リクエスト:デートに妨害は付き物です。
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ある日の石矢魔校舎では、石矢魔男子が盛り上がっていた。
「それでさー、彼女がど―――してもって言うわけよ」
「で、おまえどうしたんだよ!?」
「粘ったぜ。クレーンゲームで3000円使って見事に欲しがってるぬいぐるみ取ってやってよー」
「彼女も粘るよな」
「つかオレの財布にも気を遣ってほしいっての…。でも、「ありがとう」の一言で3000円使った甲斐があったなぁって…」
「このバカップルが。羨ましいことしやがって」
「夕食代も痛かった…。やっぱり彼女って金がかかるよな」
「おまえいつか全部むしりとられてポイされるって」
「バカっ。あいつはそんなんじゃねーよ。好き勝手言ってんじゃねえよ。オレらの愛ナメんなよ」
「うっわー。死ねよおまえ(笑)」
「悔しかったらおまえらも彼女見つけてデートに行けよ」
彼氏彼女がいる人物は関係が上手くいっていれば饒舌になり、ネタも尽きない。
周りの男女も興味を持ち、他人事とはいえ詳細を聞きたくなるものだ。
近くの席でそれを聞いていた神崎はため息をついた。
「朝から、くっだらねえ話しやがって…」
「オレ、黙らせてきましょうか」
コブシを鳴らして連中を睨む城山の腕を、神崎がつかんで止める。
「よせ。腹の立つ勘違いされそうだから」
「神崎君はデートしたことあんの?」
「あ? ……ねーよ。てめー、オレが彼女いねえからって…」
過去にも「彼女」という存在はいなかったが、現在、「彼氏」ならいる。
石矢魔生には内緒にしているが。
「そーゆーおまえはあるのか? 夏目」
「あるよー。普通のデートだけど。ごはん食べたり、ゲーセン行ったり、ボーリング行ったり…、でも、なんでもかんでも甘えればいいってもんじゃないよねー。襲われた時はちょっと引いたけど」
(((((襲われた!!?)))))
教室内にいた誰もがその話に食いついた。
夏目の方がそちらに関して豊富そうである。
そこで神崎は自身の眉間にちくちくと刺さる視線に気づいた。
そちらに振り返ると、自分の席からこちらを肩越しに見つめている姫川と目が合う。
そして、すぐに神崎は目を逸らした。
(なんでこっちガン見してんだ…)
何か言いたげであるが、どうせ面倒なことだろう。
神崎は頬杖をついて姫川と目を合わせないようにしたが、やはり視線が痛い。
この、穴が空きそうなほど見つめている姫川こそが、数ヶ月前から神崎と交際している「彼氏」だ。
その放課後、神崎は準備室に呼び出された。
相手はもちろん姫川だ。
放課後になるまで、ずっと神崎を見つめていたのだ。
「くっそ、反則だぞこのヤロウ」
メールで、“時間通りに指定した場所に来なければ、即刻放送部の奴ら脅してオレ達の関係を校内放送してもらう”と送り付けられなければ、無視して夏目達と帰ったものを。
「呼び出した理由はなんだよ」
神崎は苛立ちを含めた声で姫川に問い詰める。
窓際に立って神崎に背を向けていた姫川は、振り返り、少し溜めてから口を開いた。
「……神崎」
「断る」
神崎は手で制して拒否する。
「は!?」
「断る」
同じ表情で短い一言を繰り返した。
制された姫川の額に青筋が浮かび上がる。
たとえ恋人とはいえ、彼の沸点も極めて低い。
「まだ何も言ってねーよっ!」
「デートの誘い以外ならきいてやる」
いくら鈍感な神崎でも、男子たちのあの会話のあとで姫川に見つめ続けられれば呼び出された理由は大方察しがつく。
図星だったのか、姫川は「うっ」と唸った。
「……それ以外ねえようだな。じゃっ」
「待て!!」
神崎がドアを開ける前にそのドアを押さえつけた姫川は、神崎をドアに追いやるように迫る。
「デートしろ、神崎」
「だからそれは…」
「だっておかしいだろ。他のモブ共は恋人らしくデートしてるクセに、オレ達だけ家でただごろごろだらしくなく家デートって…」
「不満かよ」
「大いにな!!」
姫川がコブシをドアに打ち付けると同時に神崎の顔に唾が飛んだので、神崎は顔をしかめて服の裾で拭った。
「わがまま言ってんじゃねーよバカフランスパンが。頭の中まで発酵しちまったか? オレ達が付き合ってることは他の誰にもバレちゃならねーんだ。付き合う条件を忘れたとは言わせねえぞ。とぼけたことひとつでも抜かしたら、てめーはオレを裏切ったってことですぐに別れる。これも忘れたわけじゃねーよな?」
お互い、守らなければいけない立場がある。
第一に東邦神姫の威厳だ。
それを崩さないよう付き合うのが、神崎が告白を受ける前に出した条件だった。
「……忘れるわけがねえ…。けどな、だからってお尋ね者じゃあるまいし、コソコソ会って家で隠れるように過ごすのはもうまっぴらごめんなんだよ。…オレだって、外で神崎と手ぐらい繋いで遊びたいわけだし…」
「簡単に言ってくれるぜ」
「簡単なことだろ。オレ達は男同士だし、誰が、東邦神姫の神崎と姫川が結婚を前提にお付き合いしてるなんて思うよ?」
「コラ。さりげなく面倒な前提入れんじゃねえよ」
言い返すと、姫川の顔が、ずい、と神崎に迫った。
「神崎、聞けよ。デートはしたいが、おまえの威厳を公衆の面前で壊そうなんてこれっぽっちも考えてねえよ。オレ達はただ、堂々としてればいいんだ。後ろめたくこそこそしてんのは、おまえらしいことなのかよ」
今度は神崎が唸る番だった。
最後に痛いところを突かれ、言い返す言葉が見つからない。
「神崎…」
なにより、姫川のこの声に弱い。
姫川が金を見せびらかせずに直接神崎に頼んできている。
姫川のねだりは他の者達には一生縁がないものだ。
それでいつも落とされる神崎だが、今回は負けじと睨み返す。
が、また名前を呼ばれて見つめられれば数分ともたない。
(あ―――も―――っ)
髪を掻き毟りたくなるほど、自分の甘さが憎らしい。
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