入り、正坐して持っていたそれを前に置き、畳に額をつけた。
「姫川竜也との同棲を認めてください」
親父相手に敬語を使ったのはいつ以来だろうか。
「親と縁を切ってまで出て行った兄貴とは違う。オレはちゃんと18年育ててくれた親に認めてもらいてぇんだ。あいつとは一生いたいからこそ…! そのためなら、けじめだってつける!」
本当に、指を何本もくれてやる覚悟だった。
人生最大の度胸だったと思う。
親父はオレの前に置かれたドスに目をやったあと、小さくため息をついた。
「昨日…、姫川の坊主が来た…」
それを聞いたオレははっと顔を上げた。
姫川が来た?
今日も学校で会ったが、そんな話はあいつから聞いていない。
「あの男も、頭を下げて「息子さんとの関係を認めてください」「息子さんをください」とな」
オレはうつむき、畳を見た。
「まったく…、曲った青春を送りよって…。指を切ってあの男が喜ぶと思うか」
「…!」
「……家を継ぐかどうかはまだ先の話だが…、わしの手伝いはさせる。…それでいいのなら…、帰る場所をもうひとつ作ってもいいだろう」
「あ…、ありがとう…ございます…」
顔が上げられない。
こんな情けないツラ、見せられるわけがない。
もうなにが嬉しいのかわからない。
ポタポタと水滴が落ち、畳に跳ねて散った。
ずびっと鼻を啜る音が聞こえた。
親父の方から。
え、親父?
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