リクエスト:身内は過保護者ばかりです。
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放課後、男3人によるその会議は、空き教室で開かれていた。
机に立てられた、どこから誰が持ってきたのかわからない曇りガラスの向こうの人影は、頭を抱えながら口を開く。
「私、見てしまったんです…。先日、神崎君が…」
*****
その声は、ヘリウムガスで変声されていた。
雰囲気にノリノリに乗っかりながら言葉を続ける。
先日、夏目は神崎と共にいつものように学校に登校してきた。
下駄箱で靴に履きかえる際、神崎は自分の下駄箱に何かが入っていることに気付く。
四角い封筒、内容を悟らせるようにハートのシールが貼られてあった。
「神崎君…、それ…」
夏目はわずかに声を震わせながら尋ねる。
キョトンとしている神崎は、目つきを鋭くさせて不敵に笑った。
そして一言、
「今時果たし状とは…」
たぶん違う。
夏目は飛び出しかけた言葉を右手で押さえこんで呑み込んだ。
一応とばかりに神崎は封筒を雑に開けて中身を取り出した。
“出会った瞬間、あなたに夢中です。この想いをあなたに全力でぶつけたい。今日の放課後、屋上で2人きりで会ってくれませんか。ずっと待ってます。”
最後に相手の名前が書かれてあった。
どう見ても男の名前だ。
だが内容はどう見てもラブレターだ。
「上等だ。オレも全力でぶつけてやるよ」
神崎はくつくつと笑っていたが、おそらく手紙の主が望んでいるようなことではないのだろう。
*****
「放課後、オレが先回りしてお仕置きしておいた」
「おまえがやったのかよ」
姫川がつっこむ。
「神崎君が全力でぶつかったら屋上から蹴落とされてるよ。警告もしてあげたんだ、優しいでしょ? フフフ」
「ヘリウムガスの笑い声って怖いな」
そう言ったのは城山だ。
曇りガラスの向こうで夏目は嘆息する。
「ちなみにラブレター送りつけてきたのは一人だけじゃなかったり…。しかも男子校だったっけって思わせるくらい全部男!」
「まったく面白くねぇ話だ」
「最近校内で謎の男に襲われる事件があるが、まさかおまえ…」
城山が勘ぐるがあえてスルーする。
「まぁ、神崎君は元々面倒見もいいし、人望も厚いし、最近は初期の凶暴さも成りを潜めてきたから信者が増える一方だよ」
陰では親衛隊もいるという噂まで立っている。
側近としては複雑な心境だ。
誰かに認められ好かれることはいいことなのかもしれないが、行き過ぎて神崎が危険な目に遭わないか心配になる。
男からの熱烈な愛情表現があれば無視はできない。
なのに、当の本人がまったくと言っていいほどの無自覚・鈍感なのだ。
夏目、城山、姫川にとっては胃に悪い。
「ラブレターの件だけど、もういっそのこと、神崎君の下駄箱とかロッカーを回収した方がいいんじゃないかな。あ、下駄箱にトラップ仕掛けるとかは? 姫ちゃんやってよ」
「そりゃ名案だ、って言わせたいのか? そこまでやったら酷いいじめだからな? てめーは神崎を泣かす気か」
夏目の声も戻ってきたので、気を取り直して次の事例に移ろう。
「実はオレも…、見てしまったんだ…」
曇りガラスから巨体がはみ出そうが、城山はヘリウムガスの声で話す。
「少し前のことだが、神崎さんがあることに悩まされているらしくてな…」
*****
その日の放課後、神崎は机の横にかけた学生カバンを手に取って席から立ち上がった。
同行するのは城山だ。
「夏目は?」
「バイトで先に帰るそうです」
「あ、そ」
話の途中で夏目が「ひどっ。もうちょっとオレに興味持って」とショックを受けるが、無視して話を続ける。
そんな会話をしながら教室を出た時だ。
神崎のスマホから着信音が鳴り響いた。
ポケットから取り出して画面を見た神崎は舌打ちし、コールを拒否するように切った。
「またかよクソ…」
「姫川ですか?」
今度は姫川が「ケンカ売ってんのか城山」と文句を口にするが、こちらもスルー。
「ちげーよ。最近いたずら電話が多くてな」
「えぇ!?」
「それに、帰り道誰かにつけられてるような気がするし…」
「そういえば最近ピリピリしてましたね…」
ただでさえ沸点の低い神崎だ。
見えない相手にストレスもたまっている様子だ。
「何かある前にオレを頼ってください!」
またも途中で、夏目と姫川が「美味しいトコどり」とハモる。
さすがに話の腰を折られ続け、城山も苛立って「静かに聞け!!」と言い返した。
「おお。じゃあ早速コレ持ってくれ」
立ち止まって手渡されたのは、神崎のカバンとスマホだ。
怪訝な顔をする城山に、神崎は近くの男子トイレを指さした。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「はぁ…」
城山が思うほど、神崎は危機感を感じていないようだ。
大人しくトイレの前で神崎を待っていると、神崎のスマホが再び着信を知らせる。
画面を見ると、『非通知』と表示されていた。
これは切るべきだろうと思った城山だったが、相手がどんな人物なのか気になった。
そこで魔が差してしまい、気付けば通話ボタンを押していた。
しまった、と思った時にはもう遅い。トイレを確認しながら耳に当て、相手の声だけでも聴こうとした。
“ハァハァ…。神崎さん…、どんなパンツ履いて”
ブツッ
瞬時に芽生えた恐怖と嫌悪に負けて通話を切ってしまった。
「あ? 何震えてんだ城山」
「いえ…」
まさか城山が電話に出たと思わなかったのだろう。
神崎は真っ青の城山を見て小首を傾げた。
*****
「電話に出てしまったことの罪悪感と、相手の嫌悪感の板挟みでしばらく平常じゃいられなかった」
「石矢魔の良心が思い切ったことを…」
よく胃に穴が空かなかったな、と姫川は感心する。
「どこのどいつなのさ。ガチでそんな電話かけてきたの。名前まで知られてて気味が悪い」
聞いていた夏目も嫌悪でわずかに顔をしかめている。
「わからん…。どこかで聞いた声のような気がするし…」
「最近はどうなの? まだかかってくる? オレの出番?」
夏目は尋ねながら、着々とブルーシートとシャベルを用意している。
「プロ並みに準備早いなっ!? いや、最近は特に見かけてないが…。一応またあるかもしれんから相談したんだが…」
相談する相手を間違ったかと城山は戦慄した。
「ああ、その点ならオレが解決済みだ」
「「え!?」」
机に行儀悪く足を投げ出してスマホをいじっていた姫川があっさりと言った。
画面を操作して見せつける。
衛星写真だ。
神崎を尾行したり、公衆電話で電話をかけたり、盗撮している、南珍比良高校の神谷だ。
「こいつだ」
「「おまえかぃ!!!」」
めっちゃ知ってるし、要注意人物代表だ。
「これがお仕置き写真」
簀巻きにされた挙句、モヤイ像の頭にのせられてリーゼントの代わりにされている。
ちなみに、犯罪証拠写真とお仕置き写真の日付が同じだ。
「姫ちゃん仕事早すぎるよ!!」
「しかもこれ、渋谷じゃなくて本物の……。なんという島だっけ? トースター?」
とりあえず死んではいません。
「無人島じゃないだけマシだろ」
「問題解決で安心だけど、そろそろ何気に神崎君を衛星レベルで監視してることに関してつっこんでいいかな?」
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