プレゼント:石というよりグーは拳の意味です
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「グ○コって知ってるか?」
「……。」
階段にさしかかると同時の質問に神崎の目が点となる。
よく知られている会社の名前だが唐突にも程があった。
「…あれだろ?ポッキーだの出してる菓子メーカーの」
「それもあるけどジャンケンの方で」
「そっちな」
一応に二択を考えてはいたが、企業としての方を口に出した。
子供の単純な手遊びの一種だ。
お菓子にしたって、どちらかが食べている訳でもなければ、周りに空箱が落ちている筈もない。
「急にどうした」
「童心に戻ってやってみねぇ?」
「…はあ?」
俄かに怪訝されたが姫川は構わず話を続けた。
「グーチョキパーで進む名称は多少変えるとして」
「おーい、誰もやるなんて云ってねぇぞー」
「グーは『ひめかわたつや』な」
「無視か。……あ?何だって?」
「だから、グーは『ひめかわたつや』、パーが『かんざきはじめ』で、」
「意味解かんねぇっつの。異種にも程があんだろ」
「どっちにしても7歩ずつで公平だろ?」
無言で右手の指を折り、最初は自分の名前だろう。
次に左手も同じように指を折って、同じ本数の折り方に「あぁ」と納得する声が上がる。
姫川がフェアな条件を持ち込んでくるとは意外だった。
「そもそも、何でグーが姫川でパーが俺だよ?」
「言葉の解釈そのままだ。特にパーなんてな」
ニヤニヤとした声に強調された『パー』の意味を考えた。
パーとはよくアホだの間抜けだにも使われる。
現に花澤もパー子と呼んでいるのも、そういったことも含んでだ。…気付くと途端に神崎の口元が引き攣る。
「てめぇふざけんな!俺の何処がパーだコラッ!」
「あれ~?気付いちゃった?」
「パーっつったらてめぇのフランスパンのパーでいいだろ!そっちの方が合いまくりだ!」
「はいはい、解かりました。逆にしても数は一緒だからいいけど」
「数の問題じゃねぇ気持ちの問題だっ」
姫川もなまじ頭が回るだけに、妙な所はトンと抜けることがあるとは何度か見ている。
今の様子も神崎にすれば『パーの部分だから合ってんじゃねーか』と悪態をつきそうになった。
「んで?チョキは」
「『ひめかん』」
「ひめかん?」
「姫川の『ひめ』と神崎の『かん』を省略してのもんだ」
「『かん』っつーから空き缶の方浮かべたわ」
「違げぇ違げぇ」
「もしくは『姦』」
「……さっきの仕返しか?」
漢字を一文字違うだけでその先の意味がガラリと色を変えてしまう。
常用の言葉にはないのだが、姫川の中で妙な動悸がしていた。
グーは『かんざきはじめ』
パーは『ひめかわたつや』
チョキは『ひめかん』…というルールでジャンケン拳遊びが始まった。
因みに校内の階段で唐突なる開催だが、周りにギャラリーはいないものの見られたら一体どうなることやら。
始まりは、最初はグーである。
「「じゃーんけーん―――ぽん」」
姫川が出した手はパー、神崎が出した手はグーである。
「チッ…。」
「お先に失れーい。ひ、め、か、わ、た、つ、や」
「口に出して上がるのかっ?」
「そういうのも含んでの遊びだろ。やったことねぇのか?もしかして」
「あるけどよ…。つかお前がこの手の遊び知ってるってのが不気味だ」
「こんな俺でもそれなりにガキっぽい遊びは一通り知ってるんですけど。ほら、次行くぞ」
「へいへい。じゃーんけーんぽん。お、よっしゃ俺の勝ち」
にんまりと口を上げるが勝っても進む数は同じなのだ。
必然的に姫川の隣に並び、今度は姫川がにんまりと微笑んでいる。
「ほれ次だ」
「ちったぁ余韻に浸らせろよ」
「るせぇ」
「「じゃーんけーんぽん」」
姫川がチョキ、神崎がグーと連勝だ。
「続け様にお前に勝つって気分良いな」
「たかがジャンケンだろ」
「負けたからってムクれんな。か、ん、ざ、き、は、じ、め、っと」
並んだかと思えば7つ先に進まれ、上から「ほれ次」と催促が振ってくる。
「……神崎、次は俺パーを出すぜ」
「あ?」
「パーに勝つ手って云ったら1つしかねぇよな」
考えなくても単純にチョキが勝ちの手だ。
進む数などはフェアにしてきたが、出す手についてはブラフか、策略の1つか、本当に出すかと疑心暗鬼が広がる。
「ほれ行くぞ。じゃーんけーん」
「あ、ちょっと待てっ」
「ぽん」
出す一瞬で宣言通りに勝てるチョキか、裏をかいてパーかグーのどちらかを考えた。
が、神崎が出した手は単純にチョキ。そうして姫川は……グーと、こちらの勝ちだ。
「卑怯だぞ!」
「何処が。俺の勝ち♪」
それはそれは小憎たらしい笑みであった。
「か~ん~ざ~き~は~じ~め~~~っと」
先程と違って妙に語尾を延ばしながらゆっくりと上がってきた。
またも同じ段数を上がり、そこで「あれ?」と気付けたものがある。
「……姫川?まさかと思うが、ソレが云いたくて今のを?」
「何のことやら」
素知らぬ風に交わすも横顔がニヤニヤと笑っている。
名前などいつでも呼べるのに、こんな子供っぽい手遊びの中でも呼びたいが為に、戦略を用いてくる男にため息が出た。
「なぁ、踊り場の場合はどうするんだ?」
この手の遊びの場合は屋外がメインだ。
中でやるなら邪魔のない廊下ぐらいだろうが、校内の階段でやっているなら踊り場も当然出現してくる。
「階段の歩幅と同じに進むんだよ。この幅だと…4、5歩分ってとこか?」
「踊り場含めて進めだな。よし、次、じゃーんけーん…ぽんっ」
「ぽん。はい、また俺の勝ちー」
「絶ってぇ追いついてやる」
舌打ちを含めて見上げる視線。
熱くなっているのはどっちなんだかと、短く姫川は喉を鳴らした。
何度も繰り返されるジャンケン。
勝って負けて、時にはあいこで、次の手で勝負が決まる。
階段は無限にある筈もなく、次第に見えてくるのは終着点にもなりそうな屋上の踊り場だ。
そもそも勝負の結果をどうするかすら決めてないことに、本当に今更ながら気付かされた。
「ていうか何処まで進めばいいんだよ」
「……あ。」
これは先に云い出した姫川も考えていなかったらしく、どうしようかと顎に手を添えてその場で考え始めた。
「言い出しっぺならそういうのもちゃんとまとめとけっ」
神崎のツッコミは尤もである。
「じゃあ単純に屋上の扉の前。それならキリがいいだろ」
「扉の前っつったら…」
屋上の踊り場に続く階段の2段目に神崎、4歩後ろに姫川がいた。
珍しいことに神崎が勝利をリードしており、こういった拳遊びは強いのかと思うが単に強運も重なってだろう。
どの手を出そうが、このまま強運で進んでいけば遊び云えども姫川に勝つ。
喧嘩でも遊びでもゲームでも、例えばこんな拳遊びでも『勝つ』ことに喜びは感じる。
何であれ相手を負かすのは気分が良いものであろう。
「姫川、さっさと勝負決め……。」
見下ろす先ににいる男は何やら真剣な表情を浮かべている。
この場に及んで戦略を練っているのかと思うが、そんなことをしてもどうにもならないと鼻で笑っていた。
実際にジャンケンというのは単純だが、それでいて心理戦を含むこともある。
(………。)
頭の中でこれまでの神崎が出した手、パターン、お互いのゴールまでの残数といった情報が入り乱れている。
心理戦となれば姫川の得意分野だ。
情報さえ叩き込めばそれを分析し、どう転がるかといくつものパターンを描き、どれを摘み取っていっても良い方向に、とは造作もない。
ただイレギュラーが途中参加してくると脆くなる部分はあるが、相手をしているのは良く知れた男である。
「おい姫川、どうした」
「…いや?何でもねぇ。さて勝負と行きますか」
「望む所だ」
「「じゃーんけーん、ぽん」」
チョキで神崎が勝ち、パーで姫川の負けである。
「ひ、め、か、ん、っと。ほれ次だ」
「じゃんけん、ぽん」
今度はパーを神崎が出し、チョキを出した姫川の勝ちと、さっきの逆だ。
「ひ~め~か~ん。はい次のじゃーんけーんぽん」
姫川の手はグーを出し、
「ぽん、…お。……ひめかわたつやっ」
「何もそんな早い口調で云わなくても…」
神崎の手はパーを出し駆け足と共に7歩上に進んだ。
パーで勝ち進んだ時の神崎は必ずこうだ。
理由は訊かずとも解かるだけに、ため息で終わらせたことが何度あったことか。
「ダラダラすんじゃねーぞ。俺様の勝ちは目に見えてんぞ」
背後に迫っている屋上の扉に続く踊り場。
その手前の階段で神崎の足は止まって、姫川は真下の踊り場で止まっている状態だ。
単純にチョキを出して勝てれば神崎の勝ちである。
踊り場は歩幅の数にして4歩分だった。
だがあの姫川がそう簡単に勝たせる筈もない。
「お前がそこまで勝ち進められたのが、実は俺の計算の上で…とか云ったらどうする?」
「…は?」
心理戦は最初の時限りの姫川だった。
これもハッタリだと確信しながらも、妙に引っかかった言葉が頭の中でグルグル回る。
間の抜けた一瞬の内に、「じゃーーん、けーーん」とわざと時間を与えるようなゆっくりと開始の合図だ。
「「―――ぽん。」」
「…っ。」
「俺の勝ち。ひ~め~か~ん、と。」
4歩分進まれ、またも姫川が口を開く。
「考えてないようでジャンケンってのは考えるもんだよな?」
「確率はあくまでも確率で、絶対じゃないだろ」
「複数人いれば確率の実数も増えていくが、お互い2人で出す手も3パターンのみと算出は簡単だ」
「けっ。そんな数字で俺が掌で踊らされてたってか?冗談じゃねぇっ」
「俺の次の手はチョキだ」
この手のブラフには引っかかっており、ここでグーを出せば勝てるが、相手がパーを出してくれば負けだ。
「絶対だ。これは嘘じゃねぇよ」
ポーカーフェイスの中に薄笑みが浮かべられ、どっちつかずな表情だからこそ判断に困る。
裏をかいてパーを出してくると考えれば、こちらが出す手はチョキだろう。と考えているのを読まれて、相手にグーを出されれば負ける。かといってパーを出しても…と堂々巡りで神崎の眉間にシワが寄った。
「いくぞ、じゃーんけーんぽんっ」
姫川の合図と共に神崎が出した手は―――グーだった。
因みに姫川はというとだ。……パーと、またも神崎は引っかかってしまったのである。
「~~~コノヤロウ!!!」
「ククク…っ、お前面白ぇわ…っ」
肩を震わすほどの笑いの中で7歩分上がってくる。
姫川には解かっていたのだ。意外と神崎には単純なパターンがあった。
今回の場合はこうだったかもしれないが、やはり崩れなかった出す手のパターンを教えてやるほど親切ではない。
すっかり姫川の掌で踊らされ、これも計算の内だったのか、最後の最後で隣に並ばれた。
目と鼻の先のゴール。お互いにあと4歩分である。
「ここで新ルール追加」
「あぁっ?」
「こうやって並んだ時に、あいこが出たらその数だけ2人とも進むっつーもの」
「……また確率の問題絡ませてくんのかよ」
「さぁ?どうだろうな」
曖昧な言葉や態度は姫川は得意としている。
新ルールもある中で考えるべきなのは単純に勝つか、裏をかいて勝敗を分けるか、のどれかだ。
乗るか、反るか。
「……。(…面倒くせぇ…。)」
目の前にいる姫川のことを考えれば、意外と出す手は単純にも決まった。
「「じゃーんけーん―――…ぽん。」」
互いに出した手の形は、チョキ。
ジャンケンは三すくみ、堂々巡りの連続だ。
そこに心理戦を用いれば自然と発生するのは、相手の人となりを知っているか・知っていないか、となる。
「……けっ。」
パーでもグーでも、どちらの手で勝てたとしても一度折り返しが必要だ。
どうせなら折り返しなしできっちりと上がりたい気持ちもある。
そんなことを考えてしまうと、必然と4歩で決まるチョキを出した方が得策だろう。
あいこになるかは自然に任せるものだったが、姫川が最終局面で負けるだの、勝ちでも折り返す羽目になる手を出すとは思えない―――というのが神崎の考えであった。
「…ふふっ。」
最後になって新ルールを設けたのにはこの一瞬の為だ。
あいこになる確率も単純に割り出され、その上で4歩と解かりきった数字と、どの手がそのきっちりとした歩数に合うかと相手も自分も解かっている。
ぴったりな数字を出したいなら単純にチョキしか手はない。設けた新ルールは『並んであいこになったら同じ数を同時に進む』だ。
単純に勝ち手を出しても、あいこになっても、神崎はどちらにしても勝ちたい気でいるだろうから―――と、考えた場合に必然と姫川もチョキを出すだった。
「「…あいこ、だな」」
互いに出し合っているチョキの手を見つめ合っては、小さく肩を竦み、困りながらも解かっていた結果に笑うしかない。
チョキは4歩進めるジャンケンの手である。
「「ひー、めー、かー、ん…と。」」
同時に口に出しながら歩みを進め、前にした屋上の扉をそれぞれ開け放った。
眩しい光が瞼を差す。
それにも慣れた目で見たものは、浮かれた気分で跳ねたくなる程の抜けるような青空だった。
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