これでも惚れ込んでます。
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その日、朝の教室の中、古市はただひとり緊張していた。
彼の手の中にある小瓶には、アランドロン特製の薬が入ってある。
視線は、邦枝の机に置かれたお茶の入ったペットボトルに向けられている。
ゴクリと唾を飲む。
バレてはただでは済まされない。
(アランドロンから奪い取ったこの特製惚れ薬…。これで邦枝先輩を…!)
早朝、アランドロンの思惑をいち早く察知した古市はアランドロンを縛り上げ、その薬を奪ったのだった。
それを邦枝に使おうと考える。
現在周りのメンツは男ばかり。
邦枝のお茶に手を出したからといってレッドテイルでなければ強く咎められはしないだろう。
古市はそっと邦枝の席に近づき、急いでペットボトルのキャップを開け、その中に薬をすべて入れ、シェイクしてまた蓋を閉めて置いておく。
男鹿と姫川は、怪訝な表情でそれを眺めていた。
実験はしていないが、アランドロンの言う通りならば、それを飲んで最初に見た者を溺愛する、という効果を信じるしかない。
邦枝がレッドテイルのメンバーを連れて教室に戻ってきた。
古市は体を硬直させ、それを見守る。
もし、邦枝のものでなくてもレッドテイルのメンバーならば誰でも良し。
邦枝が机に置かれたお茶に手を伸ばした。
古市は緊張のあまり貧血を覚えそうになる。
「ねえ、これ、私の机に置いたの誰?」
「…は?」
さすがに間抜けな顔までは隠せなかった。
レッドテイルのメンバーも「知らない」と首を横に振る。
ちょうどそこに、トイレに行っていた神崎が戻ってきた。
「あ、オレのお茶…」
古市ははっと神崎に振り返る。
なぜ、神崎のお茶がそこにあったのか。
(つうかアンタはいつもヨーグルッチだろ!!)
内心でツッコみつつ、古市は焦った。
「悪い。席間違えた」
「もう…、いい加減新しい席に慣れてよね」
邦枝は後ろの神崎の席にお茶を置いた。
神崎は「そう怒るなよ」と言ってお茶に手を伸ばし、キャップを開けて口に含もうとした。
「あー!! アランドロン特製、最初に見たものに惚れてしまう惚れ薬、“ホレール”があああああ!!!」
古市は手を伸ばし説明口調で叫んだ。
しかし、時はすでに遅し。
言ってる間に神崎はゴクゴクと飲んでしまう。
「あ? ホレ…?」
神崎の視線が古市に向けられようとしたとき、
ガッ!
姫川が咄嗟に机を投げ、神崎の顔面に当てた。
「ナイス! 姫川先輩!」
危うく神崎に惚れられるところだった。
「黙れ卑怯モン!!!」
しかし、姫川は険しい顔を古市に向けて怒鳴った。
その迫力に古市は「ひっ」とたじろぐ。
姫川はスタンバトンを取り出し、敵意むき出しでその先端を古市に向けた。
「てめぇだけはノーマークだと思っていたが…、てめぇも神崎を狙ってたとはな…」
古市は慌てて首を横に激しく振る。
「ち…、違います違います! オレはただ…」
言葉に詰まる。
そこからが説明しづらい。
「それともなにか? 本当は邦枝に飲ませるつもりが、まさか神崎のだと気付かなかっただけか?」
さすが姫川。
「ああん!!?」
レッドテイルの敵意が古市に向けられる。
(どう答えても地獄…!!)
その時、神崎は机をどけ、顔面を右手で押さえながら立ち上がった。
「て…めぇ…っ、姫川…! 顔面潰れるとこ…んぐっ!?」
神崎が周りを見てしまう前に、姫川は神崎を抱きしめ、自分の肩に神崎の顔面を押さえつけた。
「うぐむ~~~っ!」
苦しげな神崎はどんどんと姫川の体を叩くが、姫川は放さない。
「コレ、元に戻るんだろな?」
姫川は古市に尋ねるが、古市は「さ…、さあ?」と首を傾げた。
「さっさとオッサン呼んで聞けや!!!」
「は、はい!」
かつて姫川をこれほど恐ろしいと思ったことがあっただろうか。
男鹿ですら若干ビビっている。
「あ…、アランドローン」
古市はおそるおそる呼んでみる。
「呼びましたか!? 貴之!!」
「縛り上げてたのによく来れ…たっはああああ!!?」
扉から現れたのは、SM縛りをされたアランドロンだった。
心なしか興奮しているように見える。
ほぼクラス全員が教室の奥へと古市を取り残して避難した。
姫川は「あれだけは絶対見るな」と夏目達と一緒に神崎を保護する。
「まったく、この状態でずっと放置プレイされるかと…」
「オレ普通の縛り方したよね!!?」
確かミノムシのように縛ったはずだ。
なのに、いつそんな状態になってしまったのか。
すっかり誤解した石矢魔クラスは古市に対してもどん引きしていた。
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