想いを綴りましょう。
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急いで廊下の隅から隅まで捜すが、どこにも見当たらない。
他の生徒達が廊下に四つん這いになって必死に探す神崎に不審な目を向けていたが、そんなことには構っていられない。
神崎は半泣きになっていた。
「まずい…! オレピンチ!!?」
天下の東邦神姫の神崎がラブレターを書いたのだ。
あんなものが知れ渡ってしまえば、楽しいスクールライフが奈落に落ちてしまう。
(もし見られたら…、穴の中で軽く1年過ごせる自信あるぜ)
「まさか、男鹿の奴が…」
男鹿と喧嘩してなくなったのだ。
男鹿が持って行った可能性もある。
神崎はすぐさま教室に向かい、教室内を確認する。
クラスにはほぼ全員がそろっていた。
「おいベル坊、なに持ってんだ?」
「ダ」
(やっぱ持ってやがった―――!!!)
神崎は教室の出入口でそれを窺っていた。
手紙を持っていたのは、正確にはベル坊だった。
男鹿も手紙の存在に今気付いたところだ。
「果たし状か?」
古市に問われ、席に座って早くも居眠りしようとしていた男鹿は登校中のことを思い出すが、「渡された覚えねぇよ」と答え、大きな欠伸をする。
「まさかラブレターなんてことないよな!?」
はっとしたように言う古市に、神崎の心臓が跳ねあがった。
それに反応するように、邦枝と烈怒帝瑠のメンバーも男鹿に顔を向ける。
「男鹿っちにラブレター!!?」と花澤。
「ないない。そいつに限ってないない」と大森。
「うんうん」と谷村。
「そ、そうよ、ラブレターなんて…」と心配そうな邦枝。
(女子が食いついてきた…!!)
余計に飛びだしにくくなった神崎。
扉に爪を立てて苦しげに悶えている。
「あれ? でもこの手紙…」
それを発見したのは、花澤だった。
ベル坊の手から手紙を受け取り、封筒の後ろを見せる。
「これ、“姫川竜也へ”って書かれてますよ。姫川先輩宛てっス」
「オレ?」
携帯をいじっていた姫川は、画面から手紙へと顔を向ける。
神崎は硬直し、完璧に出遅れたことを思い知らされてしまう。
姫川は花澤から手紙を受け取り、確かに自分の名前が書かれてあることを確認し、裏表をじっくりと見る。
「…これ、差出人が書かれてねぇな」
(はっ!!!)
神崎は内容を考えるのに必死で、自分の名前を書くことをすっかりと忘れていた。
(オレはアホか!!!)
「神崎君? なにしてるの?」
ひとりツッコミをしているところを、いつの間にか来ていた佐渡原は見ていた。
しかし、神崎は手紙のことで精いっぱいでその存在に気付かない。
佐渡原も、その神崎のただならぬ雰囲気に近寄れず、教室にも入れずにいた。
一声かけたら殺されかねない。
(しかし、名前が書かれてないのも都合がいい。あいつだって、差し出し人のわからない手紙を読んだらアホらしいと思って捨てるだろ)
読まれるのは恥ずかしいが、これなら神崎の名前が汚されることはない。
神崎は悪党のようにほくそ笑んだ。
その笑みを見た佐渡原は「ひっ」と怯えて一歩下がる。
「このオレを様付けで呼ばねえとは…。やっぱり果たし状じゃねーのか?」
姫川は封筒の中身を開け、手紙を取り出した。
読んで捨てろ、と神崎が念を送った時だ。
「どんな内容か読んでやるぜ!」
突然姫川の手から手紙を奪ったのは、MK5・碇だ。
空気の読めない伏兵に神崎は「あっ」とこぼす。
そんな神崎に気付かず、姫川が「おい」と声をかけても碇は手紙の内容を読み上げる。
「汚い字だな…。“初めはいけすかねーヤロウだと、ブチ殺してやりたいヤロウだと思っていましたが、あ…、あなたのことを知っていくうちに…、この真っ平らな胸を熱く苦しめ…”」
耐えきれず、碇は噴き出した。
他のMK5も笑い出す。
「なんだそれ! ケンカ売ってんのかコクってんのかどっちだよ!!(笑)」
「もうムリ! 中田! おまえ読め!(笑)」
「え…と…、“いつの間にか…、そのアロハシャツと…リーゼントを全部好きに…、好きに…っ”ぶははは!!(笑)」
教室中がゲラゲラと大笑いに占拠されてしまう。
(もうやめろおおおおお!!!)
神崎は扉にしがみつき、今すぐ飛びだしてその手紙を全員の目の前で処分したい衝動を必死に抑える。
「ちょっと、やめなさいよ」
邦枝が立ち上がり、その手紙を取り上げようとした時だ。
「くっ…」
「!!」
今度は、姫川が笑った。
それを見た神崎は、胸に刺のようなものが突き刺さった痛みを覚え、羞恥を忘れて茫然と立ちつくした。
神崎の百面相を見ていた佐渡原は、急に静まって暗い表情をする神崎に首を傾げ、おそるおそる近づき、その肩を叩いた。
「神崎君?」
次の瞬間、佐渡原の視界が反転した。
投げ飛ばされたのだ。
「うわあああ!!?」
飛ばされた佐渡原はそのままMK5にぶち当たる。
「ぎゃっ!」
「ぐっ」
「ほげっ」
「がっ」
「ぐはぁっ」
見事、5人同時に命中。
「どうして急にぃ…」
佐渡原の下敷きになって倒れている碇が苦しげに尋ねる。
「神崎君に投げ飛ばされ…て…」
そう言って佐渡原は気絶した。
「なんで神崎に…」
姫川がそう口にしたとき、後ろから夏目がやってきた。
「ひーめちゃん」
「あ? ………!」
口元は笑っているが、目が笑っていない夏目になにを感じ取ったのか、姫川は床に落ちた手紙を拾った。
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