小さな話でございます。
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姫川とケンカした。
いつもより酷い口争いの挙句、姫川が先にオレの顔を殴って、そのままやり返しもせずに逃げるように姫川の家飛び出してしまった。
原因は浮気…だと思ってた。
オレの知らない女からかかってきた電話に出て、勝手にオレが嫉妬して勝手にキレて殴って出てったわけだ。
あいつの「電話の女とはなんでもない」「信じてくれ」と必死に訴えてるのに対して、オレは「言い訳してんじゃねえ」と吐き捨ててしまった。
本当にオレでよかったのか、なんでオレなんだ、っていう日頃から思ってた不安が爆発した結果がこれだ。
しばらくして、雨が降ってきた。
早くもびっしょりと濡れてしまい、オレは近くの無人のバス停の屋根の下で、帰りのバスが来るのを待つことにした。
東邦神姫と恐れられたこのオレが、今にも泣きそうだ。
「バーカ。夜から雨ってテレビが言ってただろ」
「!」
顔を上げると、黒の傘を差した姫川が目の前にいた。
わざわざ迎えに来てくれたようだ。
「帰るぞ」
「……………」
本当に戻っていいのか、その思いがオレを動けなくする。
どうして迎えにくるんだ。
モテるんだからオレじゃなくたっていいはずだ。
血迷うな。
考え直せ。
オレだって、今言ってもらえば致命傷を負わずに済むんだ。
せり上がってくるそんな女々しい気持ちが、喉からでかけた時だ。
「どうして…。!」
黒の傘は地に落ち、姫川はアロハシャツを脱いでオレの頭に被せ、乱暴にオレの髪を拭き始めた。
「わぷっ。痛てっ、痛てぇって…」
「神崎」
シャツを被せられたまま、抱きしめられた。
「帰ろうぜ…。……寒い…」
「………ああ」
オレの口から出たのは、拍子抜けするような短い返事だけだった。
寒さに震えていたのはオレか、姫川か。
オレが乗るはずだったバスの明かりが遠くから見えてきた。
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