暮らし始めた2人は?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「「……………」」
朝方、全裸の神崎は自分のベッドの上で正座していた。
寝間着の姫川は真顔で腕を組んでドアに背をもたせかけ立っている。
視線は、神崎の傍にあるベッドの人型の膨らみに向けられていた。
「……昨夜のことは覚えてるか?」
息を大きく吸い込んで吐き出した姫川は静かに尋ねた。
神崎は目を逸らしながら記憶をたどる。
「……夏目達と飲み会して…」
「何次会まで?」
「……調子に乗って4次会まで…」
結果、朝方まで飲んでしまったようだ。
「覚えてるのは?」
「ギリギリ…4次会の途中……」
姫川は依然として厳しい表情だ。
珍しく神崎の顔に反省の色が窺えた。
酔った挙句の過ち。
酔っ払いにはよくあることだがそれで済ませようとする姫川ではない。
二日酔いで頭痛を抱えている神崎に気を遣い、あえて声を抑えて説教する。
「……確かに、ここのところお互い仕事で忙しかったし、イライラも募ってたし、飲みたい気分はあるが…、限度を考えろよ。城山から電話でかかってきたぞ。4次会で飲んでる最中、いきなり「トイレ行く」とか言い出して店出て行ったってな。かなり酔ってる状態で」
「ぐ…」
言い返すことができない。
判断力も乏しくなり、うっかり店を出て行ってしまったのだ。
城山に送ってもらえばいいものを。
「どーすんだよ、そいつ。この浮気者」
「……………」
姫川は視線の先を指さすが、神崎は振り返ることができない。
姫川と視線を合わせ、苦しげに言う。
「…悪かった…。おまえとすれ違いが続いたのが、少し…、寂しかったのかもしれねぇ…」
「………その言い方はズルいぞ」
頭を垂れる姫川。
緊迫した空気が少し和らいだ。
「…次は気をつける」
「オレも、今度はちゃんと迎えに行けるようにする。……浮気はまあ、今回だけは許す。お持ち帰りしちまった相手も、オレが送り届けておくから…」
姫川はベッドに近づき、毛布の端をめくった。
膨らみの正体は、
「―――幸い、人間じゃねえしな」
ケンタッ●ーの、カーネルサンダー●人形だった。
酔って街中をフラフラした挙句、引きずって持って帰ってしまったのだ。
「…渋い趣味だな。コスプレしてやろうか? ん?」
「おまえまだ怒ってんだろ」
「本物の人間お持ち帰りしてたら数百倍激怒してるけどな」
「酔っててもそりゃねーから安心しろ」
「安心できるか。それにこれ、一応『窃盗』に入るんだからな。オレがなんとかなかったことにしてやるけどよ。しばらく禁酒な。目を離した夏目と城山にも注意しておく」
「う~」
正座状態から前に倒れて顔面をベッドにつける。
カワイイ、と思いつつ姫川は「唸ってもダーメ」と一蹴。
「おまえオレがいなくて寂しい時ねーのかよー。おまえこそ実はお持ち帰りとか…」
「いやそりゃねえな。そんな時のための対策はこうじてある」
「対策?」
姫川は一度自室に戻り、あるものを取ってきた。
「神崎抱き枕」
「ブッ!!!」
裏表あり、着服バージョンと、裸バージョンがある。
「いつの間に!!?」
「ちなみに3号だ」
「1号と2号もあるのかよ!!」
「これなら神崎が帰れない夜も、そんなにさみしくない。…温もりがないのが残念だが…、本物の温もりだけは再現できないからな」
「切なげな瞳で何ほざいてんだ!! 貸せ!! 燃やす!! 灯油かけて燃やす!!」
「ダッ●ワイフじゃないだけマシだろーが!! ライター振り回すな!! 家が火事になる!!」
「大体その等身大サイズどこに隠してた!?」
「んなことより!! オレの、いるの? いらねーの?」
「……………」
途端に、全裸で、ライターを片手に振り回していた神崎の動きが止まる。
また窃盗事件を起こすわけにはいかない。
ライターをポイと捨て、ベッドに腰掛ける。
「……リーゼントと…、髪下ろし…がいい…」
バージョンを注文され、姫川は小恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「すぐに注文するわ。ああでもどうしよう、抱き枕に嫉妬とか始めたらオレ終わってるよな?」
「…オレの抱き枕作った時点でもう終わってるっつーの。バカ」
そんな会話を聞きながら、傍らのサンダース人形は「早くおうちにかえりたい」と人知れず願うのだった。
.