暮らし始めた2人は?
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2月14日。
仕事ですっかり遅くなり、日付が変わる前に姫川は急いで家に帰って来た。
「ただいまー」
「おう、おかえり」
風呂上がりの神崎は、頭上に湯気を立たせ、ソファーに座ってテレビを見ながらヨーグルッチを飲んでいた。
「メシ、食ってきたんだろ?」
「ああ」
カバンを置いてネクタイを解いた姫川は、神崎の隣に座り、期待の眼差しを向け、肩を引き寄せた。
同じボディーソープの甘い匂いがする。
このまま頂いてしまいたい衝動に駆られつつ、その前にチョコをもらってからだと堪える。
「なあ…、今日はバレン…」
「悪い。明日早いんだ」
神崎はその手を軽く払い、ソファーから立ち上がる。
神崎の冷めた態度に、姫川は不安を覚えた。
「あの…?」
「おまえが帰ってきたらさっさと寝る予定だったし、てめーもさっさと寝ろよ」
そう言って神崎はカラになったヨーグルッチのパックをゴミ箱に捨て、欠伸をしてダイニングから出てると、さっさと自室に入ってしまった。
「……………」
ぽつん、と取り残されてしまった姫川。
(もしかして、神崎の奴、バレンタインのこと忘れてる…?)
壁にかかった時計を見ると、時間は23時半。
バレンタインの時刻には間に合ったはずだ。
だから、機嫌を損ねて渡さないでいるわけではなさそうだ。
そもそも、神崎の機嫌が悪ければ喋りも待ちもしていない。
「……あんまりだ…」
残業になるまいと奮闘した姫川は、気持ちのままにソファーに倒れ込む。
去年はちゃんと神崎が直接渡してくれたというのに。
いくら仕事が忙しくても、手帳に書き込み、日を数えるほど、2月はこの日を一番の楽しみにしていただけに、姫川のショックは大きかった。
重い腰を上げた姫川は、一気に圧し掛かってきた疲れに風呂に入る気も起きず、とぼとぼと自室へと向かい、ドアを開ける。
「…!」
ベッドに倒れ込もうとしたとき、一枚の紙を見つけた。
“カーテンの裏”
それだけが書かれてある。
その少し歪んだ字は、今はすっかり見慣れた神崎の字だった。
「…カーテンの裏?」
首を傾げ、すでにしめられたカーテンに近づき、端をつかんで返してみると、そこにはまた一枚の紙が貼られていた。
“『ごはん君』14巻1頁”
今度は本棚に近づき、上から2段目の『ごはん君』が並べられた列から14巻をとって開いてみる。
“スリッパの裏”
「……………」
そこでようやく神崎のやりたいことが見えた。
法則からして、宝探しだ。
姫川は自室を出て玄関へと向かい、そこに並べられたスリッパを全部ひっくり返した。
客用のスリッパの裏に、あの貼り紙を見つける。
“ソファーの下”
ダイニングへと戻り、膝をついてソファーの下を覗きこみ、一枚の紙を見つけ、腕を伸ばして取った。
“鍋”
「なべ…」
呟きながらキッチンへと向かい、棚を開けて鍋を取り出し、蓋を開けてみると、紙が入ってある。
“ゴミ箱”
先程神崎がヨーグルッチのパックを捨てた小さなゴミ箱に近づき、中を窺った。
そこにはヨーグルッチのパックしか捨てられていない。
貼り紙はないかと思われたが、ヨーグルッチのパックをよく見ると、パックに印刷された少女の口元に、吹きだしの形に切られた紙が貼られていた。
“炊飯器★”
(おちょくられてる気がしてきたぞ。そろそろ…)
そう思いながら、炊飯器へと近づき、次はどこを捜せばいいのか、と蓋を開けてみる。
「…あ」
そこには、ガトーショコラのホールがあった。炊飯器で作ったと思われる。
自分が帰ってくる前に作っておいて、せっせと宝探しゲームの準備をしていたのだろう。
真ん中にはホワイトのチョコペンで“HAPPI V.D.”と書かれ、じわじわと嬉しさが湧きあがってくる。
「……………」
クスッと小さく笑った姫川は、半開きのドアからこちらの反応を窺っている神崎に振り向き、「HAPPYの綴り、間違ってんぞ」と微笑みながら指摘した。
「え゛」
驚く神崎に近づいた姫川は、不意打ちをかけるようにドアを強く引き、こちらに倒れてくる神崎の体を受け止めると同時に、押し上げるようなキスをした。
「ハッピーバレンタイン」
今年も一緒に幸せなバレンタインを。
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