一日執事です。
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車に乗り込んでホテルへ戻る間、姫川はずっと無言だった。
傍から離れたうえに、あいつ殴っちゃったわけだし。
罵倒された方がまだマシだ。
この重苦しい空気がいたたまれない。
そんな空気に圧迫され、時間も長く感じた。
ようやくホテルの前に到着し、オレは車を降りていいのかと迷ったが、姫川が手首を引っ張るものだから結局一緒に降りてホテルの中へ。
エレベーターに乗っている間も姫川はなにも喋らない。
チン、と音を立てて到着すると、またオレの手首を引っ張って部屋へと向かう。
「え…と…、その…悪かった…。パーティー…台無しにして…」
姫川と歩調を合わせ、オレはぼそぼそと言った。
姫川はこちらを振り返らない。
今、どんな顔してるのか。
歩調を早めて確認すればいいだけなのに、早めるのを躊躇ってしまう。
「やっぱり、オレは執事なんて…ガラじゃなかったんだ…」
部屋に到着し、カードで扉が開かれ、オレと姫川は中に入った。
「おい、いい加減なにか喋…」
扉が閉まると同時に姫川はこちらに振り返り、右手を扉につけ、左手でオレのネクタイをつかんで引っ張り、いきなりキスしてきた。
「んんっぅ…」
不意打ちだったから、開けていた口に舌をねじ込まれた。
わからない。
オレこいつ怒らせるようなことしたのに。
なんでこんな甘ったるい事態になってんだ。
人が混乱してるってのに、姫川は容赦なくオレの舌を吸ってきた。
「くっ…、ぅん…っ」
舌に痣ができるんじゃないかってくらい強く吸われ、息苦しく、脳内が痺れてきたとき、一度解放してくれた。
「はぁっ、はっ…」
どうして、と視線を上げると、姫川は小さく笑った。
「もう1回言ってくれるか? オレ以外…、なんだって?」
「!!!」
聞かれてたっ!
聞かれてたあああああっっ!!
軽くパニックを起こした。
いつから?
まさか最初から聞いていたのだろか。
だとしたら恥ずか死ぬ!!
「おまっ、怒ってたんじゃ…!」
「あ? なんで?車内で襲いかかりたかったの必死に堪えてたんだぜ?」
どや顔で言うな。
オレがいたたまれない気持ちでいっぱいのとき、こいつひとり興奮してたってのか。
「あいつのことはいいのかよ!」
「…ああ、だからこの世の終わりみたいな顔してたわけ? 心配しなくてもこう言ってやったよ」
再現するように、姫川はオレの耳元で低い声で囁く。
「“オレからあいつを奪ってみろ。オレがてめーのもん根こそぎ全部奪ってやる”」
まるで首元に研ぎ澄まされたナイフを当てられたような感覚にオレが喉を鳴らすと、突然耳を舐められ、ゾクリとした。
「…あいつはオレの本気がどれほど恐ろしいものかは…知ってる」
「……………」
目を見ると、マジであることが窺える。
「神崎…、服、脱がせてくれる?」
屋敷で見せた爽やか草食系はどこへ行ってしまったのか、今、オレの目の前には目をギラつかせる肉食系がいた。
顔にかかる息は、オレの興奮を煽らせる。
「…竜也様の…仰せのままに…」
オレにもこんな趣向があったのか。
オレの震える手は、主のネクタイへと伸びた。
*****
翌日、オレの家に宅配便が届いた。
差出人は1日休んだだけで全快した蓮井からだった。
中を開けてみると、フリル&レースのピンク色のメイド服が出てきた。
手紙も添えられている。
“執事代理をしていただいたお礼です 蓮井”
「こういうのは嫌がらせって言うんだよっ!!」
“追伸 坊っちゃまは執事プレイよりメイドプレイを御所望とのことで”
「知るかっ!! 結局はあいつのためかよっっ!! つうか昨日のプレイ知られてるっ!?」
ちなみに、猫耳やリボンも添えられていた。
あの執事、過労死する前にオレが息の根止めてやる。
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