リクエスト:うちの嫁が一番に決まってます。
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その頃、化学実験室のある校舎の傍にある自販機では、神崎と東条がそれぞれ好きな飲料を飲んでいた。
「「はっくしゅん!!」」
同時にくしゃみが出てしまい、自販機に背をもたせかけていた2人は奇跡に近いタイミングに驚き、不思議そうに目を合わせる。
「神崎、風邪か?」
「いや…、どっかのアホが噂してやがんな…」
ヤンキー座りした神崎は、見えない敵を睨むように目つきを鋭くさせてヨーグルッチを飲む。
東条もスチール缶のコーンポタージュを飲んだ。
「…つか、帰らねえの?」
30分以上自販機の前に座り込んでいる神崎に、あとから来た東条が気になって問いかけ、神崎は宙を睨んだまま無愛想に返す。
「帰るも帰らねえもオレ様の自由だろ」
傍から見れば自販機の占領だ。
帰る前に自販機で温かい飲み物でも買おうとする生徒も、神崎の姿を一目見るなり引き返してしまう。
比べて東条は臆することなく普通に飲み物を買い、何気なく神崎の近くに立って温まっていた。
「…東条、てめーは?」
「禅さん待ってる。一緒に帰る約束してるし」
素直に笑顔で返され、困惑してしまう。
「おまえ、そういうこともさらっと言えるんだな。逆に尊敬するぜ」
「神崎も誰か待ってるのか?」
「よく見ろ。普通にヨーグルッチ飲んでるだけだっつの」
「それ、5箱目だろ」
指摘されたのは、目の前に縦に積み上げられたヨーグルッチのカラのパックだ。
5箱目も飲み終え、崩れないように上に積み上げる。
パックはぐらぐらと揺れるが、やがて安定して止まった。
「これがオレのフツーなんだよ」
立ち上がって自販機から再びヨーグルッチを買う。
「なんでオレ様があのフランスパンのためにこんな肌寒い中待ってなきゃなんねーんだ」
「オレは何も姫川なんて言ってねーぞ」
平然とつっこまれ、神崎は墓穴を掘ったことに気付いてその場で噎せる。
東条はからかうことなく、その背中を擦ってあげた。
その時、神崎のスマホが震えた。
わずかに噎せながら、神崎はそれを取り出して画面を見る。
姫川からのメールだ。
受信フォルダを開くと、“悪い。遅れる。長くなりそうだから、先に帰っててくれていい”と書かれていた。
神崎は小さく舌打ちし、返信も返さずポケットに戻す。
「…姫川からか?」
「違ぇ。迷惑メールだ」
「……遅いなぁ、禅さん…。……姫川も」
「だから待ってねーっつの!」
それでも神崎は、あといくつくらいヨーグルッチが買えるか、持ち金を確認した。
「ヒマ潰しにケンカでもするか?」
スチール缶を握りつぶしてゴミ箱に捨てた東条は、不敵な表情でコブシを構えた。
「おしるこ飲むか?」
「いいのか!?」
怖気づいたのではなく、単にやる気のなかった神崎は面倒なことに付き合わされる前に東条をおしるこで手懐ける。
その頃、まさか可愛い相方達が一緒に待っているとは知らず、化学実験室では長時間に渡る熱弁がふるわれていた。
早乙女はボードを引っ張ってきて必死に東条の良さを説明する。
「だから! 要は俗にいうギャップ萌えってやつだ! 考えてもみろ! 石矢魔東邦神姫最強と謳われる奴が、その気になれば手下増やして金を脅し取ることも可能なのにあえてそうせず、家計を支えるために必死であちこちバイトしてるし、そのくせ実はちっちゃいもの好きで、道端で野良猫とか見かけるたびに顔デレデレさせてんだぞ!!」
書く必要があるのか、デレ顔の東条と猫のイラストを描いてみせる。
普段の授業にはまったく耳も貸さなければ黒板に目も向けない姫川もこの時ばかりは真剣に聞き、席から立ち上がってボードをひっくり返して真っ白なボードに水性マジックを走らせる。
「ギャップ萌えは確かにいいが、ギャップ萌えに関してならうちの神崎が一番だ。残虐非道な極道息子のくせに、ヨーグルッチみたいな甘いモノが好きだったり、小さなガキに対して面倒見がよかったり、何より何度も言うが第一にツンデレという設定がいい!!」
こちらも書く必要があるのか、テレ顔の神崎とヨーグルッチのイラストを描いてみせた。
「ツンデレって面倒なだけだぞ」
「それはてめーだけなんだよ! 犬のように素直なやつよりも、猫のようにちょっとした気まぐれで見せるデレもいいんだ!」
「おまえSと見せかけてMか? あと、猫派か」
「そういうてめぇは犬派かよ」
「そうだ。あいつ名前は猫科っぽいのにな。神崎は逆だ」
「あ? あいつの名前のどこがイヌだ?」
「一(ワン)」
「ああ…。―――ってんなこたいいんだよ!!」
一瞬納得してしまったが、再び談義に戻る。
「そもそも、あの体だ、オレよりデカいんだぞ! 抱きしめにくくねえのか!?」
「図体デカいけど可愛いっていうのもギャップだろ。その点、おまえのは物足りなくねーか?」
「ちょっとした隙をついて額にキスできるこの身長差がいいんだろが。上目遣いも堪能し放題だ」
「上目遣い…。……されてた時もあったな」
思い出したのは東条が子どもの頃の姿だ。
あの時はこちらが見下ろしていた側だったが、今ではもうすっかり大きくなってしまい、目線も、もう屈まなくても合うようになってしまった。
一抹の寂しさを覚え、早乙女は目元に浮かんだ涙を袖で拭う。
「…どうした?」
「なんでもねえが、おまえ、子どもの頃の相方知らねえだろ」
痛いところを突かれ、心に槍が刺さる。
「年の離れたカップルで美味しいのが、相方の成長過程を楽しめるってことだ。オレは子どもの時のあいつと今のあいつを知ってるが、てめえが知ってるのは精々、今の神崎だけだろ?」
年が同じなうえ、初めて出会ったのが高校に入学してからなのだから当然のことだ。
だが、できることなら、幼少時代に神崎と出会いたかったという願望はある。
うつむく姫川に、早乙女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「おまえらと違ってこっちは長い付き合いだからな…」
「確かに幼少時代神崎をリアルタイムで見たことはねえが…」
不敵な笑みを浮かべた姫川はポケットに手を忍ばせ、数枚の写真を取り出し、ボードに貼っていく。
「とある伝手からもらった神崎の幼少期時代の写真だ! 成長過程もバッチリ! 赤ん坊から今に至るまでの18枚だ!」
生まれたてや七五三、幼稚園から高校に入学するまでがわかりやすく撮影されている。
「赤ん坊から…!?」
赤ん坊の東条を早乙女は知らない。
ショックを受けてその場に硬直した。
「く…っ、今度、虎の母親からもらってくるか…。伝手ってなんだ」
「おっとそれは言えねえな」
教師には言えないようなことをしでかしている。
それにしても、いつも持ち歩いているのか。
早乙女は気になり、背中を強めに叩いてみた。
「いてっ」
「あ」
案の定、姫川から大量の写真が床に落ちた。
どれも隠し撮りしたような写真ばかりだ。
「生徒指導室連れてくぞ、くそったれストーカー」
「生徒とデキてるってことバラすぞ犯罪教師」
2人の戦いはまだまだ続きそうだ。
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