リクエスト:デートに妨害は付き物です。
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日曜日、姫川の押しに負けた神崎は、石矢魔商店街の出入口付近でケータイをいじりながら待っていた。
「何見てんだコラ」
その格好は普段の迷彩柄の服だが、頭にニット帽を被り、組員の者から借りたサングラスを装着している。
一目で神崎一だとバレないようにだ。
逆に、どこぞのチンピラかと悪目立ちしているが。
不審に見てくる者にはガン垂れて追い返す。
(あと5分…)
ケータイで時間を確認し、本日何度目かのため息をついた。
「プ。なんだそのカッコ」
不意に横から聞き覚えのある声が聞こえ、そちらに振り向く。
「おまえもな!!」
待ち合わせ場所に来た姫川の格好は、今からメンズ雑誌の撮影をしてもおかしくないようなシャレたもので、目にはいつもの色眼鏡、リーゼントを解いた髪は後ろでポニーテールにしていた。
確かにデートに行く格好だが、こちらもかなり目立つ。
現に、通行人の女達は、彼氏と一緒だろうが姫川に目を奪われている。
「カッコいーっ」
「モデルかな?」
「芸能人かもしれないよっ」
神崎にとっては面白くない言葉がそこら中から聞こえる。
言われている本人は対して気にしていない様子で、むしろ、神崎より遅れてきたことを気にかけていた。
「本当はもっと早く到着する予定だったんだけどよ、何度か足止め食らっちまって」
証拠として見せたのが、大量の名刺だ。
どこも芸能関係のものばかりだ。
(早くも帰りたくなってきた…)
神崎の目は遠くを見つめていた。
「変装する必要あんのか?」
「あんだよ」
「いつものカッコでよかったのに。どうせ、この特徴でバレるんだから」
手を伸ばした姫川は、神崎のアゴを指先でなぞり、唇と耳を繋ぐチェーンを絡めた。
「い、意味ありげに触るのやめろって…」
姫川の手首をつかんだ時だ。
「あれ? 神崎君と姫ちゃん?」
「神崎さん、ここで何を…」
「!!?」
知った声に名を呼ばれ、反射的に神崎は姫川を一本背負いし、地面に叩きつけた。
「ぐえ」
カエルが潰れたような声を漏らし、背中を強打した姫川は突然の不意打ちに目を丸くしている。
神崎が声をかけられた方を向くと、そこには同じ休日を過ごそうとしていたのだろう、夏目と城山がいた。
「み、見てわかんねーのかっ。けけけ、決闘だ!!」
「いだだだだだっ!!」
正体が一発でバレてしまい、半分パニックになった神崎は、姫川に逆エビをかけて誤魔化そうとする。
本気で腰骨がへし折られそうになり、姫川は痛みを訴えながら地面を何度も叩いた。
「懲りないねえ、姫ちゃん。というか、2人ともどうしたの、そのカッコ」
ギクッ、とした神崎は一度動きを止め、姫川はその隙に逆エビから抜け出して立ち上がり、服に着いた汚れを軽く払って神崎の手首をつかんだ。
「場所を変えようぜ、神崎。ここじゃまともに勝負できねーだろっ」
「わっ」
詮索される前に、姫川は神崎を引っ張って石矢魔商店街の方へと走った。
後ろから「神崎さーん」と声をかける城山の声も無視だ。
「いきなりバレてんじゃねーかっ。本気で技かけやがって」
「こんな簡単にバレちまうなんて…」
「うっせーよ。当然だろうが。もうとれこんなモン!」
「あ!」
サングラスを取られ、神崎と姫川は夏目と城山が追ってこないか確認しながら商店街を駆けた。
やってきたのは、ファミレスだ。
昼食の時間なのでそこで腹を満たすことにする。
ウエイターが席を案内しに来る前に客席を見回したが、知った顔はひとりもいない。
安心した神崎はテーブルに座り、姫川と一緒にメニューを決めてウエイターに注文した。
どちらも日替わりランチだ。
そのあとに神崎はデザートのイチゴパフェ、姫川はコーヒーゼリーを注文し、先に神崎のパフェがきた。
(人とのデートは恥ずかしがるクセに…)
恥ずかしげもなくパフェを注文し、目の前で嬉しげに頬張る神崎を見て姫川は、
(まあ、このギャップがカワイイんだけどなぁ…)
ギャップ萌えしていた。
「顔が気持ち悪いぞ」
「オレのことは気にせず食べろ。…あ、神崎」
「ん?」
「クリームが口に…」
身を乗り出した姫川は、手を伸ばし、神崎の口端に付着した生クリームを取ろうとする。
あわよくばそのまま自分の口に運ぶという甘ったるい光景を思い浮かべた。
「おお、おまえらか」
「「!!」」
姫川が注文したコーヒーゼリーを持ってきたのは、ウエイターの格好をした東条だ。
ここでバイトしていたようだ。
神崎は慌てて姫川の手を払いのけ、紙ナフキンで口元をごしごしと拭く。
(店員はノーチェックだった)
働く側に同級生がいるとは思わなかった。
コーヒーゼリーをテーブルに置いて「ゆっくりしてけよ」と東条は笑顔を向けるが、姫川はその笑顔が恨めしい。
東条がいることがわかった今、この店内で甘い展開は期待できない。
デザートを食べた2人は早々に店を出た。
「…は、腹ごなしにゲーセン行くか?」
「そうだな」
何事も前向きに行かなければ。
デートを始めてからそれほど時間も経過していないのだから。
格闘ゲームなどで白熱したあと、プリクラでも撮ろうかと計画したが、いざ足を運ぶと、
「グッナ~イ☆」
MK5+1がホッケーや格ゲーを楽しんでいた。
姫川は黙ってパンチングゲームの方へ歩み、そこにあったグローブをはめる。
姫川の殺意を察した神崎は慌てて止めて外へと連れ出した。
「放せ。コブシで挨拶してやる」
「やめとけって! まだ別のゲームセンターがあるだろ!」
騒動はごめんだ。
神崎は姫川の背中を押してそこへと向かわせる。
「パネェ―――ッ!!」
その奇声は顔を見なくともわかった。
烈怒帝留がクレーンゲームで人形を取っていた。
ちょうど邦枝がうまく取ったのを見て花澤が叫んでいる。
「姐さん鬼うまいッス!! うはーっ!!」
「由加、はしゃがないの」
「この調子でいっぱい取りましょう!」
「千秋も燃えてるわね」
神崎と姫川は黙って引き返した。
「暇人どもが」
「オレらも人のこと言えねえって」
わざとかと疑いたくなるほどの遭遇率に、姫川の苛立ちは目に見えて募っていく。
人前では手も繋げないので、寂しい手をポケットに突っ込んでいる。
すれ違うカップルに電撃を食らわせたくなるほど、どんどん心が荒んでいった。
(何もしてねえ…。ピンクなことはなーんにもだっ!!)
このまま家に帰るのも馬鹿らしい。
神崎がデートに慣れてくれるよう、デート場所を石矢魔町に選んだのが間違いだったか。
こうなったらヘリを呼んで別の町に移動するかとケータイを取り出そうとした。
「!!」
すると、不意に神崎に腕を引っ張られ、近くの狭い路地へと連れ込まれる。
「え」
「し…っ。そのまま振り返るなよ!?」
姫川を壁の代わりにし、神崎は先に見えたものから隠れるように姫川にくっついた。
「そしたらベル坊にまた電撃食らわされちまって…」
「ダブ」
「いきなり窓から蛾が飛び込んできて顔に迫ってこられたらオレだって泣きそうになるわ」
「害がないからいいだろ。飛んでるだけの虫だぞアレは」
「ダッ」
「オレも模様が生理的にムリだ」
そんな会話をしながら、ベル坊を頭上に載せた男鹿と古市が、2人が身を隠した路地を通り過ぎていく。
「あ、危なかった…」
「神崎」
「おわっ!」
肩をつかんだ姫川は、神崎を壁に押し付けた。
そのままキスしようとしたので神崎は右手で迫る唇を押さえつける。
「ま、待て待て。こんなつもりじゃ…」
「せっかくのデートなのに邪魔ばっかだったんだ。今こういう展開にならずにいつ甘くなれと? たまにはいいムードも必要だろが」
「ムード言うな。フランスパンに納豆ってくらい合わねえよ」
「おまえは期待してくれなかったのか?」
「オレは……」
どうして困る質問ばかりぶつけてくるのか。
甘い展開にいずれなることは期待してたが、どうしても羞恥心が勝ってしまう。
なのに、恥ずかしげもなくそちらに持っていこうとする姫川の強引さは、嫌いじゃなく、むしろそうでなければ付き合っていなかったであろうことさえ考えてしまう。
「姫川…」
上目遣いで名を呼ぶだけで、拒んでいないことを伝える。
付き合って数ヶ月だが、神崎の不器用な誘いは姫川には通じた。
「神崎…」
唇が至近距離まで迫った時だ。
「東邦神姫の神崎一だな」
先程、路地に入った神崎達を見かけていた他校の不良達が得物を手に集まってきた。
「近くで集会開く予定だったが、こいつぁラッキーだ」
「ああ。夜にパーティーが開けるかもな。東邦神姫の首をとれば…」
「そっちの男は身内か? 絡んでんのか?」
「関係ねえ奴はジャマだからとっとと帰れ」
リーゼントのイメージが強すぎるのか、誰も東邦神姫の姫川だと気付いていない。
プツリ…
「あ」
キレた音が聞こえ、神崎は目の前に鬼人を見た。
「邪魔してんのは…どっちだああああっっ!!!」
「「「「「ぎゃああああああっ!!!」」」」」
常備しているスタンバトンを取り出して鞭状にし、数人の男達を一撃で黒焦げにする。
「な、なんだこいつ…!」
「おい、あの警棒って…」
「ケンカか?」
「ダ?」
「あれ? 神崎先輩と姫川先輩…」
「ちょっと、なんの騒ぎ?」
「ケンカッスか?」
「つか、あいつらじゃない…」
「また会ったね、お2人さん」
「神崎さーん、助太刀しますよ!」
「バイトが終わって来てみれば、ケンカか!?」
その閃光と悲鳴で、他の石矢魔メンバーも集まってきた。
他校の不良達は顔を真っ青にする。
彼らが来た時点で、というか、姫川がブチ切れた時点で彼らの敗北は決定した。
不良達もそれに気づいて降参しようとしたが、謝罪しようが土下座しようが、憤慨する姫川が止まるはずがなかった。
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