暮らし始めた2人は?
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夏の終わりの夕暮れ。
「はぁ…」
仕事から帰ってきた姫川は神崎とのマイホームに帰ろうとしたが、その日はタイミング悪く、エレベーターが点検中となっていて使用できなかった。
501号室なので5階までその脚で階段でのぼるしかない。
面倒なのでヘリを使ってベランダから「ただいま」と帰ろうかと考えたが、以前それをやって神崎に「目立つことすんな」と怒られたことがあったので、仕方なく階段を上がることにする。
最近、デスクワークのうえ、車やらヘリやらを使用し続けたのが祟ったのだろう。
5階まで辿り着いた時はすでに汗だくで、シャツもすっかり汗を吸ってしまって肌に張り付いていた。
「……年かな…。……いやいや…」
頭に浮かんだものを払うように首を横に振り、夜の運動はちゃんとしてるし、と自分に言い訳をする。
神崎と暮らす501号室に到着すると、いつもの流れで鍵でドアを開けて中に入った。
だが、そこで姫川を襲ったのは熱気だった。
「うわっ、暑っ」
思わず仰け反ってしまい、玄関に置かれた靴を見ると、神崎が先に帰っていることが確認できた。
「あいつちゃんとエアコンつけてんのか?」
金に余裕はあるのだが、神崎は節電を心掛けている。
廊下を渡り、ダイニングに行く前に脱衣所に寄り、そこにあった白い長方形のハンドタオルを取って汗を拭きながらダイニングに踏み込んだ。
そこでは涼しい風が待っているかと思いきや、こちらも熱気がこもっていた。
「暑っ!!」
「おー…、おかえりー…」
ソファーでは半袖Tシャツ半パンの神崎が寝転がってうちわで自分の顔を扇いでいた。
ベランダの窓を開けているが意味がなさそうだ。
顔には汗を浮かべ、目は死んでいる。
「ただいまー…っていうか、この部屋の暑さはなんだ。エアコンついてねーじゃん。節電もほどほどにしとけよ。死ぬぞ」
そう言ってテーブルの上にあったリモコンを手に取ってエアコンをつけようとしたが、まったく反応がない。
「あれ?」
「エアコンが壊れた…。つーか、寝室もつかねーっておかしいだろ…」
「……………」
この部屋だけならわかるが、他の部屋のエアコンもつかないのはおかしいと感じた姫川は玄関に向かい、しばらくしてダイニングに戻ってきた。
「ブレーカー落ちてたぞ」
「え、マジで」
証明するようにリモコンを操作すると、先程のまでの無反応がウソだったかのようにエアコンが点いた。
「あ」
「ちゃんと調べろ」
暑さのあまり気付けなかったのだろう。
目から鱗が落ちるようだった。
涼しい風が吹き、神崎は「はぁ~…」と気持ち良さげに目を細める。
姫川はその顔に自分が使っていたハンドタオルを被せた。
「!」
「汗すごいぞ。拭けよ」
「ん…」
ごし…、と自分の顔面を拭いた神崎だったが、すぐに目元だけ出してしかめっ面を見せる。
「汗臭ぇ」
「な…っ!?」
ショックを受けた姫川は自分の右腕を鼻先に近づいて臭いを嗅ごうとしたが、自分の体臭はなかなかわかりにくい。
「……………」
神崎はしばらく顔から下半分をタオルで覆ったまま動きを止め、やがてゆっくりと身を起こして立ち上がった。
ベランダの窓を閉めた姫川は振り返る。
「? どこ行くんだ?」
「トイレ」
短く答えて姫川からもらったタオルを投げ渡してふらふらとダイニングを出る。
もう冷えたのだろうかと思いながら姫川はソファーに腰掛け、神崎が投げ渡したタオルで自分の顔の汗を拭いた。
「! 人のこと汗臭いとか言っときながら、あいつも人のこと言えねえじゃねーか」
すんすんと匂いを嗅ぐと、自分が汗を拭いた時とは違う匂いがした。
それでも心底嫌悪するような臭いではない。
顔の下半分を覆って天井を見上げ、匂いを堪能する。
「……………あ―――…」
嗅いだことのある匂いかと思えば、思い出すの夜のあれこれだ。
匂いのせいで脳裏に鮮明に浮かび、腰が重くなるのを感じた。
「……………あ」
トイレで発散しようかと思ったとき、姫川はあることに気付いてすぐにトイレへと走った。
神崎が現在使用中で、鍵までかけてある。
姫川は強めのノックをして呼びかけた。
「神崎! おまえ自己処理してんじゃねーよ!!」
「は、はあ!? な、ななに言ってんだ!!」
トイレのドア越しからは明らかに動揺した声だ。
「出てこい! 手伝ってやるから!」
「出るかボケぇ!! 暑さで頭わいてんじゃねえ!!」
「汗の臭いで興奮したからって恥ずかしがんなっ」
「…っ!! し、してねえよっ!!」
「ウソだな!!」
「てめーいっぺん滝つぼに身投げして涼んでこい!!」
秋が始まる前のそんな夫婦。
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