小さな話でございます。
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今日は神崎とデートの日。
オレは待ち合わせ場所の車道を挟んだ向かいにあるカフェの2階でコーヒーを飲みながら、時間までゆっくりしているところだ。
この場所なら待ち合わせ場所が窓からよく見える。
カフェの壁に掛けられた時計を見ると、待ち合わせの時間まで残り40分。
デートが楽しみな分、気が急いて早く着きすぎてしまった。
時間が5分経過した頃だろうか。
コーヒーのお代わりを注文した時だ。
見慣れた金髪が目の端に移り、はっとそちらに顔を向けると、神崎が待ち合わせ場所に到着しているではないか。
オレは時間を確認する。
まだ30分前じゃねえか。
オレはそちらに向かおうと席を立ったが、思い直し、再び着席する。
神崎には悪いが、もう少し眺めてみよう。
神崎は辺りを見回し、オレの姿を捜している様子だ。
こちらに視線が移りそうになり、オレはさっとメニューで自分の顔を隠した。
どうやらバレなかったようだ。
神崎は壁に寄りかかり、ポケットからヨーグルッチを取り出して飲み始めた。
おまえ、ポケットにいつもそれ持参してるのか(笑)
ヨーグルッチを飲みながら、神崎は何度も携帯を確認している。
オレからの連絡待ちだろうか。
試しに、ちょっと電話をかけてみた。
神崎の携帯が着信を知らせ、持ち主はドキッとした顔をする。
すぐに通話ボタンを押して耳に当てる。
“なんだよ。中止か?”
もし神崎の姿が見えてなかったら、中止を期待しているのかと思うだろう。
実際見ると、声の割りに顔が不安そうだ。
オレは笑いを堪えて答える。
「いや? 30分前だし、もう家出たのかと思ってさ」
オレが見てないと信じきっている神崎は露骨にギクッとした顔をする。
“ざ…、残念だったな。まだ家だ、バァーカ。期待してんじゃねーよ”
「…っ!!」
おまえはなにを意地になってんだ!?
“オレの家からじゃ10分もかかんねーんだよっ。おい、聞いてんのか姫川”
やめてやめて。
カワイイ。
すっごくカワイイけど、オレがすっごく恥ずかしい。
オレはテーブルに伏せ、色々耐えていた。
今すぐ飛び出して「全部見てた」とか言って殴られてでもその反応が見たい。
コーヒーを運んできたウェイトレスに不審な目を向けられたが、オレは神崎の観察を続ける。
「オレも家出たとこだから。じゃあ、あとでな」
“…わかった”
微笑むなあああああ!!
なにあいつ、オレとの電話の時あんな表情すんの!?
惜しみながらもオレは通話を切った。
残り時間が15分に迫る間も、神崎はそわそわとしている様子だ。
飲み終わったヨーグルッチのパックを膨らませたり、萎ませたり、ストローの穴から中を覗きこんだり。
残り10分。
また神崎がパカパカと携帯を確認し始めた。
見てて飽きない光景だ。
すると、5人組の男共が神崎に近づいた。
なにやら不穏な雰囲気だ。
神崎はなにを言われたのかそいつらを睨みつけ、首を横に振った。
5人組のうちのひとりが神崎の手首をつかんでどこかへ連れて行こうとするが神崎はそれを振り払い、罵声を浴びせる。
それはここまで聞こえた。
「大事な待ち合わせがあんだよ!! てめえらと遊んでるヒマはねえ!!」
カフェの客も窓からその光景を眺め始めた。
オレは携帯を取り出して周辺を調べ、とある奴らに電話をかけた。
「ああ。オレだ。―――…」
そいつらに依頼したら、すぐに来た。
ここらへんを縄張りにし、金欲しさにオレの傘下に入ったギャング共だ。
総勢30人。
神崎がケガする前に来なかったら値段下げるっつったら必死で駆けつけてきたようだ。
突然現れた集団に神崎と5人組は目を丸くしている。
そいつらは因縁つけるような言葉を吐きながら津波のように5人組を連れ去り、神崎はその光景をただ茫然と眺めていた。
え、オレ本人が出て行けばよかったんじゃないかって?
そりゃ、そうしたらカッコつくだろうが、お互い無傷で楽しいデートしたいじゃん。
つうわけで、そろそろ時間だから行ってくる。
会計はカードで済ませ、店から出た。
神崎はまだそわそわしていた。
オレは車が来ないか確認してから車道を渡り、真っ直ぐに神崎のもとに歩み寄った。
「よぉ、待った?」
オレの顔を見上げる神崎。
その顔が一瞬ホッとしたのは気のせいじゃないだろう。
「今来たとこだ」
言うと思った。
「そっか」
「!?」
オレは人目を気にせず、神崎の肩を引き寄せて歩きだす。
さっきの野次馬共がオレ達を驚いた顔で見ていた。
どうも、大事な待ち合わせ相手ですけど。
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