リクエスト:それぞれの幸せを語りましょう。
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【CASE:素直崎】
投資家の計算姫と、専業主夫の素直崎。ある日、計算姫に変化が起きた。
ダイニングのテーブルに何冊も並べられてあったのは、料理本だ。
それを見つけた素直崎は、ソファーに座ってスマホから株の売買をしている計算姫におそるおそる声をかけた。
「……姫川? これって…」
「ん? あー…、悪い。片付け忘れたな」
「いや、片付けとかは別にどうでもいいんだ。…なんで料理本? 何か食べたいものでもあるのか?」
「神崎が作ってくれたものならなんだって食べるぞ。ヨーグルッチさえ混入しなければ」
(質問の意味わかってんのかこいつ…)
うまく噛み合わず、それでも甘い言葉に流され、素直崎は自分のために買ってきたのだと思ってそれ以上は何も聞かなかった。
しかしその夜、午前5時に目を覚ました素直崎は、隣で寝ていたはずの計算姫がいないことに気付き、眠い目を擦りながらダイニングへと向かった。
「姫川…」
どうも、隣に計算姫がいないと落ち着いて眠りにつくことができない。
ダイニングのドアはわずかに開かれ、そこから明かりが漏れていた。
ドアノブを握って全開にしようとした瞬間、
「計算の竜也様、生野菜というものを御存知ですか?」
ドアの向こうで計算姫と蓮井の声が聞こえ、動きを止める。
そっとドアからキッチンを窺うと、アロハ柄のエプロンをつけた計算姫と、黒のエプロンをつけた蓮井がそこにいた。
どちらも真剣な表情だ。
「……ああ」
計算姫は蓮井の問いに頷いた。
蓮井は手に持ったブロッコリーを姫川に見せつけ、意見する。
「お言葉ですが…、レタスやキャベツ、トマト、ピーマンはともかく…、けっして、ブロッコリーをそのまま盛り付けてなりません! 必ず、茹でるか焼くかしてください。硬いので。それと、必要以上に野菜を切り過ぎです」
蓮井が指さす方向には積み上げられたキャベツの千切りがあった。
どう見ても一玉以上切っている。
(……もしかして、あいつ…)
キッチンのカウンターに広げられた料理本を見る限り、蓮井に教わりながら料理を習っているのだろう。
疑問符を浮かばせていると、すぐに理由が判明した。
「素直の神崎様に、美味しい朝食を御馳走したいのでしょう?」
「…!」
計算姫は包丁を握りしめ、料理本を確認する。
「ああ。たまには…、オレから美味いもの食わせてやりたいからな…。しかし、料理って不思議だな。ひとつやり方間違うだけで味も違うし、きちっと計算されてて…、オレ向きだな」
サングラスを妖しく逆光させる計算姫。
蓮井は「開始早々苦戦されていますが」と微笑みながら呟いた。
それから2時間後、朝食のテーブルには、少し焦げたスクランブルエッグ、山盛りのサラダ、こんがり焼けたトースト、種入りのオレンジジュースが並べられたが、素直崎は文句ひとつ言わず、残さず食べきった。
自分のために作ってくれた計算姫の気持ちが嬉しくて、苦みも美味しく感じさせた。
*****
「あの不器用な味がすげぇ幸せな味でさぁ…。あ、本人はサプライズのつもりだったから、うまく驚いたフリはできた」
週に3・4回は料理を作ってくれるらしい。
一般的に「美味い」と言えるような料理ではないが、素直崎にとってはまずさなどまったく気にしない。
「胃も丈夫になったしな」
「いいことなのか?」
神崎は思わず口にしたが、本人が気にしていないのならそれでいい。
「次」
「へ?」
スプーンの先端を向けられた真面目崎は目を丸くする。
「次はおめーだよ、クソ真面目。新婚気分で甘ったるい惚気話の一つや二つ隠し持ってんだろーが。オレには負けるだろうがな。アッチの話以外で語ってみろや」
「つっつくな」
ほれほれ、と素直崎はスプーンで真面目崎の右頬をつつきながら促し、真面目崎は迷惑そうにそれを手で払っておしぼりで頬を拭く。
「オレの話…」
「オレも気になるな」
ビールの入ったグラスを片手に、酒の肴にする気満々の神崎。
真面目崎は仕方なさそうにため息をつき、口を開いた。
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