暮らし始めた2人は?
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夕方、早めに帰って来た神崎は、仕事疲れのあまり夕飯の支度もせずにそのままソファーに倒れこんで眠ってしまった。
それから数時間が経過し、目が覚めた頃には外も部屋も真っ暗だ。
「…! ヤベ…ッ」
慌てて半身を起こし、今何時かと壁時計を確認しようとしたとき、キッチンの明かりに気付いた。
「あちちっ」
そこには、長髪を後ろで束ねたエプロン姿の姫川が立っている。
料理を作っているにしては静かだ。
いつの間にかかけられていたタオルケットを外してソファーに置いて立ち上がり、キッチンに近づく。
「起きたか」
声をかける前に、姫川は近づいてきた神崎に気付いた。
その手には炊きたての米が握られている。
台所には他にも、炊飯器からボウルに移された米、タッパに入った梅干しや昆布、ツナ缶、ふりかけが見当たった。
それらを見て、神崎は察する。
「おにぎり?」
「そっ。もう夕飯って時間でもないし…、夜食で済まそうと思って、おにぎり」
「……おにぎり…」
神崎は皿に並べられた、姫川が作ったおにぎりをまじまじと見る。
三角型を作ろうとして失敗したのか、形はすべて歪だ。
一番初めに作ったと思わしきものは、形が崩れてぐしゃぐしゃだ。
中の昆布も丸見え。
神崎の怪訝そうな目を見て、姫川は、フン、と鼻を鳴らした。
「しょ…、しょーがねーだろ…。おにぎり…、作ったことねーし…」
不貞腐れる顔がおかしくて神崎は小さく笑い、姫川の手をとった。
「あーあ、こんなに米粒くっつけやがって…」
その不器用で、熱くて赤くなった手に付着した米を、一粒一粒、指でつまんで食べる。
キリがないので、最後はそのまま指を咥えて一気に食べた。
「…誘ってんの?」
「メシ前に盛んな。見てろ」
神崎はまず水道で手を洗い、手に塩をふりかけてから、ボウルに移された米を手に取り、梅干しを入れ、慣れた手つきで握って見事な三角型を作りだした。
ノリを巻けば完璧だ。
そのあとも姫川が作った数だけぽんぽんと流れるような動きで作り、並べていく。
姫川は目を輝かせ、立派な芸術品に拍手を送る。
「お見事っ」
「だろぉ?」
当然、と自慢されたあと、神崎の手をとってその手のひらを見た。
自分と違って米粒はひとつもついてない。
「…ついてねぇ」
内心、ガックリとした。
「濡らしたんだから、当たり前だろ」
神崎は塩水のついた手を洗ってタオルで拭いてから、自分のではなく姫川のおにぎりに手を伸ばした。
「おっと…、つかんだだけでボロボロ崩れてるじゃねーか」
「自分の食べればいいだろ」
それでも神崎は床に落ちないように、両手で口に運んでいく。
一方、神崎のおにぎりは片手でつかみやすく、食べやすい。
「…!」
2個目に手を伸ばそうとしたとき、姫川は自分のおにぎりの利点を見つけた。
神崎の口元と指に付着した米粒。
さて、一粒一粒丁寧に指でつまんで食べるか、鳥のように啄んで食べるか、それらを順番に実行するか。
神崎が食べ終わる前に計画を立てる。
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