一日執事です。
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ダンスパーティーでも披露されそうな馬鹿でかいフロアには、金持ちの集団と、豪勢な料理が載せられた円形のテーブルがあった。
今回は誰だかの婚約パーティーらしい。
姫川はそれにお呼ばれされていた。
オレは姫川に、ボーイからもらったノンアルコールのシャンパンを手渡した。
「…おまえは飲まないのか?」
「…はい」
本当は緊張でオレも喉を潤したいところだが、他の金持ちについてる執事らしき奴らを見ると、誰も主人と一緒にシャンパンを飲んでいない。
主人のためにシャンパンを持ってきたり、皿にとってきた食事を持ってきたり。
オレも見よう見マネで皿に料理をとってきて姫川に渡してやる。
この行動自体緊張してしまう。
料理の取り方、とか。
マナー違反してないか、とか。
執事って誰もが涼しい顔してるもんだな。
お、あの中年執事なんかまさしくセバスチャンってカンジだ。
渋いな。
「竜也坊っちゃま、どうぞ」
料理を載せた皿とフォークを手渡す。
「………おまえに名前+坊っちゃま呼ばわりだと…、くすぐったいな。坊ちゃまは抜いていいんだぜ?」
若干顔を赤らめてそう言うから、オレは笑みを浮かべ、
「今すぐその頬を突き刺していいですか。フォークで」
周りに聞こえないように凄みを含めて言った。
姫川は「冗談だって」と苦笑しながら、皿とフォークを受け取り、載せられたものを見る。
「…オレの好き嫌い、わかってるじゃねーか」
「……まあな」
無意識に姫川が嫌いなものを除いて持ってきたようだ。
姫川はまず一口自分の口に運んだあと、一切れの肉をフォークに突き刺してこちらに向けてきた。
「!」
オレは反射的に仰け反る。
「食えよ。オレばっかりじゃ悪いだろ」
「なに…」
「この位置からじゃ見えないから早く食え」
姫川は客に背を向け、オレを隠していた。
オレは焦ってフォークを持っている方の手首をつかみ、先端に突き刺さっているそれを口に運んだ。
それから手で口を押さえ、もごもごと口内の肉を咀嚼して飲み込む。
美味。
それを見た姫川は自分の口を手で押さえ、「焦りすぎ」と小さく笑った。
「焦らすなっ」
思わず敬語も忘れてしまった。
もし見られていたらマナーもクソもない。
「姫川じゃないか」
「!」
姫川を睨んでいたら、小太りの男が声をかけてきた。
姫川は振り返り、笑みを向ける。
「峰、婚約おめでとう」
「本当に来てくれるとは思わなかったよ」
峰と呼ばれた今回のパーティーの主役であろう男と姫川が握手を交わす。
同じ年頃なのに、婚約とか決まってんのか。
「…あれ? その執事…」
峰は姫川越しにオレの存在に気付いた。
オレは姫川が言う前に自己紹介する。
「姫川竜也様の執事・神崎と申します」
一礼。
蓮井みたいな爽やかな笑顔(のつもり)も忘れない。
完璧だ。
「前につれてた色男はどうした? 蓮井って名前だったっけ? …辞めたの?」
色男じゃなくて悪かったな。
「いや、熱を出してしまってな…」
「ふーん。過労させて執事を殺すなよ。そこの執事もな」
悪気があるのかないのか、峰は笑って姫川の背を軽く叩きながらそう言った。
オレは睨まないように耐える。
姫川は普通に「気をつける」と笑っている。
違うだろ。
オレの知ってる姫川はキレて殴るか電気ショック食らわせるだろ、今ので。
「オレは先に結婚するけど、おまえもそろそろ相手見つけないとな。家継ぐんだろ? なんならオレがその手のお嬢様を紹介してやろうか」
もういい。
こいつはオレがぶん殴る。
一歩踏み出したところで、姫川はオレの肩に手を置き、峰に笑みを向けて言う。
「オレはもう見つけたから」
「え!?」
峰は目を丸くして問い詰めようと口を開くが、姫川は向こうを指さす。
「ほら、そろそろスピーチだぞ」
「あ…、あとで誰か教えろよ」
峰はそう言い残して席へと向かった。
その席にはすでにドレス姿の女が座っている。
あれが婚約者か。
見た目は他の金持ち達とは違って変に着飾ってない、大人しい感じの女だ。
峰が席に着くと、しばらくして照明が落ち、スポットライトの下ではどこかの金持ちのお祝いの言葉が送られる。
その様子を立って見ながら、姫川に小声で話しかける。
「…なんだあいつ、カンジ悪いな。別に、こんなとこに来なくてもよかっただろが。てめーもなんか言い返せよ。オレが腹立つだろ」
思い出しただけで青筋が立つ。
「悔しくて来ないんじゃないかと笑われるのも癪だろ。あいつは昔から、そういう自分にとって都合のいい思いこみが激しいからな」
「…親しげに喋ってたわりに、お友達ってわけじゃなさそうだな」
「まさか。親同士が知り合いなだけだ。オレはどうでもいいけど、向こうはオレのことオトモダチどこか敵視してるからな。そういうのモロバレだってのにやけに絡んでくる」
姫川はやれやれと言いたげにため息をつき、オレを横目で見て口元を緩ませた。
「オトモダチってのは、おまえみたいに、家柄とか気にせずに、なにか言ったら同じくらいのなにかを言い返せるような間柄だろ」
「…オレ達はとっくにオトモダチ越えてるけどな」
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