リクエスト:執事の苦悩と御曹司の嫉妬。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
後半の送迎は、スマホのメールから姫川の希望で蓮井に変更され、神崎は住み込みの自室のベッドで横になっていた。
これほど頭を悩ませる主人がいただろうか。
神崎が驚いたのは、元・主人と話していただけで激昂した姫川だった。
聡明で冷静沈着かと思っていたが、あれだけで子どものように喚いた姿は見たことがない。
(なんか…、意外……)
寝返りを打ち、宙を見つめながら思っていると、ドアがノックされた。
「失礼します」
「蓮井さん…」
先輩執事で、数日前まで神崎の指導をしていた蓮井だ。
今は研修期間でもあった夏休みを終え、姫川の両親のところと姫川のところを行き来しながら仕事を勤めている。
神崎は身を起こしてベッドの端に腰掛けて頭を下げた。
「すみません、そっちの仕事は大丈夫でしたか?」
「はい。竜也様からいきなり連絡をもらった時は驚きましたが、ちょうど余裕ができた時刻だったので、ジェット機で戻って来れました」
今まで海外にいたというのでますます申し訳なくなる。
「ほんとすんません」
姫川の就寝を見届けたというのでまた姫川の父親のいる海外へ戻らなければならない。
蓮井は気にしていないように微笑んでいる。
それどころか疲れさえ見えないし、今まで見たことがない。
何度も思うが執事の鏡のような人間である。
「竜也様のご機嫌は…」
「愛らしく、ナッツを詰め過ぎたリスの頬ぼくろのように膨れて…」
「やっぱ機嫌悪かったのか」
蓮井といれば和らぐかと思っていた。
「神崎様が辞めてしまわれるのではないかと不安をこぼされていましたよ」
「…え?」
てっきり辞めさせられるのではないかと思っていたところだ。
神崎は聞き間違えたのではないかと顔をキョトンとさせる。
察した蓮井は小さく笑った。
「竜也様は自ら欲されたものは、そう簡単には手放しません。人を見る目がありますから…。今回は、男鹿様の方へまた戻ってしまわれるのではないかと嫉妬されただけですよ」
「……………」
姫川が欲したからここにいる。
思い出した神崎は気恥ずかしさで頬を赤らめ、「嫉妬って…」と呟き、困惑した顔で目を逸らした。
「私も、竜也様があれほど独占的な方とは思いませんでした。…どうか、お気持ちに応えてあげてください」
蓮井は一礼し、「ではこれから戻りますので」と言い残して部屋から出て行った。
それから数分後、どこからかジェット機が上空を通過する音が聞こえた。
(滑走路近っっ!!)
再びベッドに寝ようとしていた神崎は天井を見上げて内心でつっこんだ。
数十分後、今日一日の疲れに圧し掛かられた神崎は、簡単に眠りに落ちた。
それからほどなくして、息苦しさを覚えた。
「…っ?」
夢の底から意識を引き上げられた神崎はゆっくりと目を開け、目の前の光景に愕然とした。
姫川にキスされていたからだ。
目を閉じた、美術品を思わせる顔立ち。
一気に覚醒した神崎は姫川の両肩をつかんでどかそうとする。
「んんん…―――っ!?」
神崎が起きることは承知のうえだったのか、姫川は唇を離さず、神崎の手首をつかんで拒否を拒否する。
その力は姫川が子どもであることを忘れさせた。
「っ、や…ッ、ぅんん…!」
首を振って外せたのも一瞬。
角度を変えて再び塞がれる。
加えて、舌をねじこんできた。
「っ!? ぅ…、はぁ、く…っうん…!」
どこで覚えてきたのか、ねちっこく、けれど悪寒を感じないくらい上手いディープキス。
意識がぼんやりとしてきた時、姫川の右手が神崎の裾に手を入れて腹を撫でてきた。
「!! や…めろっ!!」
右手が解放され、力を振り絞った神崎は、どん、と姫川を突き飛ばした。
「つっ!」
よろめいた姫川はテーブルに腰をぶつけ、テーブルごと床に尻餅をついて倒れた。
「あ…っ」
そこまで突き飛ばす気はなかったのだが、身を起こした神崎は姫川が怪我を負っていないか確認しようとしたが、その前に姫川に睨まれ、動きを止める。
姫川の顔は、傷ついているように見えた。
「竜也…様…」
「もう学校まで送迎しなくていい…。元でも、おまえと、おまえが世話人間と話してるのみただけで…、すげぇムカつくし…、醜態晒しちまう…! オレだって学校行きたくなくなるし、そいつを2度と表に出られねえようにしたくなる…!」
姫川なら可能だろう。
しかし、そうしてしまうと神崎に嫌われるとわかっているからだ。
そこまで子どもではない。
「神崎…、てめーはオレだけの執事だ。もうあいつと関わんな!」
それが姫川の本音だ。
これが蓮井の言っていた「嫉妬」。
「……………」
神崎の不安は、姫川の不安だ。
ようやく自分が望んだ執事に会えたのだから、他人に横取りされることは怖いに決まっている。
神崎もまた、自分を「欲しい」と言ってくれた主人に、ましてや嫉妬までしてくれる主人に見限られるのは嫌だった。
「竜也様…」
神崎は姫川の目の前で片膝をつき、その手を取った。
「私の主人はあなただけ。お仕えするのもあなただけです。お忘れなく。私はいついかなる時もあなた以外に現を抜かすことは決してありません」
「……神崎…」
まるで愛の告白だ。
「竜也様、一つ、お願いがございます」
.