プレゼント:1人では小さな一歩でも
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―――広い敷地を囲む塀の角で停まる一台のタクシー。そこから出てきた姿に外へと出ていた組員は揃って「あ。」と声を出す。
「若、お早いお帰りで」
「週末は向こうでとか云って…」
「もう少しでアホなリーゼントが来るだろうから、てめぇら全力で追い返せ。…あぁそれと」
門扉を潜ってまたすぐに顔を出しながら付け足した。
「容赦なく、だ」
云い付けられる組員は一瞬ぽかんとしたが、自分達の若からの命に「了解」と答えつつ凶悪な表情とミスマッチだ。
宣言通りにまたも一台のタクシーが停まり中から出てきた姫川がダッシュしてきた。
「神崎いるんだろ!?」
「はいはい姫川の坊ちゃん、若が通すなってご達しだ」
「お帰り願いますかねぇ~?」
「ふざけんなよっ。おい神崎っ、か~ん~ざ~き~っっ」
「「近所迷惑なんだ喚くなゴラァっ!!」」
組員も充分なほどに迷惑だというツッコミはない。
足音だけでも怒っていると解かるドスドスと聞こえてきた足音に武玄は足と止めた。近付いてきた姿は自分の息子で疑問と共に声をかけた。
「どうした、忘れもんでもした……訳じゃないか」
形相が『恕』を示しており、無言で通る過ぎられては答えなくとも察するものがある。また何かあったのか。そんな息を吐いて間もなくすると今度はバタバタと忙しい足音だ。
「武玄さんお邪魔してますっ。神崎待てって!」
「……(やーっぱこいつとか)」
深く納得する存在が過ぎっていくなりその場で頷いてしまう。
部屋に入っていくのを最後に捉え、姫川も即座に突入した。
「てめぇのことは容赦なくっつっといた筈だぜ」
やはりでやって来た男を睨みつけながら舌打ちを一つ。
「スタンバトンでこう…バチッと」
「ふざけんな。うちの組員を何だと思ってんだ」
「威力は下げてる。一瞬動き止めただけだ」
歩み寄ろうと踏み込んだと同時に紙片を踏んだ音と感触が足の裏で感じた。破かれた先程選んだ物件の広告が当てつけのように見えた。
「何が不満だ」
「てめぇだ、てめぇに」
「あ?」
「姫川にその思考にその行動に言動にリーゼントにアホみてぇな金持ちっぷりにだ」
全否定される言葉の応酬に耐えながらも云い返しそうになる思いを鎮める。ここで逆上すれば火に油だとは経験からの学習だ。
「姫川お前、新居って意味をどう考えてる」
最初にあった怒りの表情も今では不満たっぷりな色を示し、下手に答えれば上段蹴りは確実だ。慣れた対応だとしても先に同棲の件を拒絶されているだけに今の姫川にはそれが一番痛い。
「どうって、そりゃ新しい生活の場として」
「模範的だが当然の答えだ。そこに住むのは誰と誰だ」
「神崎と、俺」
「そうだ。俺とお前の2人だ。あのマンションじゃなく別な場所でスタート切りそうだってのに何でそう一方的なんだ」
「うん?」
「俺が選んで姫川がそこを買う。そうして2人の生活スタート?…別にそれが悪いって云ってんじゃなく、意味解かんねぇよ」
時折姫川という男はトンと物事の重要性が抜けることがあった。本人としてはそれが相手が喜ぶだの良いことだと思っているが、それらを受ける神崎としては引っ掛かりを覚える。
今もそうだ。
「姫川がそのままだってんなら撤回どころか、むしろ最初からなかったことにする」
「何でそんな極端な答え…」
「俺は金で動かねぇぞ。…動かしたきゃ、心で動かしてみろよ」
思わず目を丸くする言葉だった。
金で動かない男だというのはすでに知り尽くしているが同棲の件でそう云われて妙な動揺が走った。
「物事の感覚違うからそりゃ仕方ねぇんだろうけど」
「……(…やべぇ)」
今の一言でピンときたのか姫川の表情が酷く渋られた。盲目点な部分は別なところで発揮すればいいのに、それが大事な場面でも出してしまうから神崎を呆れさせてしまう。他の誰でもない神崎との新生活だけを考えればこんなに怒らせる理由も答えに辿り着く。
金で動かないものはない、これが神崎に対しては最大の仇となる。
「頭じゃ神崎の方がバカだけど」
「あ゛?」
「気持ちじゃ俺の方が大バカだ」
「…今頃になって悟ったか」
「悪かった神崎」
リーゼントの頭を下げて謝る姿に小さく息を吐いた。少し遠回りして自身の心に到着するその道のりは時に面倒くさいと思わせた。それでも気付いてくれるだけマシだろう。
「心機一転の気持ち出してきたのはお前が先だぞ」
「…そうでした俺です。なら選んだ所を買うんじゃなく、神崎と見学なり検討してみたりって必要だよな」
「それと不満なのはてめぇが買うことにもだ。なんか…俺が甲斐性なしみてぇじゃないか」
「心意気は充分すぎると思うけど?」
「金銭面も生活するのに必要だろ。なのに金に関してはてめぇだけってのが無性に腹立つ。男としてのプライドがズタズタだ」
神崎は意外にも同棲を軽く考えてはいないことに驚かされるも、共に暮らす1人の男として見た場合、金銭面うんぬんは云う通りだと自身のバカさ加減に自嘲する。
「なぁ神崎…―――卒業したら一緒に暮らそう」
「あ?何云ってんだ」
「一度は約束を撤回されてるからまた改めて云ってみた」
「……。」
「駄目か?」
「……駄目じゃねぇよ」
OKとは云わないが否定でもない返事にふ、と笑みが零れる。
「じゃあ俺からも」
「?」
「卒業したら一緒に暮らしてやる。もしくは暮らすぞ姫川」
「…なんだよ…どっちもイエスorイエスしか云えねーわ」
思えばお互いに浮かれていたのかもしれない。頭では違うと解かっていても心の相違が妙な食い違うを生じてしまった結果だ。
新しく生活するならば、それが恋し恋されての間柄なら、尚更に心や思いを言葉にして話して語って、2人にとってよりよいものにしていく必要があった。
足りない部分を補うようにいた存在を盲目的にしてしまう…そんな相手に対して神崎も姫川も困ったように苦笑っていた。
***
「だ、か、らっ!階層分は要らねぇだろ!」
「だ、か、らっ!3階層分で手を打つ云ってんだろ!」
「3階っつーかワンフロアも要らん!バカに広い部屋1つありゃ充分だ!」
「んな訳いくか!誰かが泊まりに来た時の部屋も必要だろうが!他にもゲーム部屋とかあれやこれや用の部屋とか…っ」
「だとしても3階層も要るか!?半分負担する俺の身にもなれ!」
「それも話し合ったけどやっぱ家は俺が持って、光熱費だ食費は神崎持ちの方が妥当だって!」
「それじゃ同棲の意味ねぇ!折半する約束だろ!」
「俺達の間じゃそれも折半に入る!」
「入るかボケぇっ!」
とある日曜日の縁側にて。
日和も穏やかな休日に関東恵林気会神崎組の屋敷から響くのは若い男2人の怒鳴り合う声。時に止むかと思えば声を荒げ、また静まったかと思えば…を何度か繰り返している。
内容は神崎と姫川の同棲の新居についてなのだが、譲れないものがたっぷりとあるようで妥協も出来ずいつものように口論が絶えない。
しかし……。
「そんじゃあ俺達だけが住む部屋を折半して残りは俺個人の所有として買い上げりゃ文句ねぇだろ!」
「おぅそれなら構わねぇよ!最初からそうすりゃ良かったじゃねぇかこのハゲ!」
「ハゲてねぇわグルチ野郎!」
…と、こう口論しながらも折り合いをつける部分もあったりして怒鳴り合いもこの2人ならではの話し合いなのである。
だが端からすればただの喧嘩にしか見聞き出来ず、影でそれらを窺う武玄とその組員はため息を吐いていた。
「あんなんで生活できるんすかね?」
「俺達の若を信じようぜ。それより本当に許していいんですかボス」
「仕方ないじゃろ。言い出したら聞かねぇ面もあるんだ、あの息子共も。しかし一もすっかり嫁みてぇになっちまいやがって…」
「寂しいですか」
「まさか、何で息子なんかに。わしの涙は二葉たんがお嫁に行く時の為に…うぉぉぉぉ二葉たんお嫁に行かないでぇぇぇっっ」
((駄目だぁこの人も))
本家本元神崎組の面々に心配をかけられつつも、とりあえずは温かく見守る姿あり。
勿論神崎側に限ったことでもなく姫川側にもあることだ。
「御二人とも一度休憩なさっては如何ですか?」
「うぉっ!?蓮井何でうちにいんだよ!?」
「お台所お借りしました」
「そうじゃなくて俺の質問に答えろ」
「悪いな蓮井。お、玉露か」
「こちらの神崎組の皆様にも手土産としてお渡ししております」
「普通にうちの連中と馴れ合うなアンタも…。…あ、美味い」
「お口に合っていただけたようで何よりです」
恭しく頭を下げる蓮井も2人の新居選びの様子は傍らで微笑ましく見守る1人だ。難航しつつあるが少しずつ進んでいく2人に対してニコニコと笑みが絶えなかった。
「ん。なぁこれいい物件じゃね?」
「どれ。あー、悪くねぇかも」
「実物見てぇんだけど」
「早速に手配しよう」
大きな一歩を踏み出す時は共に、一緒に、二人三脚だ。
. END
シロウ様から、同棲パロでした!
まさかこの作品までプレゼントしてくださるとは!!
いただいた時、ガクブルしてまったく身動きできませんでした((((;゜Д゜)))
この2人ならありえる!
絶対住むとこで争いそう!
この一件で姫ちゃんもある意味成長したはず。
私も組員さん達とその光景をによによしながら観察したい(´∀`)
すぐ喧嘩するけど、それが姫神であり、
そのまま永久に爆発しなくていいと思います!
リア充リア充☆
シロウ様、ありがとうございました!!m(_ _)m