リクエスト:身内は過保護者ばかりです。
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「ヘリウムガスってのは意外と事故死があるものだから、あまりオススメしたくもないし、使いたくもなかったが」
文句を言いつつ、姫川もヘリウムガスを吸って声変わりしている。
「つーか必要ある?」と言うが、夏目は「何事も雰囲気って大事でしょ?」と楽しげに返した。
「あー、オレは見ちゃったんですー。そして知っちゃったんですー(棒読み)」
「姫ちゃん、雰囲気台無し。リーゼントもはみ出てるよー」
曇りガラスから、にょきっと出たリーゼント。
ヘリウムガスによる甲高い声で姫川は「うっせーなぁ」と呟いて不機嫌を表す。
「で、何を知ったんだ?」
話が進まないので城山は催促した。
「神崎がいかに無防備かってことだよ。あれは嵐の夕暮れ…」
「この間の台風の事ね」
「雰囲気出せって言った奴が揚げ足取ろうとすんな」
*****
突然の訪問だった。
インターフォンが鳴らされ、こんな時に誰が来訪してきたのかと思えば、神崎だ。
色んな意味で驚いた。
外は台風が直撃して最悪の悪天候。
神崎はその中をやってきたのだ。
「匿え」
「何から?」
「この暴風雨からだ!!」
いいからさっさと入れろ、と中に招いてやると、体中びしょ濡れの状態で上がり込んできたのだ。
「なんでこんな天気にオレんちに来るわけ? そんなにオレに会いたかった?」
「ふざけんな。買い物してたら予定より早く台風が直撃しちまったから避難しただけだ」
返答はわかっていたが、はっきり否定されてムッとなる。
「あらそ。危険承知で何買ってきたんだよ」
「コンビニのラーソン限定、ナタデココヨーグルッチ」
見た目はいつものヨーグルッチパックだが、確かに『ナタデココ入り!』と記載されてある。
「ストローでどう吸いだせと!? 酷じゃね!? つか、今買うてめーもどうなんだ!!」
「こういう日だから買いに行きたくなるんだ」
「はぁ…。たくましい挑戦心だな」
結果、ここに逃げ込んでくることになってしまったのだが。
姫川にとってはとても複雑な気分だ。
「とりあえず濡れたまんま歩き回んな。今タオル取って…」
「おう、頼むぜ。ついでに風呂貸してくれ」
神崎は大胆にもそこで全部脱ぎ始めた。
パァンッ、と姫川のサングラスが割れる。
「待て!! ここで脱ぐな!!」
「ああ? 水が落ちるだろ」
「そういう問題じゃねえ!!」
下着まで脱ごうとしたところで姫川は背を向ける。
「ああクソ! 早くフロ入れ!」
「んだよ…。あ、フロどこだっけ?」
「んなカッコでうろうろすんな!! こっち!! あ、間違えた、こっち!!」
露骨に狼狽しながらも神崎の背中を押して案内した。
「変な奴だな…。じゃあ借りるわ」
少しして、ようやくシャワーの音が聞こえだした。
心臓に悪く、姫川はソファーに座り、天井を仰いだ。
「先にオレが冷水浴びてくるんだった。なんだよあいつ、家でもあんななのか。自由すぎるだろ」
親も家の組員達も何も言わないのかと嘆く。
しばらくして神崎が浴室から出て来た。
今度はリーゼントが破裂した。
腰にタオルを巻き、別のタオルで頭を拭きながらすっきりとした様子でリビングに来たからだ。
「はぁ~。さっぱりさっぱり」
「お゛いゴラァ!!」
「ん?」
「なんつーカッコで出て来てんだ!! 着替え置いといたろが!!」
「あ、つい家感覚で出てきちまった…」
「い、家でもそんななのか!? 馴染み過ぎ!」
「着替えより先に風呂上がりのヨーグルッチ飲むからな。クセだクセ。わりぃわりぃ」
悪びれた態度ではない。
(ああ悪いぜ、心臓と股間にすっごくな!!)
このまま押し倒してしまいたいがぐっと堪える。
風呂上がりのヨーグルッチを飲んで、やっと用意した着替えに着替えてくれた。
姫川のシャツと半パンだ。
(彼シャツと彼パン…。やめろオレ、追い打ちかけるな…)
興奮で動悸息切れを起こす姫川に、神崎は「大丈夫か?」と声をかけた。
「せめてズボンにすればよかったな…」
「は?」
「いや、ヒマだし映画とか見ようぜ」
台風が過ぎ去るまでそれで持たせるつもりが、これもいけなかった。
(ええええええ)
映画を見る際、自然な動作で姫川の隣に座った神崎だったが、映画の途中で眠ってしまった。
姫川の太腿を枕にして。
寝心地がいいのか、スヤスヤと寝息を立てていた。
「フッ。笑えよ。何もできずに朝を迎えちまったオレを…」
「一瞬殺意湧いたけど、今は拍手を送りたいよ!」
「よく耐えたな!」
その時のことを思い出しているのか、ゲスになりきれなかったことの憂いの眼差しだ。
「ちなみに神崎君のパンツは? 何色? どんなパンツ?」
「教えない。オレだけの秘密」
「ずるいよ!! 隠し事はなしだよ!!」
「実はこいつが一番の要注意人物なのでは?」
今更な事だ。
この会議に参加させてしまっている時点で気付くのが遅い。
「そんな話聞いちゃったら、ますます心配しちゃうじゃん」
「あの無自覚さはむしろ罪だ」
「神崎さん…」
報告し合い、空気が重くなる。
ひと時も目を離したくない。
「いっそのこと、襲われても大丈夫なように貞操帯でもつけさせるか?」
「ていそうたい?」
知らない単語に城山は首を傾げた。
これで知っていたら逆に驚きだ。
「えーとね」と夏目はウィキで調べながら説明する。
ついでに画像も見せた。
「そんな代物が!?」
「これいいんじゃない?」
「いや、もうちょっとシンプルなデザインの方が…」
神崎に装着させる前提で商品を見る、姫川と夏目。
「鍵つきがいいよな、やっぱ。オレが管理するとして…」
「いやいや、鍵は譲れないよ。さり気なく美味しいトコ持ってこうとするのやめようぜ」
「買うのはオレで装着させるのもオレだ」
「四六時中一緒にいるわけじゃないんだから、もし神崎君がトイレに行きたくなったら…」
そこで2人同時にはっとする。
((トイレを我慢する神崎(君)…))
『も…、ムリィ…ッ、出…るからっ、早く…ぅっ、鍵ぃ……』
※トイレに行きたいだけです。
「おい、よからぬ妄想で興奮しているなら神崎さんの為に貴様らを埋めるぞ。公衆トイレの横に」
鬼を携え、シャベルを構える城山。
「何やってんだてめーら」
扉を開けて入ってきたのは、すでに下校したと思われていた神崎だ。
カバンを脇に抱え、教室にいる3人を怪訝な眼差しで見つめる。
「か、神崎!」
「いやこれは別に変なコトしてたわけでも考えてたわけでも」
「埋める予行練習ですっ」
「何をだ。死体をか?」
教室に足を踏み入れた途端に焦りだす姫川達。
まさか自分のことに関して会議が行われていたなど一欠片も思っていないのだろう。
頭にハテナを浮かべつつ、呆れてため息をついた。
「まあ別にどーでもいいけど、帰んぞ」
「気を遣わずに待っててくれなくてもよかったのに…」
「誰がてめーらに気なんて遣うかよ、バーカ。いつもならさっさと帰るとこだが、今日はアレだ…。外でメシ食いたい気分だし…、ひとりでファミレス行ってもつまんねーから誘ってやろうと思ったわけ」
3人の顔がキョトンとする。
神崎が夕飯に誘ってくるのは珍しいことだったのだ。
「どういう風の吹き回しだ」
「うるせーな。最近、ひとりでいるのがなんか面白くねーっつーか、退屈なんだよ。寂しいとかじゃねえからな? 言っとくけど!」
心当たりはあった。
神崎の身が心配で、常に一緒に行動を共にすることが著しく増えたからだ。
最初は鬱陶しがっていた神崎も、今では一人だと逆に落ち着かないのだろう。
自分から言い出したことを気にしているのか、3人の反応にそわそわとしている。
「ど…、どうすんだよ。行くのか? 行かねえのか?」
「し…、仕方ねえな。オレも小腹減ってるし、たまには外食もいいと思ってたとこだし…」
「行く行く! 超行く!」
「どこのファミレスにします?」
乗ってきた姫川達に、ようやく神崎が小さく笑った。
思えば、こうやって緩やかに笑えるようになったのは、何かと気に掛けてくれる姫川達のおかげなのだ。
守ってあげたくなるような表情をした神崎に胸をきゅっと締め付けられる姫川達は、神崎の内にある小さな感謝にいつ気付く事やら。
ちなみに、神崎の心配をしているのは何も姫川達だけではない。
「若が学校から出て来た!」
「例の連中も一緒だ」
「さっき、ファミレスに行くとか連絡が来たぞ!」
「他の奴らに伝達しておけ!」
「あいつら、堂々と若の隣に並びやがって、羨ましい!」
「見逃すんじゃねえぞ」
「若はオレ達が守るんだ!」
実家の親衛隊(組員)が遠くから護衛しているのだ。
神崎は身の危険が迫ろうが、姫川達や彼らがいる限り、ずっと無自覚・鈍感のままなのだろう。
彼らがその事に気付くのも、果たしていつのことになるのやら。
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