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最初は見てるだけでよかった。
なのに、意識してしまえばどうしようもない。
日に日に気持ちは募っていくばかりで最後は抑えきれなくなっていた。
どこかへ吐きだしていいのかもわからず、呼び出して、結局自爆した。
それでおしまいだったはずだ。
なのに、またオレは同じことを繰り返そうとしていた。
精神的に成長したつもりだったのに、神崎を前にすると青臭かった自分が呼び戻されるような感覚だった。
視界に入れただけで抱きしめたくなってしまう。
その唇を奪いたくなってしまう。
半年が経過すれば慣れるものかと思っていたが、気持ちはまた募りだしていた。
募ったところで崩れるとわかってはいても。
「神崎…、次は何見る?」
「……………」
休日は映画観賞に使った。
新作で、オレと神崎が好きそうなアクションものばかりを選んだ。
床に並べると、神崎は迷った表情を浮かべ、包帯でぐるぐる巻きにされた手を当て、見たいDVDのパッケージを選んだ。
「これな」
部屋の電気を消し、DVDを挿入してからテレビの電源をつけた。
最初に流れるのは他の映画の宣伝だ。
オレが「次はアレとアレを借りてきてやる」と声をかければ、神崎も気になるのか何度も頷く。
映画が始まり、オレ達は画面に集中する。
内容はごくシンプルだ。
ひたすら銃の撃ち合い、クライアントからの依頼を必ず成功させようと躍起になる主人公、その道中で出会うヒロインとのラブシーン。
そのヒロインはマフィアの娘で、敵側に家族を目の前で殺されたショックで声を失っている設定だった。
ヒロインの設定に気付かなかったオレは、しまった、と内心で舌を打った。
そのヒロインは神崎そのもの。
心配になって横目で神崎を窺うと、神崎は映画に集中していた。
目を逸らすかと思ったがそうでもない。
オレは神崎の様子を気にしながら、映画を見る。
主人公はヒロインに一目惚れし、敵の攻撃から守りながら戦っていた。
手を繋ぎ、離れてしまわないように。
“無口なキミも素敵だけど、ボクの名前を呼んでほしい”
字幕で甘ったるいセリフが表示される。
オレだってその言葉が言えればどれだけいいか。
ラスボスも倒し、ラストシーンで、ようやくヒロインが主人公の名前を呼ぶ。
それでハッピーエンドだ。
けど、オレ達の場合、それでハッピーには終わらねえんだよ。
映画のように恋が実るなんて都合の良い話じゃない。
映画はハッピーエンドで終わり、エンドロールが流れていた。
気まずくてすぐには動けない。
「!」
もう一度神崎を見ると、目が合って驚いた。
オレはふいと顔を逸らし、神崎の頭を撫でる。
「お…、おまえは…、喋ろうと焦る必要ねえからな…。時間をかけた方がいいだろうし…。……つうか…、喋らなくていいと…思ってる……」
「……………」
神崎の顔が見れない。
この言葉をどう捉えたか。
「……次の映画見る前に、フロ、入ろうか」
神崎はテレビに目をやりながら、こくり、と頷いた。
お互い脱いで浴室に入り、いつものように頭を洗ったり背中を流してやった。
オレがこうしてやれるのも世界でこいつ一人だけだ。
あの映画を見たせいか、虚無感に襲われた。
オレはこいつを人形のように傍に置き続けるだけでいいのか、と。
ふと思った瞬間、噴水のように頭の中に不安が湧き上がった。
「…っ」
「!」
背中を洗っている途中で、オレはついに踏み切ってしまった。
泡にまみれた神崎を背後から抱きしめた。
ビクッ、と神崎の体が震える。
一度犯されそうになった恐怖心は半年経った今でも簡単に流れ落ちるものではない。
わかっていながらも、オレはその肌に触れてしまった。
「神崎…」
耳元で名を呼べば、肩越しにこちらを振り返る。
ちゃんとオレであると確認すると、肩の力が抜けたように感じた。
「悪い…。まだ、オレ、おまえのこと好きだ…」
「……………」
発することはできないが、卑怯者と罵ってくれて構わない。
オレはまた足下から崩れようとしている。
拒絶されるかもしれないと頭の中で警告を出していても、溢れ出した衝動を止めることはできなかった。
ああ、オレもまだまだガキだな、と思った瞬間、オレは肩越しに神崎の唇を奪った。
柔らかくて、熱かった。
吐息も、そこにあった。
「っ…」
声は出なくとも呻くことはできるようだ。
「っ、ふ…っ」
口の中も当然熱く、逃げ惑う舌を絡ませて吸い上げる。
目尻に涙が浮かばせ、オレの欲をますます煽った。
シャワーの湯を出しっぱなしにしたまま、オレは神崎を浴槽の側面に押し付け、熱が満ちるまで何度もキスを繰り返す。
「神崎」
名前を呼びながら体のあちこちに赤い痕をつけ、強張った体を解してやる。
どこもかしこも温かい。
眉をひそめて紅潮する頬は、誰にも見せたくないと思わせる。
これでは体を狙われても仕方がない。
今度また神崎の体を狙う奴が現れたら、オレが徹底的に再起不能にしてやる。
「っ、っ、っ~…」
「ごめんな? 痛くしないから。…だから…―――」
神崎から大事なものを奪おうとしている。
2度と返せないものを。
「…!」
神崎の口元が動いた。
「ひ」「め」「か」「わ」
確かにそう動いた。
言葉にはまだ続きがあるようだ。
オレと目を合わせ、口元の動きだけで言葉を継ごうとする。
「っ」
けれどオレは目を逸らしてしまった。
拒絶の言葉を吐かれると思ったからだ。
「……悪い…」
正気に戻されたオレは出しっぱなしのシャワーを止め、神崎に手を貸して立たせ、浴室から出た。
とても映画の続きを見ようなんて気分じゃなくて、そのまま寝ることにした。
あんなことがあって同じ寝室で寝るわけにはいかず、同居生活で初めて、別々で寝た。
神崎はベッド、オレはソファーで。
明日はどんな顔をして会えばいいのか。
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