リクエスト:それぞれの幸せを語りましょう。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【CASE:強気崎】
「……どーした?」
仕事から帰宅したへたれ姫は、薄暗い部屋の隅っこでうずくまる強気崎を見てぎょっとした。
強気崎は壁の方を向いたまま、手に持ったオモチャのねこじゃらしをみょーんみょーんと悲しげに揺らしていた。
とても声がかけづらい状態だが、放っておけば一日中そうしていそうだったので、へたれ姫はその背中を軽く叩く。
「神崎?」
「……ルッチが…」
ルッチというのは、この前捨てられているのを拾った子猫のことだ。
拾ったのはへたれ姫だが、命名者は強気崎である。
大事に可愛がっているその猫の姿は、強気崎がねこじゃらしを揺らしているのに飛び出してもこない。
そもそもどこにも見当たらないのだ。
「ルッチは?」
「……………いなくなった」
強気崎が帰宅すると、ドアの間から飛び出してしまった。
慌てて追いかけた強気崎だったが、階段を駆け下りた頃にはその小さな体を完全に見失ってしまった。
何度呼んでも声も聞こえず、数時間かけて探し歩いたのち、家に戻ってきて途方に暮れていたところだ。
「居心地が悪かったのか…?」
我が子のように可愛がっていたので強気崎のショックも大きかった。
「警察や保健所には?」
「届けたけど、それらしいネコがいねぇって…」
ルッチの首には水色の首輪があるため、野良猫と間違えられることはなさそうだが、こうしている間にも車に轢かれてないかと心配になる。
「そ、捜索隊を…!」
スマホを取り出したへたれ姫だったが、強気崎は電話を掛けられる前に「やめろ!」と払い落とす。
「ネコ1匹にそこまで迷惑かけられるか!」
「強がるなよっ。一番心配してるのおまえのクセに…」
「いいから! ちょっと休憩してから、また探しに行く…。オレの不注意だ。オレが……。おまえも探さなくていいからっ」
数十分後、強気崎は家を出て、ルッチの捜索を再開した。
しかし、どれだけ町を探し回っても、似たような野良猫を見かけるだけで水色の首輪をつけたネコは見つからなかった。
「ルッチー…」
夜が更けても、一向にルッチは見つからず、強気崎はまた明日探そうととぼとぼと帰宅した。
「みゃー」
「…へ!?」
ドアを開けると、玄関にちょこんと座ったルッチがそこにいた。
おかえり、と再び「みゃぁ」と鳴く。
「ルッチ…?」
しゃがむと胸の中に飛び込んできた。
「おかえり」
へたれ姫はフライパンを片手に玄関に現れる。
「なんでルッチが…」
「神崎が探しに出てる間に自分から帰ってきたぞ」
「は!?」
驚く神崎に対し、へたれ姫は苦笑混じりに話す。
「知らせようとしたけど、おまえケータイ持ってなかったし…」
「けど…っ」
「腹減ったろ? どっちのごはんも用意できてるから」
「みゃ♪」
「ごはん」の一声にルッチは短く鳴いた。
強気崎は怪訝な顔をしたまま、玄関から上がろうとしたとき、ふと、へたれ姫の靴に目を留めた。
高そうな靴なのに、泥が付着してすっかり汚れている。
続いて気になったのが、胸に抱いたルッチの匂いだ。
まるで風呂上がりのようないい匂いがした。
翌日、近所の住人から聞いたところによると、ルッチはマンションの近くにある空き地で他の野良猫と遊んでいただけのようだ。
何度か鳴き声だけで野良猫から誘いがかかっていたのだろう。
だが、遊んでいる途中ではまった溝から出られなくなってしまい、それを、ひっそりとルッチを捜しにきたへたれ姫に見つけられて救出されたそうな。
へたれ姫は強気崎がこれ以上負い目を感じないように、ウソをついたのだ。
*****
「迷惑かけないように捜索隊に頼らず、自力で見つけようってところが…、あのバカらしいっつーか…」
思い出した強気崎の口元は緩んでいる。
「オレにはもったいねえ旦那だ」
「あ、旦那って言った」と素直崎。
「酒が入るとデレが出るのか」と真面目崎。
「こんな緩みきった顔をしたことあったか、こいつが」と神崎。
「オレに怒られるのが嫌だったからじゃねーぞ? 変にオレが気を負わないようにだな…」
「わかった、それさっきも聞いた」
また同じことを語り出そうとする強気崎を素直崎が手で制して止める。
「なぁ、次はオレが語ってもいい?」
挙手したのは、屍化していたはずのヘタレ崎だった。
テーブルに頬をつけたまま、神崎達の方に顔を向けている。
「おまえが語りだすと発禁ものにならねーか?」
神崎の不安もわかる。
ヘタレ崎の相手は、あの鬼畜崎だからだ。
「オレだってなぁ、なにもエッチだけで幸せ感じてるわけじゃねーんだよぉ」
ヘタレ崎は口を尖らせ、呂律が回らずとも構わず語り始める。
.