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「おまえが好きだ」
卒業する前にどうしても言っておきたかった。
だから、学校の屋上でオレは神崎に告白した。
神崎は戸惑いの色を見せ、オレから顔を逸らした。
「オレ、家があるから。……悪い」
そう言って逃げるように走り去ってしまった背中を今でも覚えている。
「嫌だ」とは聞いていない。
家がなかったら、おまえはオレのものになってくれていたのか。
オレなら、放り出してでもおまえを手に入れたいとさえ思うのに。
だが、神崎を責めるのは間違っている。
オレがおまえを好きになってしまったのが悪い。
「神崎…―――!」
オレはペントハウスまで走って踊り場から声をかけたが、響き渡る足音は遠ざかっていくだけだった。
*****
それから3年の月日が流れた。
「神崎」
テーブルを挟んで向かい側に座る神崎に声をかけると、宙を茫然と見つめていた神崎ははっとしてオレの方に顔を向けた。
「ほら」
フォークに一口サイズの牛肉を突き刺し、神崎の口元へとやる。
神崎が口を開けると、口内に入れてやり、しっかりと食むのを見届けた。
咀嚼が終われば食事が終わるまで同じことの繰り返しだ。
バランスもちゃんと考えてやる。
「美味いか?」
その問いに神崎は頷く。
口元は笑っていた。
「そっか。…終わったら、包帯を取り替えてやるからな」
また神崎は頷く。
一言も喋らず…、いや、一言も喋れないと言った方がいいのか。
目の前の神崎は、数か月前から体のいたるところを包帯で巻かれていた。
食事が終われば立ち上がり、オレの指示もなくソファーに座った。
オレは棚から包帯を取り出し、傷の具合を見る。
生傷はだいぶ消えたようだ。
「まだ痛むか?」
神崎は首を横に振った。
「よかった」
胴体や頭の傷はいいとして、問題は両腕と両手だ。
最初は首から包帯でつるされていたが、今はそれも取れて力なくだらりと垂れさがっている。
両手は未だに使い物にならず、食事をすることもままならない。
「手はまだ痛むよな?」
神崎は間を置いて頷いた。
申し訳なさそうな顔をしないでくれ。
「まだまだ時間がかかりそうだが、オレのことは気にすんな」
神崎は目を伏せたまま、また頷いた。
半年前、神崎は重傷を負い、声を失くし、オレのところへ来てくれた。
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