リクエスト:執事の苦悩と御曹司の嫉妬。
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翌日、神崎は今日も姫川を学校まで送り届けた。
「いってらっしゃいませ」
「……………」
姫川は何も返さず車から降りて校舎へ向かう。
(無視かよっ)
朝から一言も会話をかわしていない。
まだ昨日から抱え込んでいる不機嫌が持続している様子だ。
その原因もわからないので解決のしようもない。
余計なひと言で火に油を注ぐようなこともしたくないので、神崎からもあえて何も言わず、時間が経って鎮火してくれることに委ねた。
「はぁ」
息が詰まるような車内の空気からも解放され、ヨーグルッチを取り出すと横から肩を叩かれた。
「主人が見てねえからってため息つくなよ」
「あ、辰巳様」
「あー、べつに飲んでくれていいから」
ヨーグルッチをしまおうとした手を男鹿がつかんで止める。
「……おまえ、今はあの姫川の執事なんだって?」
「「あの」…ということは、ご存じで?」
「有名人だからな」
苦笑する男鹿を見て、悪い噂でも立っているのだろうと察する。
「有名人…とは?」
嫌な予感を覚えたが、気になるので尋ねた。
「とにかく金ひけらかしてなんでも解決させようとするし、人の弱み握るの好きだし、女とか色々手ェ出してるみたいだし、あ、この前先公脅してるの見かけ…」
「もう…いい」
頭痛がして途中で止めた。
よく問題沙汰にならないものだ。
すべて揉み消されているのだろうか。
「大変そうだな、あいつの執事なんて」
「ははは…」
否定もできず空笑いしかでてこない。
夏休みの間に振り回された出来事が脳裏を巡った。
「転々として大変だったんだろ? 今のところにちゃんと落ち着けているのか?」
「まあ、一応…」
振り回された思い出が邪魔してはっきりと答えられない。
「目ぇ逸らすなよ」
「神崎」
「「!!」」
校舎に入ったはずの姫川が戻ってきた。
男鹿と神崎が再び接触しているかもしえないと思ったからだ。
その予感は的中し、姫川は神崎を睨んでベンツを指さす。
「オレを送り届けたのなら、さっさと帰れ」
「え…と、一服してから…」
飲みかけのヨーグルッチを見せつけると、姫川はベンツのボンネットにコブシを叩きつけて怒鳴った。
「帰れ!! 男鹿! てめーもウチの執事にちょっかい出してんじゃねーよ!!」
鋭い目つきを男鹿に向け、胸倉をつかんで凄む。
「ちょっかいなんざかけてねーよ」
相手が拳を構えようものなら男鹿も黙って殴らられるわけにはいかない。
条件反射のようにコブシを握りしめていつでも迎え撃つ構えをとり、両者の間に火花が散ると神崎は慌てて間に入って険悪ムードの2人を剥がす。
「おやめください!」
「神崎、また怒られるぞ」
「気安く名前呼んでんじゃねえよ!!」
「あ? オレだってこいつの主人だったんだぞ」
「今の主人はオレだ!「元」は黙ってろよ!」
「「元」っつーな!」
「今更神崎が惜しくなったかコラ!」
「勝手に勘違いしてんじゃねえぞこのちくわぶ!」
「ああ!? 情けで学校入れてもらったくせに偉そうな態度してんじゃねえぞ中級野郎!」
「中級上等だコラァ!! 家柄がそんなに大事かよクソが…」
「おやめっつってんだろうがっっ!!!」
ゴゴン!!
間に挟まれだんだん低レベルな口喧嘩に下がりつつあったところで、耐えかねた神崎が2人の頭に拳骨を落とした。
まさかの不意打ちに男鹿と姫川は殴られた頭を抱え、鈍い痛みに悶える。
「い゛…っ」
「てめぇ神崎…」
「申し訳ございません。ダメな執事はとっとと帰らせていただきますっ」
まるで反省していないような棒読みを残し、神崎はベンツに乗って学校をあとにした。
「あ゛―――っ!! 中坊ってめんどくせぇ!!」
執事にあるまじき言葉だ。
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