暮らし始めた2人は?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜中、ハンドルを握りしめ、アクセルを踏み込み出来るだけ車を飛ばしている姫川は焦っていた。
時刻は12時を切って日付が変わろうとしている。
どう考えても、今日中に家にたどりつけるとは思えない。
特別な日だというのに、今日に限ってついてなかったのだ。
残業の末、会社を急いで会社を飛び出したはいいものの、いつもの帰路を走っている途中で工事現場に出くわして迂回させられるわ、スピード違反で白バイに足止め食らうわ、慣れない近道しようとして行き止まりに出くわすわ、散々である。
「クソ…」
舌を打ち、信号待ちの間に神崎に電話をかける。
“おかけになった電話は…―――”
電源を切られていた。
今日は早めに帰る、と宣言してしまったので頭を抱えてしまう。
今日は姫川の誕生日だ。
自分の誕生日だというのに、こうして神崎のために車を飛ばしていた。
朝に、「美味いメシ作ってやるから覚悟しとけ」と張り切っていた神崎を思い出す。
その気持ちを裏切りたくはなかった。
今日だからこそ、神崎に祝われたい。
信号を無視したいところだが、再び警察に呼び止められればそれこそ時間のロスだ。
「あ……」
家までもうすぐといったところで、姫川は悔しげな顔をした。
スマホの画面を見れば、その日付は4月18日になっていたからだ。
せっかくの誕生日なのに、今年は神崎と過ごすことができなかったことと、運のついてなさに絶望した。
悔し紛れにスマホの電源を落とし、時間を見なかったことにする。
結局、家に到着したのは深夜0時半を過ぎた頃だ。
その足取りは重い。
部屋の前に着いても、なかなか踏み込めずにいた。
(怒ってるだろうなぁ…。張り切ってくれたしなぁ…。謝るべきだろうなぁ…。許してくれるかなぁ…。あいつ昔から遅刻したらスゲェ怒るもんなぁ…)
神崎の誕生日ならば仕事そっちのけで家に帰ってくるというのに。
誕生日だからといってあなどっていた。
覚悟を決めてドアノブに鍵を差し込んでゆっくりと開け、中に入る。
美味しそうな匂いが漂っていた。
ダイニングの電気は付けっぱなしだ。
怒りのあまり包丁が飛んでこないかとカバンを構えたが、「ただいまー」と言っても静かだ。
「…?」
怪訝に思った姫川は忍び足でダイニングに入り、部屋を見回した。
テーブルには、少し冷めてしまった豪勢な料理と高そうなワインが置かれてある。
神崎はどこに行ったのかと部屋を見回すと、ソファーに寝転がっていた。
その様子に姫川は持っていたカバンを思わず落とす。
電灯が眩しかったのか、姫川のアロハシャツを頭から被って仰向けに寝ていた。
(え、コレ、デレ崎…、ええ!?)
口元を押さえ、萌えに震える。
シャツの端をつまんで少しだけ覗いてみると、口端からヨダレを垂らした寝顔があった。
「~~~っ」
嫁可愛さに、もう一度被せて床を叩く姫川。
(こいつも仕事の疲れがたまってるもんな…)
その寝顔をスマホに残しておこうと再びシャツの端をつまんで顔を覗いた時だ。
今度はパッチリと開けられた目が合った。
「おおっ!?」
びっくりして尻餅をつく。
神崎は眠そうな目をこすりながら、シャツを被ったままむくりと起き上がった。
こちらに振り向くが、シャツに隠れているせいでどんな表情をしているのか姫川にはわからない。
「……間に合ったようだな…」
「は? 間に合ったって……」
日付はとっくに変わっているはずだ。
「!」
だが、壁時計を見ると、時計は4月17日の23時半で止まったままだ。
他の置時計も時間が停止している。
「……時計が…―――」
「おう。オレからのプレゼントだ。おまえのために、バースデータイムを延ばしてやった」
自分達の家の空間だけ、4月17日のままなのだ。
神崎は頭にシャツを被ったまま得意げに腰に手を当てた。
「……まあ、半分は…、オレちょっと眠かった」
「プッ」
思わず噴き出し、笑ってしまう。
時間を止めてしまおうなんて、金をもってしても今まで考えたこともなかった。
「あと…、蓮井から、遅れるって聞いたし…、プレゼント何にするか結局決まってなかったからな…」
「ああ…。……ありがとな…、はじめ…」
さて、本当の時間は何時なのか。
ふと気になった姫川は腕時計を見ようとしたが、それを阻止するように神崎は腕時計を手首ごとつかんで引き寄せた。
2人の頭に、シャツが被さり、その中で唇が重ねられる。
「たつや、おめでとさん…」
時間が止められた空間で2人きり、姫川の誕生日を祝った。
家中の時計が止められてあるので、当然寝室の目覚まし時計も止められていた。
その結果、翌朝、うっかり時間を戻すのを忘れて2人とも仕事を遅刻するはめになってしまう。
.