小さくても生意気、でも愛しい。
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どこかでオレをゆっくりと食べるつもりだろうか。
そうなってたまるかとジタバタと暴れてみるが、パンチもキックもネコに当たらない。
やがてネコは校舎裏にある一番高い木の下で動きを止め、オレを下ろした。
「な…、なんだ?」
ここで食べられるのかと思ったが、ネコはなにやら悲しげな表情(のように見えた)で木を見上げた。オレも同じく木を見上げる。
見ると、木の枝の先になにやら白いものが見えた。
それは小さく震え、「みゃぁ、みゃぁ」とか細い声で鳴いている。
小さな、白い子ネコだ。
「…おまえの子どもか?」
「にゃあ…」
オレの言葉がわかったのか、親ネコは我が子を見上げながら答えた。
登ったはいいが、下りられなくなってしまったのだろう。
親ネコは助けに行きたいが、自分の体重がかかると枝が折れてしまうと考え、オレを連れてきたのかもしれない。
確かにオレなら、小さすぎて体重がかからない。
「…助けに行けってか?」
「…にゃあ」
耳の垂れた親ネコはオレを見下ろしてまた答える。
「……しょうがねーな…」
オレは木を登り、子ネコのもとまで向かう。
まるで崖を登っているようだ。
見下ろすと、今度は親ネコが小さく見える。
「…っ!!」
高い。
人間が尻餅をついて済む程度でも、今のオレが落ちたらシャレにならない。
次に下を見たら、目眩で落ちるかもしれない。
必死に登って、オレはようやく子ネコがいる枝に到達した。
やはりさっきのゾウみたいな親ネコよりは小さい。
オレから見ればクマくらいの大きさだ。
「みゃ…っ」
動けないのか、子ネコは震えながらオレを見た。
警戒されているのか助けを求められているかはわからないが、オレはそいつにゆっくりと近づく。
「おい、母ちゃんが心配してるぞ」
「みゃぁ…」
「なにビクついてんだ。ほら、こっちこい」
オレはチッチッと指を動かし、子ネコを呼ぶ。
「みゃぁ…」
意を決したのか、子ネコがゆっくりと立ち上がり、震える足どりで一歩一歩と歩いてくる。
オレは足下を気にしながら「そうだ、いいぞ」とバックで歩きながら子ネコを励まし、誘う。
しかし、もうすぐというところで邪魔が入った。
「カァ!」
「!?」
この上に巣があるのか、突然カラスが威嚇してきた。
オレと子ネコをつついてくる。
「痛ててて!」
「みゃあっ」
子ネコは毛を、オレは髪や服を引っ張られてしまう。
「このヤロッ! 焼き鳥にされてーか!」
「カァ!」
そこでカラスはオレの口と耳を繋ぐチェーンを引っ張った。
「痛っててて!! 痛てぇだろうがトリ公―――!!!」
ゴッ!!
「ガァッ!?」
そいつの眉間に3倍かかと落としをお見舞いしてやったら、アヒルのような鳴き声とともに真上へと飛び去った。
「あ!!」
「みゃっ!?」
その時、危機は去ったと気を抜いた子ネコが足を滑らせた。
オレは咄嗟に子ネコの尻尾つかんだが、明らかに体重に差があった。
子ネコを支えきることができずに、一緒に落下してしまう。
「にゃっ!!」
下にいる親ネコは器用にも両手で目を覆った。
もうダメかと思ったとき、
「神崎さああああん!!」
向こうから城山が牛乳の入ったビニールを片手に走ってくる。
「城山!!」
「神崎さん!! いま行きま…ぐえっ!?」
突然、城山は背後から現れた人影に背中を踏み台にされ、転んだ。
「神崎!!」
「姫川!?」
城山を踏み台にこちらにジャンプしてきたのは、姫川だった。
空中でオレと子ネコを両腕でキャッチし、着地する。
親ネコは急いで姫川のもとに走ってきた。
「どこ行ったかと思ったら…」
姫川は子ネコを離して親ネコに返し、両手の上にオレを載せる。
「にゃあ」
「みゃぁ」
2匹のネコの親子はオレ達に礼を言ってから、茂みの中へと消えた。
「心配させんじゃねーよ、神崎! ネズミに食われたかと思っただろ!!」
心配して捜してくれていたのか、姫川のリーゼントが乱れている。
「………悪かった…」
「……いや…、さっさと戻してやれなかったオレも悪かった…。すぐに帰ろう…」
「待て、姫川」
正門へ向かおうとしたところで、城山が声をかけた。
立ち上がり、額に大きなコブをつけたままこちらにやってきて、文句を言うかと思えば、姫川にビニールを差し出す。
「…っ、持って行け…っ」
「お…、おう。なんか…、悪いな」
罪悪を感じながら姫川はそれを受け取り、城山はオレに頭を下げて「失礼します」と言って踵を返した。
「…漢だ」
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